対立を回避することは誰のためにもならない
「吐きそうになりました」。コーチングセッションでフィリップは筆者にそう告白した。「フィードバックを提供することは、リーダーなら苦労せずにできるはずです。でも私には、この世の終わりのように感じます」
フィリップは、世界中のストリーミングコンテンツプロバイダーに翻訳サービスを提供する会社で、プロジェクトマネジメントのディレクターを務めていた。時に度が過ぎるほどよく働き、複数の優先事項を両立し、時差や言語、文化の違いを超えて翻訳者、品質管理の専門家、クライアントとの連絡係を統括するエキスパートだった。彼には不透明な状況でも事業を成功に導く才能があり、些細なことに囚われずに戦略的な目標に目を向けていた。
フィリップはまた、常にチームをサポートすることを誇りに思い、そのためなら憤る重役をなだめることもした。しかし、いざ直属の部下にフィードバックを行うとなると、フィリップのあふれ出るレジリエンスは消えてしまう。苦労して築いた人間関係を壊してしまうのではないかという不安に襲われるのだ。何を言うべきか、何時間も、時には何日も考え続ける。「あなたにフィードバックがあります」という言葉を口にすると考えただけで、吐き気を催した。
フィリップの最も優秀なチームメンバーの一人であるアンジェリークが率いるプロジェクトが失敗した時、フィードバックをすることに対する彼の恐怖が浮き彫りになった。彼は2週間前から何かがおかしいと感じていた。チームの気力とパフォーマンスの低さが気になっていたが、アンジェリークが最後にはすべてをまとめてくれると自分に言い聞かせた。しかし、彼らの最大の顧客は、よりよいサービスを提供する別のプロバイダーに移ることになった。
「私はそれを防ぐことができました。意見を言うべきでした」とフィリップは筆者に語った。彼の話は、エグゼクティブコーチングのクライアントから多く聞かれる葛藤と重なる。「フィードバックをすることに対する恐れをどうすれば克服できるのか」というものだ。あなたの懸念が緊張を招くことにせよ、部下のやる気を削ぐことにせよ、感情的な反応に対処することにせよ、対立回避は誰もが持つ一般的な性質であり、マネジャーもそれと無縁ではない。
対立を回避することは誰のためにもならない。問題が対処されなかったり、うやむやにされたりすると、あなたを含め、すべての人が苦しむことになる。建設的なフィードバックの欠如はチームにとっても有害で、メンターシップや成長の機会を奪う。コミュニケーションが不足していて、期待が不明確な職場では、信頼が低下し、離職の可能性が高まる。
そこで本稿では、困難な会話に付き物の不快感や不安を解消し、言うべきことを言えるようになる方法を解説する。
二元的思考を打破する
対立を避けるリーダーの多くは、「マイクロマネジャーは嫌われる」「この問題を持ち出すと職場関係が壊れる」といった思い込みを持っている。こうした考えは、過去の拒絶や失敗に由来するものかもしれないが、不正確な二元的思考を反映している。実際には、人間関係を損なったり、「気難しいマネジャー」と見なされたりすることなく、はっきりと意見を述べ、率直で居続けることは可能だ。
率直に意見を述べることで得られるものや、明確なコミュニケーションの潜在的な利益に焦点を当てる。自分の考えを表明することで、自信が持てるだけでなく、次のような可能性もある。
・困難な仕事を完了させるために、あなたの意見が必要かもしれない。
・同僚の規律を乱す行動について、あなたが率直に発言することで、より平穏で生産的な職場環境になるかもしれない。
・あなたの建設的な批判が、チームメンバーの成長を促し、新たなキャリアのチャンスを開くかもしれない。
よく考えれば、自分の考え、感情、意見を表すことは、それを押し殺してその結果に苦しむよりも、はるかに有益であることがわかるはずだ。
