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率直な意見を言える文化は簡単につくれない
先日、ある大企業の全社会議に出席した時のこと。CEOが舞台に上がり、最新の従業員アンケートの結果について話し始めた。とりわけ重点を置いたのは、「職場で安心して率直な意見を言える」という項目についてだった。これに対し、回答者の半数以上が「そう思わない」または「とてもそう思わない」と答えたという。この組織に、恐怖の文化が蔓延している証拠だ。
だが、興味深いのはそこではなかった。まるで台本があるように、CEOはこう続けた。「率直な意見を言える文化をつくる必要があるのは明らかだ。それをまさにやろうと思う。いますぐだ。我が社の『率直な意見を言える文化』は今日から始まる。君たちの声が必要だ。君たちの意見が必要だ。君たちの率直なフィードバックが必要だ」
筆者はいすから転げ落ちそうになった。このようなアプローチを取るリーダーは、現場の文化をわかっていないか、イメージ先行の経営をしているかのどちらかだ。率直な意見を言える文化を持とうと言っても、それを生み出すことはできない。真の心理的安全性がない状態で、口先だけで安心させる態度は、リーダーシップの放棄であり、失敗を認めることに等しい。
率直な発言は大きなリスクを伴う
まず、「率直な意見を言う」ことについて考えてみよう。普通の従業員にとって、それは最大のリスクを伴う行為だ。筆者らはグローバル調査を行い、現在では世界834組織の5万件近いデータを保有している。その中の「脆弱性の階段」という調査で取り上げている20の行動のうち、「率直な意見を言うこと」は最もリスクの高い上位6つの行動と関係していた。
この6つの行動を紹介しよう。
1. 間違った返答をする。
2. ミスをする。
3. 感情を表現する。
4. 反対意見を述べる。
5. 間違いを指摘する。
6. 現状に異議を唱える。
なぜ率直な意見を言うことをためらうのかと質問すると、世界中の従業員が同じような回答をする。社会的な拒絶を受けたり、自分の評判や地位、昇進が危うくなることを恐れているのだ。とりわけ、率直な意見を言うと自分の仕事を危険にさらすことになると答える人は多い。つまり、クビになることを恐れている。
組織が「率直な意見を言える文化を確立したい」と言う時は、暗黙のうちに、これら最もリスクの高い6つの行動を求めていることになる。当然のことながら、心理的な安全性がなければ、このような呼びかけに応じる従業員はまずいない。なぜなら、組織が従業員にリスクとリターンに見合わない行動を取るよう求めていることになるからだ。むしろ、従業員は恐怖のために口を閉ざし、表面的な人間関係を維持しようとするだろう。
そこで、すべての従業員に発言の機会を与え、その機会を活用するよう促す4つのステップを紹介しよう。
1. 価値と評価を区別する
インクルージョン(包摂性)は、チームの認知的ダイバーシティ(多様性)を解き放つカギだが、個人個人の価値を受け入れたうえで築く必要がある。評価に基づくインクルーシブではない。評価に基づくものにしてしまうと、何らかの基準や条件を満たすかどうかをテストすることになってしまう。カスタマーサービスなど、特定の業務分野における能力を調べるのであれば、評価・パフォーマンステストは有効かつ適切だろう。しかしインクルージョンは、パフォーマンステストで調べることはできない。人間は誰しも、受け入れられる資格があるのだ。
従業員が自信を持って声を上げるためには、自分の本質的な価値に基づき受け入れられていると実感できなければならない。帰属意識が満たされていなければ、あるいは評価テストに基づき自分が受け入れられるか否かが決まっていたら、なぜ率直な意見を言って、社会的に拒絶されるリスクを冒せるだろう。率直な意見を言うことは、自己表現にほかならない。それにリスクがあるのであれば、自己表現を避けようとするだろう。その一方で、自分の価値が貢献の大きさや意見、見解の価値評価と切り離されていれば、もっと積極的に率直な意見を使うようになるだろう。
この社会的なやり取りにおいて、先に行動を起こす義務があるのはどちらか。それは、もちろん組織のほうだ。組織が個人に対して、彼らの価値は交渉によって変わるものではないことを示さなければならない。
だが、どのように実行すればよいのか。どの従業員に対しても、業績に関係なく、同等のリスペクトを持って接することが大切である。それも、責任を問われた時の防御策としてではなく、公正で、平等で、思いやりのある説明責任の指針として行わなければならない。誰一人として、説明責任を特別に免除されることはなく、誰もが本質的な価値に基づき、同等の尊厳を認められる権利がある。率直な意見を言うことで報復される恐怖がなく、自分のありのままを受け入れてもらえると本気で思えれば、人は率直な意見を言える。