従業員を猛暑から守る6つの対策
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サマリー:猛暑が従業員の健康リスクを高め、生産性の低下を引き起こしている。企業には、熱中症予防対策、労働環境調整、柔軟な労働スケジュールへの対応に加え、従業員の休息確保や健康状態の監視などが求められる。これらの... もっと見る対策を通じて、従業員の安全と健康を守ることが急務である。 閉じる

猛暑は従業員に大きなダメージを与えている

 気温の上昇、記録の更新が続き、いっこうに治まる気配がない。米国全土を覆うヒートドーム現象「ケルベロス」のような熱波など、猛暑は「新たな日常」になっているようだ。それを企業が心配すべき理由はいくつもある。

 2021年のムーディーズのリポートによれば、熱ストレスは、ほとんどすべてのセクターが影響を受ける物理的リスクである。冷房費用の上昇や消費者需要の変化だけでなく、健康への影響から、熱ストレスは企業にとって大きな脅威である。猛暑は、疲労、けいれん、精神状態の悪化、糖尿病合併症、さらには脳卒中を引き起こす可能性さえある。どの属性の人にもかなりのリスクがあり、あなたの会社の従業員も例外ではない。

 世界保健機関(WHO)は、猛暑による直接的な健康コストに加えて、最も重要な経済的影響の一つとして、生産性の低下を挙げている。職場での熱ストレスにより、毎年総労働時間の2%が失われ、2030年までに年間4兆ドル以上の損失があると予測されている。したがって、高温注意報の対象者が1億人の米国人だとすると、従業員の3人に1人、会社の所在地によってはそれ以上の人が一定期間、危険にさらされることになる。

 自社の従業員が猛暑に襲われるという時に、冷静でいるのは難しいが、ヘルスケアにおける知見が参考になる。筆者は、企業リーダーに助言を与える国際的な組織で医師として働いているが、企業が熱ストレスに対する理解を深め、新たなベストプラクティスを取り入れて、従業員、ひいてはビジネスを守ろうとしているのを目の当たりにしている。この課題を乗り切るために考えるべき6つの対策を紹介する。

1. 予防的アプローチを取る

 企業はまず、熱ストレスとは何か、熱ストレスが従業員の健康と安全にどのような影響を及ぼすか、そしてそれをどのように予防できるかについて、従業員を教育すべきである。

 気温の高い環境において、人間は、体の余分な熱を取り除く能力によって、健康的な体内温度を維持している。これは、発汗と皮膚への血流増加によって自然に起こる。これが十分に迅速に行われないと、体温が上昇し、熱ストレスが発生する。

 従業員が熱ストレスを受けると、喉の渇き、興奮、熱発疹、熱疲労、あるいは熱射病に伴って、ろれつが回らない、錯乱、見当識障害、あるいは昏睡といった脳機能障害などの症状が現れる。熱ストレスはまた、タイピングなどの微細運動能力を低下させ、タスクに関連した情報を処理する能力を低下させることもある。

 猛暑の期間に従業員は、2種類の熱中症を併発する可能性がある。身体活動による「運動性熱中症」と、高温や多湿などの環境条件による「環境性熱中症」である。後者は、都市の気温が周辺の郊外部よりも大幅に高いヒートアイランド現象において特によく見られる。

 熱ストレスは、究極的には病気や入院、さらには死につながる。その深刻さを考えれば、上流での対策が重要である。米労働安全衛生局(OSHA)の推奨事項に沿った熱中症予防対策を、企業の安全衛生管理の一部として組み入れるべきである。

 猛暑の最初の数日間は、従業員にこまめな水分補給と休憩を促し、熱中症の兆候に素早く気づくことが必要である。

2. 「誰にとって」「どのくらい」が暑すぎる状況かを知る

 職場における暑熱暴露には、さまざまな要因が絡み合っている。熱ストレスが高いかどうかを判断するには、以下について評価を行うことが必要である。

・環境(湿度、日照、気流などの条件)
・仕事(身体運動や防護具使用の有無など)
・従業員(年齢、既往症、ライフスタイルなど、個人の一般的な危険因子)

 環境熱の体温への影響を測定する最も正確な方法は、湿球黒球温度(WBGT指数、暑さ指数)計を使用することであり、これは温度、湿度、日射(輻射)および気流を一つの指標に取り入れたものである。算出結果の使用と解釈の方法については、OSHAがガイダンスを示している。気温と湿度のみから算出するヒートインデックスでも、状況によって有用なデータとして代用できる。

 仕事に関連した身体作業のレベルは、代謝熱や作業強度の表を用いて推定する。作業強度は、軽いもの(座位、立位など)から極めて重いもの(激しい活動など)まで分類されている。また、作業者の衣類がリスクを増大させるかどうかに注意し、消防、農業、建設作業、鉱業、工場作業などを高温環境での労働として認識すべきである。

 従業員によって暑さに対する反応が異なるため、個人的な要因もリスクにつながる可能性がある。これには、65歳以上、妊娠中、特定の心臓病、高血圧、肥満、糖尿病、特定の薬剤を使用している社会的弱者が含まれる。性別による違いも考慮する必要がある。米国労働安全衛生研究所(NIOSH)は、女性のほうが熱中症になりやすいことを示す研究結果をいくつか報告している。