どうすればよいのか

 このような状況は明らかに問題だ。ダイバーシティ関連の取り組みを導入し、実行する権限を持っているのは経営者だが、彼らは自社でその種の取り組みを行うことの必要性を十分に理解しておらず、そうした活動をあまり積極的に支持しない傾向がある。

 この状況を打開するために、以下で3つの行動を提案したい。いずれも、筆者らの研究成果に基づくアイデアだ。

自社に関する肯定的な思い込みに疑問を投げかける

 筆者らはある実験で、実験参加者である経営者たちを2つのグループに分け、半分の人たちには、オフィスでの典型的な1日を描写するよう指示し、もう半分の人たちには、オフィスにおける不平等の具体例を描写するよう指示した。そのうえで、実験参加者たちに、自社の余剰予算の一部をダイバーシティ関連の取り組みに割り振るという状況を想定させ、どれくらいの金額を振り向けるかを尋ねた。

 すると、前もって職場における不平等の実例を思い返すよう促された経営者たちは、そうでない経営者たちに比べて、ダイバーシティ関連の取り組みに振り向けるお金が30%多かった。こうした現象は、経営者以外の人たちの場合、経営者たちほどはっきりとは見られなかった。職場における不平等を思い返した実験参加者が振り向けたお金は、そうでない実験参加者よりも10%しか多くなかったのだ。

 このような違いが生まれるのは、具体的な不平等の事例を思い返させることにより、動機づけられた推論が揺さぶられるからだろう。職場の不平等を直視させられれば、その後も自社について肯定的な評価を抱き続けることは難しくなる。

 セールスフォースのベニオフにも、まさにその通りのことが起きた。社内に不平等が存在すると指摘された時、最初は、そのようなことはありえないと否定した。しかし、具体的な証拠を突きつけられると、問題の存在を認めて、数百億ドルの資金を注ぎ込んで、ジェンダーに基づく格差の緩和に取り組むようになった。

 また、セールスフォースは、不平等を是正するための別の有効な戦略も採用した。データを一覧できる仕組みをつくり、給料、能力開発の機会、昇進、パフォーマンス評価に関する不平等について記録するようにしたのだ。

 ダイバーシティ関連の取り組みに対する社内の支持を高めたいと考える企業は、経営者たちに対して、定期的にこの種のデータや事例を検討するよう義務づけてもよいだろう。

自分の「うちの会社ではありえない」バイアスについて検討する

 筆者らが行った別の実験では、経営者たちに「うちの会社ではありえない」バイアスに関する筆者らの研究をまとめた短い記事を読ませ、そのうえで自身の職場における不平等について描写させた。すると、これらの経営者たちは、対照群の経営者たちと比べて、みずからの職場における不平等の深刻さの度合いを10%高く判断した。経営者以外の人たちに比べると、深刻さの度合いを3%高く判断した。

 この実験結果から考えると、「うちの会社ではありえない」バイアスが自分の職場に及ぼす影響について、時折経営者たちに考えさせることにより、ほかの会社を評価する時と同じ基準で自社の状況を評価するよう促せるのかもしれない。

「よい職場」の意味を変える

 前述したように、筆者らの研究によると、経営者たちが自社を平等な職場だと考えるのは、みずからの所属する組織に対して肯定的な評価を抱きたいからである。また、そのような経営者たちの頭の中では、「よい職場」とは不平等が存在しない職場だと考えられているのだろう。このような思考様式を抱くと、自社に不平等が存在するという事実を受け入れにくくなる。その点は、不平等をなくすことの重要性を理解している人たちも例外ではない。

 この問題を解決するには、「よい職場」の定義を変えればよい。自社に存在する不平等を積極的にあぶり出し、それを事実として認めて、その不平等と戦う職場こそ、「よい職場」だと位置づければよいのだ。このように発想を転換すれば、経営者は自社のダイバーシティ関連の目標に沿った認識を持ち、適切な行動を取りやすくなるかもしれない。

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 経営者は、みずからの職場に存在する不平等を認識できるのか──。筆者らの研究によると、それができないケースが少なくない。その結果として、不平等を是正するための措置を採用する権限を持つ経営者たちが、その権限を持たない人たちに比べて、その種の措置の必要性になかなか気づけない傾向がある。

 状況を改めるためには、「うちの会社ではありえない」バイアスと動機づけられた推論の落とし穴をよく理解し、本稿で紹介した戦術の有効性を知ることが重要だ。


"Research: Why Managers Deny Inequality in Their Own Organizations," HBR.org, July 17, 2023.