アプリ刷新でこだわったのは、クイックに改善できる仕組み

髙栁 2023年春に10年ぶりに「auカブコム証券アプリ」を刷新されたのは、オンラインでの体験価値向上という点で象徴的な取り組みでした。

藤田 既存ユーザーがいらっしゃる中でアプリを刷新するのは、新規リリースより難しいですね。ネット証券大手はどこでも、ヘビーユーザーほどPC版の専用ツールをよく使われていて、一分一秒を争うような取引をされる方もいるので、アプリ画面の項目を一つ変えるだけでも非常に神経を使います。

 各社ともそういう高頻度利用者に収益を依存しているので、PCセントリックにアプリをつくり込んでいるという事情があります。とはいえ、「すべてのひとに資産形成を。」というミッションを掲げている当社としては、スマホで完結できる環境をつくっていかないと、資産形成に馴染みのない方のエントリーポイントになれないという思いがあります。

 一方で、デイトレーダーのように高頻度で利用されるお客様の体験価値を損なうことがあってはいけませんので、今回のアプリ刷新ではリリース後に機動的な改善ができることを重視しました。

髙栁 いまはユーザーのほうが多くの情報を持っていますし、いろいろなデジタルサービスの利用経験があるので、UIやUX(ユーザーエクスペリエンス)については、ユーザーが一歩先を行っている時代だと思います。

 ですから、御社のように機動的な改善ができる仕組みにしておくことが非常に重要です。アプリをリリースした後にユーザーからネガティブなフィードバックがあったら、すぐ直せるような体制もそうですし、その前提としてユーザーの声をきちんと把握できる仕組みになっているかどうか。そこで、企業間、サービス間の差が大きく広がります。

藤田 リリースしてからフィードバックをいただいて、クイックに対応するというのは、今回のアプリ刷新で特にこだわったポイントです。そのための予算をつけ、体制も組みました。

 KARTEを導入したことで、マーケットデータや社内の顧客データに加えて、お客様がいつ、どんな銘柄を見たかといった行動データも活用できるようになり、お客様をより理解して、CXの仮説を立てられるようになりました。

 また、KARTEではテンプレートを使って簡単にアンケートを作成・集計したり、チャット形式で顧客から質問を受け付けたりすることもできます。だから、属性やニーズ、そのときの行動などさまざまな軸で顧客を区分けし、その人ごとにフィードバックを受けて仮説を検証することができ、PDCAのサイクルを高速で回せるようになりました。

 そうした機能をうまく活用しながら、仮説の精度を上げ、個々のお客様の期待値とのギャップを埋めていくことが今後の課題だと思っています。

髙栁 そのギャップを把握できていない企業がほとんどですが、それがわかればCXを向上できます。

 先ほど既存ユーザーがいる中でアプリを刷新するのは難しいというお話がありましたが、KARTEのお客様で多いのは、すべてのUIをいっきに変えるのはなく、一部のUIを変更し、それを特定のユーザーに使ってもらって、フィードバックを得るというアプローチです。

 たとえば、取引金額別といった切り口でUI/UXを変え、それぞれにアンケートを取ることも可能です。実際にユーザーに使ってもらって、反応を見たり、直接声を聞いたりするのがビジネスとしての勝ち筋につながる一番の早道だと思います。

 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)とKDDIのジョイントベンチャーであることも御社の特徴の一つですが、藤田さんとしてはauカブコム証券の今後の可能性についてどうお考えですか。