2. 忠誠と同意を区別する
ある経営幹部会議で、CEOがたびたび「みんな認識は一致しているか」と質問すると、出席者が「はい」と頷く場面を何度も見たことがある。こうした文化では、忠誠とは同意を意味する。それも、チームを黙らせて、コミットメント(献身)を求めるのではなく、コンプライアンス(従順)を求める強迫的な同意だ。
同意することが忠誠の条件になると、操作された従順を生み出す。これは忠誠ではまったくない。真の忠誠とは、組織やそこにいる人たちの最善の利益に対する純粋な配慮と献身を意味し、独立した思考を許容するだけでなく、奨励しなければならない。組織が忠誠と同意を切り離さない限り、同調圧力は危険な集団思考を生み出しかねない。
ほとんどの従業員がどこかの時点で、自分の仕事には発言権が伴うのか、内心疑問に思うものだ。そして周囲を見渡して、耳を傾け、観察する。もし同意しないと忠誠がないと見なされるなら、彼らは恐怖に基づく強迫だと考えるだろう。しかし、報復を恐れずに厳しい議論や建設的な反対意見が出されているなら、そこに参加し、組織の規定事項に疑問を呈することが奨励されていると感じられるだろう。究極的には、忠誠と意見の相違が平和的に共存する時、率直な意見を言える文化が花開くのだ。
3. 地位と意見を区別する
人間のヒエラルキーでは、権力から距離があると、率直な意見を言いにくくなりがちだ。従業員間の権力の非対称は、通常、地位の低い人物が、地位の高い人物に同意するよう圧力をかける。
残念ながら、多くの組織では、反対意見を言うとネガティブに扱われる(場合によっては罰せられる)という従業員を消耗させる規範が生まれ、各人が殻にこもるようにさせられる。この規範がある限り、恐怖が生まれ、オープンな対話は妨げられる。だが、必ずしもそうなると決まっているわけではない。どれほど賢い人でも、ネットワークをつくり、学際的な学びをすることで集合知を活用できなければ、賢いチームはつくれない。これは、反対意見を奨励し、対処できるかどうかにかかっている。
私は、意見と地位を切り離すことに成功したCEOたちと仕事をしてきた。彼らは、異論を唱える技術を教えたり、模範を示したりすることによって、それを成し遂げている。たとえば、反対意見の背後にある意図に基づき、アジテーターかイノベーターか見分ける方法を説明する。そのうえで、誠意を持って思慮深い反対意見を求める。リーダーがこのようにし、組織の頂点から最下層まで現状に挑戦することに報いると、率直な意見を言える文化の形成を加速できる。
4. 許可と採用を区別する
ほとんどの従業員は、率直な意見を言える文化とは、自分の本音を明らかにし、提案や意見、懸念を表明する許可を与えられている文化だと理解している。しかし残念なことに、一部の従業員は、率直な意見を聞いてもらうとは、すなわちその意見を聞き入れてもらうことだと誤解している。常にそうなることはもちろん不可能だ。あらゆる意見にイエスと言うことはできない。
そこで4つ目のステップだ。率直な意見を言える許可を得ることは、その提案を採用する義務につながるという勘違いを捨てよう。
リーダーは、この許可と採用の違いを従業員に明確にするだけでなく、たとえその提案を採用しない場合でも、率直な意見を言える人を必ず認め、称えるべきだ。従業員が率直な意見を言えるためには、組織が受け止めてくれるという証拠が必要だ。誰かが耳を傾けてくれているのか。何らかの重要性を持つのか。変化をもたらすのか。採用しない場合でも、声を上げてくれたことを強く評価しよう。私たちは皆、回答がノーであっても、率直な意見を言う行動そのものが評価され、奨励されるという安心感を必要としている。
* * *
リーダーに求められる最大の責務の一つは、現実をきちんと検証することだ。実際、ある組織が存続できるかどうかは、現実を解釈し、それに反応する能力があることにかかっている。しかし、いかなるリーダーも一人では実行できない。あらゆるレベルの従業員が率直な意見を言えるようにすると、現場の知識を共有し、有用なアイデアの世界を広げ、集団的な「トンネルビジョン」(視野が狭い状態)に陥るのを防ぐことができる。少数派の意見が斬新な解決策になることは珍しくない。従業員が一貫して率直な意見を言い、みずからの意見や懸念を表明する時、あるいは現状に異議を唱える時、仕事により大きな目的を見出し、組織により大きな価値をもたらしてくれるのだ。
"Building a Culture Where Employees Feel Free to Speak Up," HBR.org, August 16, 2023.