障がいのある労働者の支援を妨げる「健常者優位主義的な思い込み」

 もう一つの説得力のある例が「慈悲的な健常者優位主義」だ。これは、障がいのある従業員に対する同情、保護、ひいきといった、善意に基づく問題のある行動を指す。マネジャーは健常者優位主義的な思い込みにより、しばしば障がいに対する自身の定義を押しつけ、組織における健常者優位主義的な規範を強固にする「インクルーシブな」環境をつくろうとする。

 アカデミー・オブ・マネジメント・ジャーナルに掲載された筆者らの保護就労施設(シェルタードワークショップ)についての縦断的研究では、障がいのある労働者は、職場におけるインクルージョンの取り組みの多くが、同情に根ざした力の不均衡に基づいていると答えている。

 シェルタードワークショップは、ケアと保護という名目で、一般社会との接触が制限され、隔離された施設で障がいのある労働者に雇用を提供している。善意のあるマネジャーはしばしば、障がいのあるすべての労働者が同一の支援や援助のニーズを持つという単純化された前提に基づいて、インクルージョンの取り組みを考案する。これはパターナリズム的、あるいは労働者を子ども扱いするアプローチで、不平等を永続させる。

 しかし、マネジャーがみずからの誤りを直視し、防衛的な立場や尊大な振る舞いを捨て、障がい者の潜在能力を引き出す機会を提供すれば、変革を起こせるかもしれない。そのためには、「伝える」から「聞く」コミュニケーションにシフトし、インクルーシブな行いを促進するために行動を変える必要がある。

 このコンテキストにおける取り組みの一例として、シェルタードワークショップの中で遂行できる仕事を割り当て、一般の人々との関わりを制限するものがあった。このような仕事には、金属加工、工業用組立、梱包、出荷といった仕事が含まれる。

 対照的に、インクルーシブな手法の成功例が、障がいのある労働者やその代表者と協議して設立されたファーマーズマーケットだ。農産物を販売しながら、シェルタードワークショップの外の人々と直接関わることで、労働者は新たな自信、自主性、エンパワーメントの感覚を得た。彼らがこれまで思い描いたことも、責任を与えられたこともなかった仕事をこなす能力に対する自信を高める、目を見張るような体験だった。マネジャーもまた、保護しようとしたり隔離された環境をつくったりして、意図せず労働者の可能性を抑圧していたことに気づいた。これは、マネジャーが障がいのある労働者の保護者から真のアライに変化した、重大な転換点となった。

職場での慈悲的周辺化に対処する3つの重要戦略

 インクルーシブな職場をつくる上で、マネジャーは組織における平等を単なる流行り言葉以上のものにするために、慈悲的周辺化を理解し、撤廃することに時間と資源を投資しなくてはならない。

 多様な環境でこの現象を研究した結果をもとに、善意を越えることを目指すマネジャーのツールとなる3つの重要なインサイトを提示する。

1. 支援からエンパワーメントへ視点を変える

 インクルーシブな職場づくりを追求する中で、支援を提供するという従来のアプローチは、意図せず不平等なパワーダイナミクスを助長するおそれがある。

 マネジャーは不利な立場にある人を対等な同僚として見なければならない。しかし、これは口で言うほど容易ではない。筆者らの調査結果では、実務家が変化に抵抗し、深く定着した構造とそれがもたらす利益を維持しようとする可能性があることが明らかになった。

 マネジャーは保護主義から、自己決定とエンパワーメントへの重大な転換のために、変化への抵抗に立ち向かう必要がある。そのためには、マネジャーは内省し、みずからのパターナリズム的な思い込みや偏見を省みて、それらを問わなければならない。

 マネジャーは、自分と大きな力の差がある人々と接する際、表に現れにくいパワーダイナミクスを認識し、対処すべきだ。信頼関係を築き、積極的に耳を傾け、相手の行動の背後にある感情に気づくことが重要なステップとなる。自分のパターナリズム的な行動について、同僚やメンター、コーチに率直なフィードバックを求めることは、内省、感化、改善に不可欠だ。

