
営業活動の変革を実現する「セールススプリント」
デジタル分野の急速な変化に対応するため、営業部門は戦略的イニシアティブに莫大なリソースとエネルギーを費やしている。だが、全面的な改革(営業チームの再編や、フィールドセールスとデジタルセールスを組み合わせたハイブリッド型の顧客エンゲージメント構築への移行など)であれ、さほど破壊的でない改革(新しい営業ノルマや営業テクノロジーの導入など)であれ、狙い通りのインパクトを上げられていない。その最も大きな障害になっているのが、優れた実行力の欠如だ。
営業チームにとって、新たな戦略の実行は非常に難しい可能性がある。営業は多面的な仕事であり、常に多くの選択肢がある。要求の厳しい顧客や営業マネジャー、マーケティングマネジャー、そしてデジタル技術など、あちこちから突つかれるため、営業担当者は一貫性のない行動を取りかねない。すると、長期的なチャンスを開拓するよりも、伸びしろが大きくない友好的な顧客に営業をかけたり、目先の小粒な成果を上げたりすることに注力してしまう。また、それまで築いてきた顧客との関わり方を乱すような新しいアプローチを取り入れることを嫌がる可能性もある。特に大型案件に関しては、こうした営業の結果が数週間後、あるいは数カ月後に明らかになる。
そこで、多くの営業チームが実行の問題を解決するために利用しているのが「セールススプリント」だ。これは営業活動の最初と最後に、営業マネジャーと営業担当者(またはアカウントチーム)が一対一のミーティングを行う期間を1~2週間の単位に区切ったものである。そのポイントは、戦略や目標を小さく管理しやすいタスクに分解して、営業チームが集中力を維持し、説明責任を果たせるようにすることだ。
セールススプリントは、技術開発の枠組みであるアジャイルスプリントと共通する部分がある。どちらも仕事を小さなセグメントに分け、関係者が頻繁にミーティングを開いて進捗状況をチェックして、調整する。ただ、始まりと終わりが明確に決まっているプロジェクトで使われるアジャイルスプリントと異なり、セールススプリントは顧客にとっての価値を高め、売上げを増やすプロセスを継続的に改善するという、日常的なマネジメントの単位だ。
セールススプリントは、そのストレートな名前同様に、非常にシンプルな仕組みだが、うまく実行するためには努力を必要とする。効果的に行うには、組織のオペレーションのリズムにこれを組み込む必要がある。営業チームの事務作業を増やすだけになってしまってはならない。スプリントが最もうまく機能するのは、営業管理プログラム(パイプライン管理、目標設定、コーチング、報酬など)を結びつける一元化されたデジタルプラットフォームにサポートされている時だ。さらに、営業マネジャーは組織全体のマネジャーと協力して、そのインサイトや経験を各スプリントでのディスカッションに持ち寄ることが求められる。
セールススプリントの運用例
世界的な鉄筋・ワイヤーメーカーであるデアセロは、幅広い製品を扱っており、顧客と長年にわたる関係を築いている。同社はアグレッシブな成長目標を達成するため、これまで営業チームが在庫品の受注を獲得するために力を入れてきた、取引型の「インサイドアウト」営業から脱却したいと考えていた。経営幹部は、市場動向を予測し、顧客を積極的に順位付けする、新しい市場中心の営業戦略「アウトサイドイン」が必要であることに気づいていたのだ。
そこでデアセロは、「ウィン・ザ・ウィーク」というセールススプリントを立ち上げて、新しいケイパビリティ(主要顧客の管理、ソリューション販売など)や活動(顧客の順位付けやプランニングなど)を少しずつ導入した。その目的は、営業担当者が個々の顧客の需要やニーズに意識を集中できるようにすることだった。短い研修を経て、営業マネジャーは、営業担当者が顧客へのアプローチ方法を決め、パイプライン(営業担当者が獲得した見込み客から受注するまでのプロセス)の価値を高めるためにスプリントを利用し始めた。
毎週金曜日に行われる50分間の一対一のミーティングで、マネジャーと営業担当者は次の3つのポイントを話し合った。