3. 室内の温熱快適性を最大化する

 オフィスワークにおける温熱快適性は、ウェルビーイングと生産性にとって重要である。暖かすぎると、従業員は疲労を感じたり、気分障害に陥ったりする。寒すぎると、落ち着きがなくなったり、気が散ったりして、集中力が低下する。

 オフィス環境の温度条件を一定に保つ。わずかなズレでもストレスの原因となり、パフォーマンスや安全性に影響を及ぼす可能性がある。すでにストレス下にある人は、不快な状況に対する耐性が低いため、要求の高い仕事やストレスの高い危機対応期間中は、温度が特に重要である。

 推奨ガイドラインに沿って温度を最適化する。米国暖房冷凍空調学会(ASHRAE)の規格では、冬は68.5°F(約20℃)から75°F(約24℃)、夏は75°F(約24℃)から80.5°F(約27℃)の温度範囲を推奨している。季節ごとの温度範囲の差は、被服の選択に大きく関係している。

 法律で特定の要件が定められている場合もあるため、企業はそれに準じることが重要である。一部の州では、連邦のOSHA基準だけでなく、OSHAが認可した州計画を採用し、ほかでは取り上げていない危険をカバーしている。たとえば、ミネソタ州では職場の室内空気温度の基準を定めており、作業強度レベルに応じた要件を設定している。同様に、オレゴン州では最近、労働者を保護する国内最高レベルの暑熱規則を導入している。

 推奨温度範囲は、従業員の80%以上の人のニーズを満たすものとされているが、基準値を満たしていても、不快に感じる従業員がいる可能性はある。温度に対するニーズや嗜好は千差万別であり、誰もが満足できる温度というものは存在しない。追加の対策が必要な場合がある。

 温熱快適性における差は、室内気候基準が男性の標準値に基づいていることに起因している可能性があり、女性の認知パフォーマンスに影響を与える場合がある。一般的に、女性のほうが家庭でも職場でも高い室温を好む。とはいえ、猛暑に関しては、一般的に女性のほうが高温に弱い。閉経後は女性ホルモンであるエストロゲンの分泌量が欠乏するため、急激な気温の上昇に適応するのが難しくなり、さらに暑さに弱くなる。

 温熱快適性は、活動レベル、日射量、気流など、温度以外の多くの要因によって決まるため、それらを最適化することが有効である。たとえば、ホットフラッシュの症状がある更年期の女性には、卓上ファンの利用を可能にし、または風通しのよい場所で仕事をさせる。

 職場をより快適にするための他の選択肢としては、仕事量やスケジュールの変更がある。たとえば、気温のピークを避けた就業時間や、シフトを短くして休憩時間を頻繁に設けるといった対策が挙げられる。

4. 屋外労働者向けの訓練と安全策を整える

 高温下での屋外作業が始まる前に、熱ストレスに関する研修を実施する。内容は、冷却効果のある作業着や装備の適切な使用法、薬物やアルコールが熱ストレス耐性に及ぼす影響、自分自身や同僚の熱中症の徴候や症状の即時報告、およびその症状への対応手順などである。

 監督者向けの研修を追加で実施することも必要だ。内容は、警戒アラートの監視、高温注意情報への対応、従業員に熱中症の徴候や症状が見られた場合の対応手順(救急医療サービスへの適宜連絡を含む)、水分補給の奨励、休憩の強化などである。

 訓練以外にも、工学的および管理的な対策を用いて職場の熱ストレスを軽減する。工学的対策とは、反射型や熱吸収型の遮蔽物の使用など、熱への曝露を減らすような作業場の設計変更などである。管理的対策とは、熱ストレスを軽減するようなタスクやスケジュールの変更であり、たとえば高温にさらされる時間を制限する、涼しい日陰での回復時間を増やす、作業ごとの労働者数を増やす、冷たい飲料水を十分に提供するなどである。また、個人防護具(PPE)を着用している間の熱負荷を軽減し、水冷式衣服や冷却ベストなどの補助的な冷却システムを検討することも重要である。

 その他の対策としては、多くの職種から成る作業グループ(従業員、医療資格者、安全管理者など)の設置、医療やセルフモニタリングに関するプログラムの用意、作業負荷を定量評価するためのウエアラブル端末(心拍センサーなど)の導入、従業員同士が熱中症の兆候を観察し合うバディ制度などがある。

5. 暑熱順化を実践する

 従業員には、繰り返し高温にさらされることで発汗効率を高めるなど、体を暑さに慣れさせるようにする。これは、気温が急上昇する中で作業を行う屋外労働者には特に重要である。

 企業は、従業員の熱への曝露時間と身体負荷を徐々に増加させ、計画的に順化を進める。通常、7~14日間かけて段階的に行う。新しく加わった従業員は、以前から暑さにさらされている従業員よりも順応に時間がかかり、また1週間以上業務を離れた従業員には、再順化が必要な場合がある。

 各従業員の順応レベルは、体力や経験した熱ストレスと相関がある。また、性差を考慮することも重要であり、適応までの熱への曝露の強度、頻度、期間は女性のほうが多く要する。現行のガイドラインは、男性に焦点を当てた文献を主に参照していることから、生理学的差異を考慮していない可能性があり、企業は新たな枠組みを模索すべきかもしれない。

6. 長期的なヒートヘルス行動計画を採用する

 猛暑が悪化の一途をたどる中、企業には長期的なアプローチが必要である。世界保健機関(WHO)のヒートヘルス行動計画に関するガイダンスには、特に有用な原則が示されている。

 航空会社が運航管理のために気象状況をチェックしているのと同じように、企業も気象に関する警告を発する正確でタイムリーな温度警報システムを利用し、対策を取るべき基準を定め、リスクを周知すべきである。地域の公衆衛生体制や緊急対応サービスとの連携を確立することも有効である。

 また、「何を誰にいつ伝えるか」といったコミュニケーション計画を立てるべきである。環境衛生に関わる複数の問題、すなわち猛暑と山火事による空気質の問題などにも同時に対処しなければならない可能性がある。こうしたことを踏まえ、情報伝達の効率化を図る。複数の非同期コミュニケーションで従業員に負担をかけないようにする。また、地域に応じた通信を準備する。

 ヒートヘルス行動計画には、短期・中期的な暑熱緩和方法を含める。たとえば、屋内での暑熱曝露の低減、屋外労働者保護の強化、社会的弱者へのケア戦略などである。長期的なアプローチの中には、従業員の通勤での暑熱曝露を軽減する建物の設計、立地、交通アクセスの改善に取り組む戦略的な都市計画も含まれる。

 こうしたヒートヘルス戦略の成果は、追跡評価すべきである。特に屋外労働者に対して、リアルタイムで観察と評価を実施し、屋内環境対策の監督も忘れないこと。質と一貫性が守られ、ASHRAEの勧告と地域の法的要件を満たしていることを確認する。航空業界における安全チェックリストや業界標準は特に参考になるだろう。

 猛暑は、企業の最大の資産である従業員のパフォーマンスや健康を大きく損なう可能性がある。今後このような猛暑が一般的になることを考えれば、企業は、現在そして将来の従業員を守るために、いままさに対策を講じるべきである。


"Protecting Your Workforce from Extreme Heat," HBR.org, July 20, 2023.