企業の慈善活動が不平等を永続させるという矛盾
Jayme Burrows/Stocksy
サマリー:善意の支援が引き起こす弊害に対処するにはどうしたらよいか。企業のダイバーシティへの取り組みでは、保護主義的なアプローチにより「慈悲的周辺化」という現象を引き起こす可能性がある。組織の中心的なグループが... もっと見る弱い立場にあるグループを支配してしまうのだ。本稿では、筆者らが10年以上行ってきた調査に基づき、この問題に対処する方法を提案する。 閉じる

善意から生まれる弊害を克服する

 一日しかもたない魚を与えるのではなく、一生食べていけるように魚の釣り方を教えるべきであるという古いことわざは、不利な立場にある組織の人々を単に助けるのではなく、エンパワーすることにも当てはまる。

 企業のダイバーシティへの取り組みは、目覚ましい勢いで増加している。これは、多様な労働力の確保と差別に対して集団で戦うことには利益がある、という考えに後押しされている。組織がインクルーシブな職場づくりを進める中でよく見られるのが、不利な立場にあるグループに対するあからさまな差別や否定的なステレオタイプに、対処しようとする活動だ。

 しかし、こうした善意の取り組みは、重大なことを見落としている。ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DEI)の取り組みの多くは、不利な立場にあるグループが、権力者に援助されなければ無力であるという誤った前提の上に成り立っているのだ。このような保護主義的な考え方は、善意が弊害をもたらす、見過ごされがちだが深く懸念される「慈悲的周辺化」という現象を引き起こす。

 慈悲的周辺化とは、支配的なグループが、弱い立場や周辺化されたグループに対して、自分たちの行動が支援的で彼らと連帯しているとしながらも、パターナリズム的に支配している場合に起こる。周辺化されたグループの地位向上を目指す、見せかけの善意の行動の裏には、微妙な力の不均衡が存在する。マネジャーは、思いやりのある支援が感謝されると期待するかもしれないが、周辺化された人々にとっては、従属的な秩序を規範として受け入れるか、内面化するよう圧力をかけられ、さらにはその見返りとして感謝を示すことを期待されていることになる。

 筆者らの分析は、多様なコンテクストにおいて実施した10年以上にわたる広範な調査に基づいている。インタビューを実施し、記録文書を活用し、微妙な形で周辺化された個人を観察した。また、社内の活動家やマネジャーが慈悲的周辺化を克服するために積極的に支援し、アライとなるなどの重要な役割についても調査した。

微妙な差別が男女不平等を永続させる

 慈悲的周辺化は、さまざまな集団に対する微妙な差別として現れ、差別を受ける集団が介入したり異議を唱えたりしにくくなるため、そのような集団に属する人々の昇進を妨げ、組織の不平等を永続させる。

「慈悲的性差別」のシナリオを考えてみよう。あからさまな性差別的態度は減少しているものの、女性は依然として微妙な形の差別に直面しており、それが女性役員の少なさの一因となっている可能性がある。女性はしばしば騎士道精神に基づく保護を必要とする「弱い性」としてステレオタイプ化されるが、一見すると好意的なこの扱いは男性優位を隠し、負の結果をもたらすおそれがある。たとえば、女性が職場で困難な仕事から遠ざけられると、意図せずステレオタイプを助長し、自信を喪失させ、最終的に仕事のパフォーマンスを妨げる。

 慈悲的性差別に関する3年にわたる研究で、筆者らは女性だけのネットワーキングの取り組みに着目した。組織内のダイバーシティのガイドラインに不可欠な要素とされるこうした取り組みは、女性を支援するために男性マネジャーが考案することが多い。しかし、女性たちはこうした取り組みを、ダイバーシティのノルマを達成し、見せかけの包摂性を高める表面的な試み、あるいは単なる形だけのものであると認識している。取り組みの多くは、男女格差を克服する負担を女性に負わせ、女性を均質なグループとして扱う一方で、男女不平等を助長する根本的な構造的な偏見(システミックバイアス)に対処していない。

 逆説的だが、筆者らの調査では、女性たちはそうした取り組みに参加する義務があると思いながら、恩着せがましさを感じ、「ていねいな拒絶」を経験していた。女性たちはまた、「マンスプレイニング」にも直面した。これは、女性はこのようなテーマについて知識が乏しい、あるいは劣っていると思い込む男性が、ネットワーク構築の複雑さについて尊大に、あるいは恩着せがましく説明するものだ。こうした経験をすると、女性は幻滅し、取り組みから遠ざかってしまう。

 しかし、女性が取り組みを主導し、個々のニーズに合わせて調整することで、目覚ましい変化が起こる。それを実現するには、さまざまなレベルの上級職の女性と協働して多様な意見が出るよう促し、メンターシップやスポンサーシップの機会を提供することが必要だ。そうすることで、女性がオープンかつ真に参加できる場を創出するインクルーシブなネットワーキングの環境を育まなければならない。

 筆者らの調査によると、女性はネットワーキングの試みにおいて戦略的かつ長期的な視点を採用し、強力な関係を築くためのフォローアップを優先し、昇進のための具体的な目標を明確にし、これらの取り組みの継続的な評価と改善に取り組む必要がある。その結果、女性はエンパワーメントの感覚を得て、ジェンダー不平等と集団で正面から立ち向かうことができるようになる。