2. ハイブリッド型は根本的にバランスが悪い

 ハイブリッドワークでは、さまざまな人々が異なるコンテクストで仕事をする。自宅で働く人もいれば、オフィスで働く人もいて、そうした居場所の違いが明白な違いを生む。

 オフィスで働く人はリソースにアクセスしやすく、人目につく度合いも高いため、その結果、より高い信用を得て、昇進が早まるケースも多い。これに対し、リモートワーカーは取り残され、疎外感を覚える場合も少なくない。

 もっとも、こうしたマイナス面があるとしても、全員が等しく不利益を被るのなら、厳密には有害とはいえない。問題は、一部の人(リモートワーカーかハイブリッドワーカーである可能性が高い)が一貫して疎外感を感じるケースがあることだ。筆者が最近関わったあるマネジャーも、まさにそのような経験をしていた。

 彼女の会社では社の方針として、全従業員に週2日のリモートワークを認めており、マネジャーである彼女もチームメンバーにリモートワークを行う日を選ばせていた。すぐに気づいたのは、メンバーが出社する曜日のパターンが見事にばらばら(ただし一貫性はある)であることだった。さらに問題を深刻にしたのは、リモートワーク日の選択が各メンバーの通勤時間や子どもの学校のスケジュールに左右されており、人口動態上の属性ごとのグループに分かれてしまったことだ。

 問題が生じたきっかけは、一部のチームメンバーが別のグループの出社日に行われる議論やミーティングから排除されていると感じたことだった。この亀裂が人間関係の緊張と対立へとつながった結果、メンバーの間で自分が「排除」され、「無礼」な対応を受けている(どちらも有害性の特性だ)という感覚が生じ、最終的には離職につながった。

3. ハイブリッド型はつながりと信頼を損なう

 密接な接触が足りなくなると、健全な企業文化の重要な要素であるつながりと信頼が損なわれることが、研究で明らかにされている。筆者はパンデミックの最中に、リモートワークで新たな仕事に就いた多くの従業員と話をしたが、同僚と親しくなれず、疎外感を抱えているという話を頻繁に耳にした。マイクロソフトの調査によれば、リモートワークでは従業員のネットワークが小さくなり、十分に広がりにくいという。

 リモートワーク(ひいてはハイブリッドワーク)を採用しているからといって、組織の文化が弱かったり、一貫性がなかったりするわけではない。リナックスを例に取ってみよう。同社のオープンソースソフトウェア開発は当初から、直接顔を合わせたことのない開発者らで構成される緩やかなコミュニティによって進められてきたが、このグループに関する広範な研究の結果、彼らは行動を統制する強固な社会規範を有していることがわかった。

 とはいえ、このグループの構造(または構造の欠如)を見れば、企業文化の確立や伝達、維持のために使われてきた従来のメカニズムの多くが除外されていることは、否定しがたい事実だ。注目すべきは、リナックスの文化がそもそも当初から、リモートかつ分散型だったことだろう。多くの企業では、パンデミックが始まってからリモートワークやハイブリッドワークを受け入れるようになったのに対し、リナックスの文化はその時点ですでに確立されており、そのうえでパンデミックに対応するための調整が加えられた。

 企業文化が極めて重要なのは、それが組織にとって「冷酷」な行動、さらに極端なケースでは「非倫理的」な行動を回避する羅針盤となるためだ。誤解のないよう言っておくと、ハイブリッドワーク自体に人をより冷酷に、あるいは非倫理的に導く要素があるわけではない(他者との間に距離があるため、自身の行動がもたらす悪影響への意識が薄れるという指摘はありうるが)。しかし、どのような社会システムにおいても人の行動は多岐にわたるため、文化は通常、否定的な行動を抑制するのに役立つ。

 そのうえ、人は近しさとつながりを感じる相手に対しては有害な行動を取りにくい。一方、リモートやハイブリッド環境では相手との間に距離があるため、同僚を「私たち」ではなく「彼ら」と見なしやすくなる。そして、相手が「彼ら」であれば、失礼な行動に出るハードルはぐっと下がる。

4. ハイブリッド型は問題解決を困難にする

 リモートワークやハイブリッドワークにはもう一点、重大な課題がある。同僚と対面で話す機会が減少する中、バーチャル環境では対立(有害な行動についての議論など)の解消が一段と難しくなることが、研究で示されている。

 相手の視線の方向から返答のスピードまであらゆることを気にしながら、デリケートな話題についてズーム越しに会話する状況を想像してみよう。相手は自分に全神経を傾けてくれているだろうか。ビデオ越しに自分の誠意が伝わっているだろうか。相手の反応が鈍いのは、私の考えに同意していないからか、それとも単に通信が遅いだけか。

 対面のコミュニケーションでは、自由に使える対人ツールがより多くある。顔の表情を読み取りやすく、カメラに映らない行動も目に入るため、よりよいデータを得られるのだ。また、相手と同じタイミングで協力して相違点を解消できるため、対人ツールの質も高い。しかも、「人はより接触の多い相手を好きになりやすい」という親近効果があるため、親密な関係のスタート時点からこうしたメリットをすべて享受できる。

 もう一つ触れておくべき重要な論点として、マイクロアグレッション(無意識の差別的な言動)がある。リモートワークでは互いの接触が少ないため、マイクロアグレッションが起きにくいと主張する人もいる。しかし筆者は、リーダーに対しても従業員に対しても、ハイブリッドな環境ではマイクロアグレッションの兆候(「非包括的」な有害行動として表れることが多い)への警戒を怠らないよう忠告している。

 たしかにハイブリッド環境ではマイクロアグレッションの発生につながる接点は減るかもしれないが、マイクロアグレッションが起こる原因の根底に流れるものが取り除かれるわけではない。また、スラックやメッセージアプリ、ビデオ会議といった他のルート経由でのマイクロアグレッションを防げるわけでもない。実際、ハイブリッドワークは問題を解決しないまま、曖昧にごまかすことになりかねない。