人間性

 共感力と感情的知性(EI)、協調性、チームワークが向上すれば、よりよい同僚、より優しいマネジャー、より理解のあるリーダーになれる。その結果、従業員の定着率とエンゲージメントが向上し、イノベーションが増加する。

 人間性の高い人は、誰かが病気の子どもを学校に迎えにいったり、親を病院まで車で送ったりするために急ぐ必要がある場面で、すすんで手を貸そうとする。判断を下すことなく同僚の言葉に耳を傾け、励まそうとする人である。職場で役立っているケア労働のスキルについて、2人の回答者のコメントを紹介しよう。

 「学齢期の子ども3人の世話を通して、同僚の個人的なニーズに共感できるようになり、チーム内でのストレスの軽減や信頼の向上につながりました」
──コンサルティング企業役員(男性、白人、育児を行う)

 「エンゲージメントの高い従業員のおかげで会社が恩恵を被っています。従業員のニーズが聞き入れられ、理解されることで定着率が高まります」
──R&Dマネジャー(女性、白人、慢性疾患の親の介護を行う)

生産性

 タイムマネジメントが得意で、粘り強く問題を解決できる人は、優先順位をつけ、忍耐強く取り組み、不完全な情報でも決断を下すことができる。おかげで生産性が向上し、収益が増加する。

 ケア労働をする人は多忙で、時間の大切さをわかっているため、時間を無駄にしたくないと考える。また、リスクの取り方や、失敗を次につなげる方法も知っている。そうした人は集中力を発揮し、締め切りを守るために賢く働き、より短時間でより多くの作業をこなす。2人の回答者の発言を紹介しよう。

 「ケア労働をするようになったことで、マネジャーとしても労働者としてもレベルアップできました。マルチタスク対応やギアの切り替えができるようになり、自分でコントロールできないことを気にして落ち込むケースがなくなりました。それぞれの従業員やチーム、上司、顧客にとってその瞬間に必要なことに、焦点を変える方法を理解しています。仲間とつながったり、自分を振り返ったり、サポートとセルフケアを求めたりすることで、自身の感情的ニーズに応える時間を確保する方法も知っています。より大規模かつ複雑なプロジェクトや時間的制約のある提案を指揮し、従業員のニーズを満たすことで、士気と定着率、生産性を向上させられるようになりました」
──リサーチマネジャー(女性、アジア系米国人1世、障害者の親で、介護者である)

 「数日、あるいは数時間、仕事を休むこともありますが、勤務時間外の多大な努力と献身によって、その時間の100倍分を埋め合わせています」
──医療・製薬・バイオテクノロジー関連の従業員(女性、白人、子どもと両親、慢性疾患患者のケアを行う)

認知力

 ケア労働に伴う3つ目のスキルを、筆者らは「認知力」と呼んでいる。その土台には、家庭を営むうえで、重要だが目に見えない仕事(精神的負担、感情的負担と称される場合もある)を表す表現としてよく使われる「認知労働」の概念がある。

 だが、認知労働が求められる場は家庭だけではない。職場を円滑に運営するためにも、認知労働は重要な要素となる。ニーズの予測、大問題に発展する前に問題の芽を発見すること、将来のトラブルを回避する対策を講じておくこと、常に一歩先を見通すこと──。どれも認知力の表れだ。この力が高い人は、混乱に対応し、指示がほとんどない場合も主体的に仕事を進められる。

 認知力を考える際のもう一つの視点は「グルーワーク」(接着作業)だ。エンジニアのターニャ・ライリーによる造語であるグルーワークは、人々やプロセス同士を結びつける媒介的な作業を指し、組織文化の土台を成す。たとえば、重要なプレゼンテーションにおいて技術トラブルに備えたバックアッププランを用意すること、ランチ注文時に他者の食事制限を考慮すること、会議の議事録をすすんで作成すること、さらには従業員リソースグループ(ERG)を運営することなどがそれに当たる。

 これらは通常、昇進につながりにくい業務──目に見えないが重要な作業で、女性が担うことが多い。ケア労働者は専門家や医者、学校、スケジュール、家族まで多岐にわたる関係者のコントロールタワーの役割を担っており、常に高度な認知力が求められる。ある回答者は次のように語っている。

 「私は、事が大きくなる前に多くの問題の芽を摘んでおり、会社はその恩恵を被っています。私には多様なスキルがあり、そうしたスキルをすべて私一人でまかなえるため、会社は複数の従業員に給与を支払う必要がないのです」
──非営利組織のリーダー(女性、黒人またはアフリカ系米国人、複数の子どもを育てている)