リーダーが相手の心を開かせるための3つの接し方
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サマリー:優れたリーダーシップとは、人々に「自分を見てもらえている」「聞いてもらえている」と感じさせながら、彼ら同士を結びつけていくことにほかならない。分極化が進む現代、リーダーはこれまで以上に人々に優しく接し... もっと見る、その心を開いてもらうことで、より強いリーダーシップを発揮できる。筆者はこれを「心のこもったコミュニケーション」と呼び、3つの接し方を提案する。 閉じる

心のこもったコミュニケーション

 あらゆる対人コミュニケーションにおいて、リーダーは優しすぎるくらい優しくあるべきだ。筆者はそう信じている。この考え方は一見シンプルに思えるが、特にいまのような時代には、それを貫く勇気が求められる。

 私たちの世界には、互いのつながりに悪影響を与えるさまざまな問題が潜んでいる。たとえば、集中力の欠如を考えてみよう。誰かが携帯電話の確認をしたり、他の作業を同時並行で進めたりすることもなく、最後まで会話ができたのはいつだっただろうか。あるいはスピードに関してもそうだ。私たちは、自身の行為が他人にどう影響を与えるのかといった人間的な意味を顧みることなく、次から次へと物事を実行している。

 しかし、人々が他人に優しくしたいと思わないと、このような問題から逃れるのはいっそう難しくなる。エデルマン・トラストバロメーターの最新の調査では、特定の社会問題や政治問題に関して強い感情を持っている人のうち、「自分と見解が異なる人を助けるだろう」と答えた人の割合は、わずか30%だった。政治的な分極化が進み、すべてが政治的な主張になりつつある(パンデミックから生まれたマスク論争もそのひとつだ)。おそらくこうした結果、職場で無礼な振る舞いが蔓延しているのだろう。

 筆者は政府、ビジネス、政治の世界で40年間働き、現在はファイザーのエグゼクティブバイスプレジデント兼最高コーポレートアフェアーズ責任者を務めている。企業の最高レベルのコミュニケーションに携わってきた経験から学んだことがある。優れたリーダーシップとは、人々に「自分を見てもらえている」「聞いてもらえている」と感じさせながら、彼ら同士を結びつけていくことにほかならないことだ。そのためにも、世の中のトレンドや衝動的な反応に逆らって、筆者が呼ぶ「心のこもったコミュニケーション」を実践しよう。

 心のこもったコミュニケーションには、人と人とのつながりを促す小さな仕草や全体的な態度が含まれる。シニアリーダーにとって、さらにはリーダーを目指す人にとって、日常的なやり取りだけでなく、重要で複雑な難しい会話においてもこの種のコミュニケーションが大切である。これによって、より強い人間関係を築くことができ、尊敬されるリーダーとしてのプレゼンスを得られる。さらに創造性やレジリエンスを高め、最終的により強いリーダーシップの発揮につながるのだ。

 以下、実践するための3つの方法を紹介する。

相手の心を開くため優しく接する

 筆者は、険悪な状況に直面した時こそ、最大限優しく振る舞おうと心がけている。

 たとえば、上院公聴会のような厳しい環境に出向く時、あるいは好戦的な弁護士から問いただされる時、筆者は最初にこんなふうに言う──「本日はお招きいただきありがとうございます」。笑顔を浮かべ、心からそう思って口にする。ここに来たのは、誰かを妨害するためではなく、相手の話を聞いてその人に貢献するためだと示す。

 このあいさつによって場の雰囲気が明るくなり、相手も話を聞くようになる。このように切り出すのには勇気がいるため、あなたの成熟度を示すことにもなる。そして、より創造的で生産的な問題解決へとつながる。

 誤解してほしくないのだが、怒ってはならないという意味ではない。たとえば、相手があなたやあなたの家族を傷つけたのなら、怒りの反応を示すほうが適切だ。しかし、相手の心を開き、相手の心を動かすための最も効果的な手段は怒ることではない。怒りは相手の心を閉ざしてしまうが、優しさは人々の心を開くのだ。

 また、リーダーであるあなたのコミュニケーションは、常に注目されている。あなたが怒りっぽい人だと思われたら、重要なネガティブ情報は届かなくなるだろう。怒りっぽい不安定な組織文化が築かれると、人々は重要なリスクや問題について発言しにくくなる。すると、組織は危機に対して即座に対応できなくなるのだ。