家族をケアする従業員が企業にもたらす特別な価値
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サマリー:育児や介護などのケア労働をしながら働く従業員が増えている。職場でケア労働を行う従業員への支援が話題になる際は、通常、福利厚生に焦点が当てられており、雇用主のメリットは注目されない。しかし筆者らが調査を... もっと見る行ったところ、彼らはユニークなスキルセットを持っており、それが組織文化や定着率、組織の利益にもプラスの影響を与えることがわかった。 閉じる

ケア労働を担う従業員が企業に利益をもたらす

 アジア系米国人のジェームズは、金融業界のエグゼクティブであり、同時にケア労働の担い手でもある。彼にとって、ケア労働は目新しいことではない。高校時代から、移民1世である両親のために、専属の通訳として、また米国の諸制度に関するナビゲーターとして手助けをしてきた。さらに現在は、11歳以下の3人の子どもの父親でもある。家族のケアは、彼の人生に欠かせないものなのだ。

 筆者らがジェームズに、ケア労働の提供者という役割が仕事上のパフォーマンスに役立っているかと尋ねると、彼はためらうことなく、こう答えた。

 「100%役立っています。私が学んできたことは、仕事にも大いに応用できます。私は外部顧客担当のリレーションシップマネジャーであり、相手を深く理解すればするほど、業績も向上します。結局のところ、資産管理は資産管理にすぎませんが、相手との間に構築した関係こそが私たち独自の強みです。私がこの仕事を得意としているのも、そのおかげだと言っていいでしょう」

 組織が育児や介護を担う従業員に、優しい従業員ポリシーや福利厚生を提供すべき理由については、データや情報が足りないわけではない。家族の世話のために離職した女性が直面する「ママ・ペナルティ」は広く知られている。米国はケア労働を担う従業員を支えるインフラが不足しており、先進国で唯一、連邦政府による有給の育児休業制度が存在しない。多くの人々が「育児砂漠」で暮らしているのだ。

 こうした欠点と、米国の従業員の73%がケア労働の提供者であるという事実を踏まえれば、生産的で持続可能な労働力を確保するには、彼らを支援するインフラを企業が構築する必要がある。また、離職や制度関連の知識の喪失、欠勤などを考えると、彼らをサポートしなければ、企業に高額の隠れたコストが降りかかる可能性もある。

 だが、職場においてケア労働の提供者への支援が話題になる際は、通常、従業員への福利厚生に焦点が当てられており、雇用主にとってのメリットは注目されない。筆者らが独自の調査を行ってジェームズのエピソードのような事例を集めたところ、彼らはユニークなスキルセットを有しており、それが組織文化や定着率、そして究極的には組織の利益にもプラスの影響を与えることが明らかになった。

ケア労働で得た貴重なスキルは企業にも有益

 ケア労働のスキルが企業にとっていかに有益かを示すために、筆者らはラトガース大学センター・フォー・ウーマン・イン・ビジネスでアンケート調査を実施し、ケア労働を行う人の体験談を集めた。質問項目には「無償のケア労働によって、どのようなスキルが身についたか」「そのスキルを職場でどのように活用したか」「あなたの会社はそのスキルの恩恵を被っているか」「あなたの同僚はそのスキルの恩恵を被っているか」などがあった。つまり、ケア労働を通して磨かれたスキルが組織の利益に貢献するかどうかを知りたかったのである。

 調査の結果、育児に関するエピソードが93件、高齢者介護に関するエピソードが38件、障害を持つ人の介護に関するエピソードが18件、長期疾患を抱えている人の介護に関するエピソードが6件、計131件の有効回答が得られた(複数のエピソードを提供してくれた回答者もいた)。回答者は全員が有償の経済活動に参加しており、それに加えて6カ月以上連続で無償のケア労働を行っていた。

 筆者らはこれらの体験談をコード化して、18のカテゴリーに分類。そのうえで、向上したマネジメントスキルが職場でどのように発揮されているかに基づき、「人間性」「生産性」「認知力」という3つの大きなグループに分類した。なお「認知力」とは、組織が文化を維持し、人々をつなぎ、円滑な運営を保証するために必要となるさまざまな精神的・感情的作業を指す表現として、筆者らが提案しているものだ。