ケア労働はリーダーやマネジャーに必要な経験である
この数年、職場はいちだんと複雑さを増しており、今日のリーダーは日々、同じ物理的空間で働いているとは限らない5世代の労働者を管理しなければならない。パンデミック、自然災害、政情不安、経済不安のどれもが、かつてないレベルの業務の中断をもたらしてきた。また、技術革新のスピードは指数関数的に増している。こうした新たなパラダイムを乗り切るために、求められるリーダーシップのスキルも拡大してきた。
筆者らが人間性、生産性、認知力というカテゴリーに分類したスキルの多くは、歴史的に「ソフト」スキルに分類され、女性的なものとされてきた。「ハード」スキルや「テクニカル」スキルに比べて、伝統的に評価が低かったのは、そのせいかもしれない。皮肉なのは、ソフトスキルはマネジメントスキルの中核であり、しかも伸ばすのが難しいスキルであるという点だ(コミュニケーション、リーダーシップ、意思決定、問題解決、時間管理、権限の委託、EI、適応力、対立の解消、戦略的思考などのスキル)。
加えて、AI(人工知能)や自動化、機械学習の進化によって、多くの技術的な業務が機械に取って代わられる可能性がある。そうした時代に必要なのは、コミュニケーション能力が高く、共感力があり、支援的なリーダーである。これらのマネジメントスキルは、OJTやコーポレートコーチング、スキルワークショップによって育まれるわけではなく、主に個人的な人間関係を通して育成されるもので、それがケア労働の経験を通してさらに磨かれていく。
最後に、これは女性だけの話ではない
これらのスキルを習得する能力は、性別に関係なく万人にある。そして、おのおののジェンダーアイデンティティに関係なく、すべての従業員が人間性、生産性、認知力を高めるスキルを身につけられれば、企業は多大な恩恵を得られる。
具体的には、ケア労働に時間を費やす男性が増えれば、家庭と職場における男女の不均衡を緩和できるだろう。つまり、より多くの男性がケア労働のために仕事を休み、柔軟なスケジュールを求め、リモートワークやハイブリッドワークの環境を要求するようになる。
企業がケア労働の担い手を雇い、雇用を維持することのメリットを認識していれば、そうした制度を利用することが文化的に受け入れられるため、より多くの男性が制度を活用する可能性が高まる。そうなれば、男女を問わず、ケア労働の責任を犠牲にすることなく、プロフェッショナルとしての目標に向かって仕事を続けていける。
冒頭のジェームズの話に戻ろう。彼は最近まで、ケア労働と金融業界での仕事を両立できるとは思いもしなかったという。
「金融業界では、柔軟性という選択肢はまったく存在しませんでした。この業界で働きたければ、柔軟性は諦めるしかなかったのです。でもいまは、ケア労働の必要性を理解してくれる雇用主のおかげで、何ができるかを考えられるようになりました。実際、ケア労働は素晴らしい経験です。両親や子どもたちにとって、そして私にとっても。いまでは私は同僚のロールモデルになっており、仕事と家庭の効果的な両立法を身につけた人間だと思われています」
"Research: Caregiver Employees Bring Value to Companies," HBR.org, Aug. 10, 2023.