CEOには、対処するための手立てが必要だ
では、CEOはどうすれば、この職に付き物の感情労働に対処できるのか。これまでの経験に基づき、筆者はリーダーたちに4つの方法を用いるよう助言している。
親しい友人に話を聞いてもらう
「トップは孤独」とよくいわれる。これが定番の言い回しになるのは、真実を反映しているからだろう。ビジネスリーダーの中には、仕事が特に過酷な時に、内にこもり、ほかの人たちとの関わりを断ちたがる人もいる。しかし、このような本能に従うのは好ましくない。孤独はストレスを増幅させるだけだ。それよりも、感情労働で激しいストレスを感じているCEOは、信頼できる友人たちに助けを求めるべきだ。その人たちに、感情的な負荷を分かち合ってもらうのである。
筆者の経験上、このような目的でCEOが頼るのは、社外の人物である場合が多い(CEOを監督する立場である取締役会のメンバーに頼ることはほとんどない)。頼りにするのはたいてい、長年の友人や大学時代のクラスメート、元同僚、メンター、家族などだ。ある程度距離を置いた場所にいて、率直な意見を聞かせてくれて、しかも秘密を守ってくれる人たちとじっくり話すことの効果は極めて大きい。それにより、心の重荷が大幅に軽減されるだろう。
プロのアドバイザーの話を聞く
企業は特に危機に直面した時、社外のアドバイザーやPRコンサルタントを雇うことが多い。そうした専門家たちは、経験をもとに有益な助言をもたらすことができる。危機がどのような経過をたどって収束に向かうのかを熟知していて、どのようなアプローチがうまくいく(あるいは、うまくいかない)場合が多いかを実際に目の当たりにしており、たいていはメディアとも良好な関係を築いている。このような人たちは、非常に大きな価値をもたらす可能性がある。CEOは、そうした専門家の声に耳を傾けるべきだ。
その一方で、CEOは「アドバイザー」という言葉の元になった言葉を常に頭に入れておくべきだ。その言葉とは、「アドバイス」という言葉である。アドバイザーに求めるものは、あくまでもアドバイスに留めるべきだ。CEOは、自分がコントロールを失ったり、論争や試練から完全に切り離されたりするような形でアウトソーシングや権限委譲を行ってはならない。感情労働が要求される状況では、CEOはできる限り最良のアドバイザーを雇い、その人たちの言葉に耳を傾けるべきではあるが、コントロールは手放さないようにし、重要な決定は自分自身で下すことを忘れてはならない。
人々の怒りや不満を自分に対する個人批判と受け取らない
人は怒りを感じた時、抽象的な物事ではなく、具体的な人間に対して怒りをぶつけたがるものだ。企業は抽象的で、言ってみれば顔がない存在なので、CEOが会社の象徴のように位置づけられて、怒りの標的にされることが多い。CEOは、自分個人が不当に批判されていると感じたとしても、人々の怒りや不満の対象はあくまでも会社であって、自分個人ではないと理解しておこう。
CEOは、会社を代表して責任を負うことは避けられないが、批判を自分個人に向けられたものと考えるべきではない。今日のような時代には、CEOはエクササイズや瞑想、趣味など、エネルギーを回復し、レジリエンスを育む効果のある習慣や行動パターンを身につけるとよいかもしれない。
ほかの人たちの感情的反応を予測する
リーダーは、自分の行動がどのような影響を生み出し、ほかの人たちと自分自身にどのような感情を抱かせるかを予測する必要がある。その際、CEOはみずからの感情的知性に頼ることになる。そのような感情的知性は、時間を経るにつれて磨かれていくものだ。また、さまざまなステークホルダーと関わる経験を重ねる中で、人々の反応の仕方のパターンがわかってくる面もある。難しい局面で成果を上げ、そうした状況に対処することが練習になる面もあるだろう。
しかし、CEOが忘れてはならないのは、自分や周囲の人たちがほかの人たちの感情を常に理解できているとは限らないという点だ。そこで、賢明なCEOは、みずからの予測能力を補完するために、言わば意見聴取役の役割を果たせる人たちを頼る。感情面で大きな波乱要因になりかねない決定を下す際は、そうした人たちを通じて状況の細部を理解し、徹底的に検討するのだ。
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常に冷静沈着な態度を保つことに始まり、組織全体の感情面の状況をマネジメントすることまで、CEOの役割には、実に多種多様な感情労働が含まれる。そうした感情労働は、CEOが社会的問題について発言すること、そして本当の自分を見せることに対する期待が高まるとともに、ますます膨れ上がっている。しかも、CEOは手ごわい危機にも対処しなくてはならない。それでも、感情的知性(EI)を持ち、私的な事柄を開示することの意味をよく考えて行動すれば、CEOはこの役職について回る感情労働をマネジメントできるに違いない。
"How CEOs Can Navigate the Emotional Labor of Leadership," HBR.org, August 11, 2023.