クルセーダー型から協調型のリーダーへと移行するには
職場で変化を推進するのに、より効果的なアプローチは、協調型リーダーのマインドセットを身につけることである。協調型リーダーは近視眼的な視点に固執せず、関係を構築し、組織の力学や抵抗される理由を理解し、その情報を活かして、戦略的かつ開かれたやり方で変化を主張する。ここでは、より協調的なリーダーになるための6つの方法を紹介しよう。
組織の文化を理解する
好むと好まざるとにかかわらず、私たちがどれだけの影響を及ぼせるかを決めるのは、最終的には影響を及ぼしたい相手である。そして影響力は状況に大きく左右される。主張を譲らず、自分の置かれた状況を理解しないまま突っ走るのではなく、組織内の物事の仕組みを見極めるのが賢明だ。
何がうまくいくのか、あるいはうまくいかないのか、手掛かりを探そう。会議では、どのような行動が報われ、どのような行動は効果がないのかに注意を払う。組織で最も成果を上げているリーダーを観察し、ある状況にどう対処するかと直接尋ねてみてもよい。組織内で成功しているリーダーとあなたのアプローチに違いはあるだろうか。ゲームの「ルール」を理解すれば、ずっとうまくプレーできる。
勝てる戦いを選ぶ
クルセーダー型は、大きな物事を変えることを提唱する傾向がある。だが、腹立たしいことにそうした事柄は複雑であり、勝利連合(支持勢力)を必要とする。また場合によっては、本人が変化を起こすのに適任ではないことがある。
たとえば、あなたがソフトウェア会社のマネジャーで、ソフトウェア開発のプロセスと会社の採用戦略の両方に非効率な面があると気づいたとしよう。あなたは情熱と欲求の促すままに、両方の問題に取り組もうとするかもしれないが、採用戦略の見直しはより複雑な問題であり、有効な取り組みをするには協調する努力と幅広い連合が必要になる。
もし採用戦略という領域で戦いをして、すぐに変化が起きなければ、フラストレーションや燃え尽き症候群(バーンアウト)、信用の喪失を招くかもしれない。また、ありがちなのは、採用を担当するチームがあなたの取り組みに自己防衛的に反応することである。あなたのエネルギーとリソースはむしろ、ソフトウェア開発プロセスの合理化に集中させたほうがよい。あなたの専門能力を考慮すると、その領域ならば重要で意味のあるインパクトを与えられるかもしれない。
フィードバックを求める
他人はあなた自身よりも、あなたを客観的に見ているものである。研究によると、人は自分がある状況でどう振る舞っているかに気づかなかったり、自分の行動を誤って記憶したりしていることがあるので、自分自身を正確に認識しているとはいえない。クルセーダー型の人は自分のビジョンに没頭するあまり、重大な事実や観点を見逃して、状況の把握が不完全なことがある。
あなたのアプローチがどのように認識され、次回はどうすればさらに効果が上がるかを理解するために、忌憚のないフィードバックや提案を求めよう。これは、クルセーダー型から協調型のリーダーシップに移行するための、変革の(そして酔いを覚ますような)ステップである。自己認識が養われるうえ、チームの力学や士気、生産性に与えかねない悪影響も含めて、あなたの行動の結果を総合的に把握することができる。
関係を形成し、活用する
あなたの考えを支持する人々との勝利連合を形成し、促進することが、極めて重要である。組織とは、外から止めたり方向転換したりすることが難しい、重い荷馬車であると想像してみよう。リーダーは自分一人で荷馬車を押したり引いたりしようとせずに、荷馬車に乗り込んで御者(馬車で馬を操る人)と一緒に中から操るべきである。このアプローチでは、組織内で関係と連合を築いて、あなたの考えを支持してもらい、意識を共同所有することが必要だ。
「荷馬車に乗り込む」簡単な方法は、支持者と連合を獲得するために、あなたの考えとほかの人の考えの足並みを揃えることである。たとえば、あなたが研究者で、職員の離職率の高さを懸念しているとしよう。会議の中で、人事部の同僚が従業員エンゲージメントの向上という目標について話したならば、あなたは職員の定着への懸念を個別に主張するのではなく、両方の問題に取り組める共同プロジェクトを提案するとよい。
たとえば、従業員エンゲージメントを高めて離職率を下げられるような戦略を組み込んだパイロットプログラムを、あなたの部署で実施するのだ。そうすれば、あなたの取り組みは人事部のニーズや懸念と一体化し、ほかの人々はあなたと人事部の提案を支持しやすくなる。
ほかの視点に心を開く
人に影響を与えるためには、あなた自身も影響を受けることに心を開かなければならない。ほかの視点に目を開かず、自分の限られた視界からしか世界が見えない人とは、誰も「交渉」したいと思わない。
むしろ、困難や解決に対する別の視点に純粋な好奇心を持つことを心がけよう。自分が好むアプローチの足場を固めたり強調したりするのではなく、あなたと見解を異にする同僚に、自由に回答できるような質問を投げかけ、共通の観点を見つけ出すとよい。
あなたには、自分の観点と専門知識に基づいて、問題と解決を結ぶ線が見えるかもしれないが、ほかの人にはその軌道がそれほどはっきりと見えず、その結果、望ましい戦略を実行するのに難儀するかもしれない。どうすれば首尾よく変化をもたらせるかについて共通理解を築けなければ、正しい決断でも悪い結果をもたらすことがある。
長期的目標に焦点を合わせる
長期的変化をつくり出すには、長期的目標に焦点を合わせ続けることが必要である。時には、クルセーダーであることが正当化され、適切なこともある。特に、緊急の対策が必要で、あなたに変更の権限がある時はそうだ。だが、そうした状況はめったにない。もし大胆な長期的変化を実現したいのならば、たった一度で実現する可能性は低いし、独力で実現できる見込みはほとんどない。
あなたの中のクルセーダーに向き合い、次の3つのことを問おう。これは私が解決すべき問題か。一人で解決する必要があるか。いま、解決すべき問題なのか。そこに焦点を合わせると、本当に重要な問題に対して、適切なレベルの長期的ビジョンを用意できる。そうすることで、あらゆる問題と戦う必要もなくなる。
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いかなる組織も、変化を避けては通れない。だが、情熱的なクルセーダーだったキャシーが気づいたように、変化をどう推し進めるか、そのアプローチによって変革の成否は分かれる。
長期的変化を実現することは孤独な冒険の旅ではなく、本来、共同作業である。多様な観点を尊重して包含し、戦略的焦点を維持し、組織の力学の複雑さを忍耐強く切り抜ける協調的なマインドセットを自分のものにしよう。それはあなたの情熱や主張を手放すことではなく、よりインクルーシブに、戦略的に、そして効果的に活かすことなのだ。
"6 Ways to Become a More Collaborative Leader," HBR.org, July 10, 2023.