 最後に、周辺化された人々の視点に対しては、たとえそれが自分自身の視点と異なるものであっても共感を示し、善意であろうとなかろうと、その人たちに代わって決断を下すことは控えなければならない。

2. 非管理職のアライを活用する

 組織全体で慈悲的周辺化に効果的に対処するには、不利な立場にある個人の固有の関心に沿ったものになるように取り組みを調整しなくてはならない。しかし、そのためにはマネジャーやダイバーシティ担当の幹部以外の人々の協力が必要だ。

 周辺化された従業員が直面する経験や課題をより身近に感じている支援スタッフ、親しい同僚、友人などの仲介者の力を活用することが重要だ。こうしたアライを特定し、指名するには、周辺化されたコミュニティを積極的に支援している人物を探し出さなくてはならない。

 アライを選ぶ方法の一つは、周辺化されたグループに匿名投票に参加してもらうことだ。それによって、彼らが信頼している個人を、コミットメントの実績に基づき、インクルージョンの擁護者として選出することができる。

 たとえば、あるシェルタードワークショップでは、障がいのある労働者がアライに投票する機会が与えられ、その後、経営陣と協働してインクルージョンの取り組みを改善した。このようなアプローチは学術界でも見られ、若手または不利な立場にある教員の利益を代表する委員が投票によって選ばれることがよくある。

 組織はまた、インクルーシブな環境づくりに積極的に貢献するアライを認め、彼らに報いる必要がある。マネジャーは、アライシッププログラムやリソースグループを導入し、アライに合わせた研修やツールキットを提供することで、周辺化された同僚をサポートするために必要なスキルを身につけさせることができる。

 この指導では、目に見えないバイアスの特定、慈悲的周辺化の事例の発見、日常的な交流や意思決定プロセスにおける周辺化された同僚の積極的な支持と増幅といった、課題に取り組むべきだ。より一般的には、組織は、パターナリズム的な行動を防止するために、支援スタッフや同僚が方針や慣行の改善について内密に意見を提供できるフィードバックチャネルや投書箱を設けることができる。それらのフィードバックを定期的に見直し、それに基づいて行動を起こすことで、組織は包摂性に関する「有言実行」の努力を示すことができる。

3. 不利な立場にある個人に責任を委譲して、支援の場をつくる

 慈悲的周辺化を克服するには、周辺化されたグループが自由に自己表現し、パターナリズム的または尊大だと思われる行動を通報できるような、公式および非公式の支援的または安全な場を職場に設ける必要がある。

 しかし、周辺化された従業員を従業員リソースグループ(ERG)などの形で集め、さらなる支援なしに彼らがエンパワーメントを高める集団を形成すると期待するだけでは不十分だ。真のインクルージョンは、そうした場にいるすべての人の多様な経験とユニークなニーズを認識することが必要であり、その人たちがみずからその場を形成する選択肢を持たなければならない。

 組織は支配をやめ、不利な立場にある個人がみずから職業生活を形成できるようにしなければならない。そうすることで組織は、現状に挑戦し、既存のパターナリズム的規範に打ち勝つために、自信を与え、勇気づけ、鼓舞する環境になる。

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 善意に基づきながらも隠れた障壁が前進を妨げている場合、効果的なダイバーシティプログラムの構築は困難だ。エビデンスに基づく上記の3つの戦略は、すべてを網羅しているわけではないが、真のインクルージョンを推進するためのたしかな出発点となる。

 支援からエンパワーメントへの視点の転換、隠れたアライの特定、支援的な場をつくるための責任の委譲は、長い間沈黙させられ、話を聞いてもらえないと感じてきた人々にプラットフォームを与え、誰もが耳を傾けられ、評価されていると感じる職場をつくるための重要なステップだ。


"How Managers Can Dismantle 'Benevolent Marginalization'," HBR.org, July 07, 2023.