モチベーションの本質を理解する

 昇進と昇給が不可能な状況では、人々にモチベーションを持たせ、気持ちを鼓舞するために、そのほかの方法を見い出さなくてはならない。しかし、それは、想像ほど難しいことではないのかもしれない。お金やそのほかの外的な報酬が従業員にとって持つ意味はたしかに見落とせないが、研究によると、自律性と学習の機会、有意義な仕事を与えることのほうが効果は大きい可能性がある。

「マネジャーの根本的な役割は、部下に選択肢を持たせ、部下がほかの人たちとつながる機会をつくり、部下が能力を開花させる環境をつくることです」と、ファウラーは言う。言い換えれば、チームのメンバーがいつ、どこで仕事をするかをさらに自分でコントロールできるようにし、スキルを磨く機会と、人間関係を構築、強化する機会を与えるために、何ができるかを見出す必要があるのだ。トップでなくても、マネジャーであれば影響力を振るうことはできる。「マネジャーは、自分でも気づいていない力を持っているのです」と、ファウラーは指摘する。

独創性を発揮する

 そうした影響力を振るうためには、好奇心と独創性の両方が必要になると、スミスは言う。スミスがマネジャーたちに送っているアドバイスは、どうすべきかをメンバーに率直に尋ねなさい、というものだ。「今後1年間、あなたのモチベーションの源になるものは何ですか。どうすれば、その点で私が力になれるでしょうか」と尋ねればよいのだ。

 この問いに対して、さらに柔軟な働き方をしたいと言う人もいるだろう。その場合は、コアの業務時間を決めて、後は一人ひとりが柔軟に勤務時間を決められるようにすればよいかもしれない。一方、さらに成長の機会がほしいと言う人もいるだろう。その場合は、格上の同僚のそばで仕事ぶりを見学する機会を用意したり、コストのあまりかからないリーダーシップ開発プログラムを見つけたり、ほかの専門分野に接し、ほかの部署の同僚と知り合うきっかけになるような全社プロジェクトに取り組む機会を与えたりすればよい。「選択肢を与えられれば、人は解放感を味わえます」と、ファウラーは言う。「メンバーのエネルギーの変化を実感できるでしょう」

 すべてのメンバーに配慮する必要はもちろんある。なかでも、特に成績優秀なメンバーにはより気を配るべきだと、コセックは言う。さらに「経済状況が不確実な時は、スター社員を手離さないように気をつけるべきです」と、彼女は指摘する。「ただ散漫と日々を過ごしているような人たちではなく、いま勢いのある場へ、いま成長している業界へ、いま市場が拡大している分野へ行きたいと思っている人たちを特に大切にすべきです」

チームの集中力を維持する

 働き手としては、過酷な時期に気が散ったり、やる気を失ったりするのは自然なことだ。チームメンバーの集中力を維持するためには、会議を短時間に留めて、その代わりに一対一の話し合いに力を入れるべきだと、コセックは言う。「メンバーの目指すべき目標をはっきりさせ、目標達成に必要な情報とリソースを与えることが重要です」

 リーダーがメンバーと関わるために割く時間──1週間当たりの時間数と1日当たりの時間数──を増やせば、メンバーはマネジャーとのつながりをいっそう強く感じることができる。「上司が必要に応じてサポートしてくれれば、自分が組織の一員なのだという意識が強まり、ストレスも弱まります」と、コセックは指摘する。

 こうしたことは、マネジャーにとっても恩恵がある。マネジャーはそれを通じて、メンバーがどのような点で苦戦していて、障害に直面しているかについて理解を深めることができる。「マネジャーは、すべての問いの答えを知っている必要はありませんが、メンバーがトラブルに対処し、問題を解決するのを助ける必要があります」と、コセックは言う。

 一方、スミスは、メンバーが価値の小さい仕事をせずに済むように配慮すべきだと主張する。メンバーがさらに価値のある仕事に集中できるようにすることが狙いだ。「業務量が増えすぎないように、メンバーを守りましょう」と、スミスは言う。