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マネジメントはできても社内交渉には不慣れ
急成長中のSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)企業で上級営業マネジャーを務めるロンジャは、何事もなせば成るという強気の姿勢をみずからの誇りにしていた。彼女のチームは常に無駄がなく機敏で、十分なリソースがなくてもビジネスを生み出すことに慣れていた。
会社の顧客基盤が拡大するにつれ、ロンジャの重点は従来の営業活動からセールスイネーブルメント(営業活動の改善)に移った。いまでは彼女のチームは見込み客との直接的な一対一のやり取りではなく、現場の営業担当者のコーチングや販促資料の開発、測定基準の追跡を任されている。こうした活動には、新しいテクノロジーへの相当な投資と人員の増強が必要だった。
「私たちのチームが必要としているものをエグゼクティブに訴えかけなければならないことはわかっています。でも本格的な交渉をした経験がないのです」と、ロンジャは筆者のコーチングのセッションで言った。「これまで『手に入るもので間に合わせる』姿勢を貫いてきました。でも、いまはそれがチームを苦しめています」
ロンジャは自分たちの営業活動の取り組みを失速させないために、リソースを追加する必要があることを認識していた。その一方で、自分が弱く、または能力が不足していると見られることを恐れていた。粘り強く機知に富むリーダーとして認められ続けるため、これからも必要最小限のリソースで何とかすることが義務であるかのように感じていた。
「正直に言えば、上層部に影響を及ぼすのが不安なのです。たしかに、私には高い技術的スキルがありますが、説得という行為、特に権力のある人を説得する方法については、一度も教えられたことがないのです」と彼女は言った。
筆者がコーチするリーダーの多くは、ロンジャと同じ立場になることがある。よりよい備品であれ、重要なプロジェクトの予算であれ、チームのスターに報いて引き留めるための昇給やボーナスであれ、リーダーはチームのためにリソースの追加を求めて声を上げる必要がある。
だが管理能力に秀でているにもかかわらず、ロンジャと同様、政治的な面や上層部の説得となると自分の手には負えないと感じるリーダーが少なくない。権力のある人との関係を損なわずに、チームに必要なリソースを主張し確保するにはどうすればよいのか、自信がないのである。
ほとんどのマネジャーは、上層部に対して効果的に主張する方法を表立って教えられたことがない。本稿では、説得力のある主張をするために役立つヒントを提供する。
金額を示す
あなたが提案するリソースの割り当ては、単に「あったらよい」ものではなく、組織のために具体的な利益を生む戦略的投資であることを、意思決定者に実証しよう。データに基づく正当な根拠によってあなたの要求を補完し、リソースを増やせば投資利益率にどのような好影響が出るかを強調する。以下に例を挙げよう。
・リソースの追加によって生産性がどれだけ高まるかを数値化する。たとえば、新しいソフトウェアを導入すれば、タスクを完了するのにかかる時間を20%減らせる、あるいは中級レベルの従業員を一人雇えばチームのアウトプットが2倍になる、など。
・いま投資すれば、どれだけの長期的なコスト削減につながるかを示す。たとえば、新しい研修によって、アウトソーシングの必要がなくなる、あるいは高い損失につながるミスが減る、など。
・そのリソースによって競争優位性、市場シェア、会社の評判などがどれだけ向上するかを強調する。
ロンジャは調査を行い、市場に新しい商品を導入するのが1週間遅れるごとに会社に2万ドルの損失が出ることを発見した。また、チームの人員不足のせいで、顧客満足度の点で最大の競合相手に後れを取っていることにも気づいた。彼女はこのデータを1ページのビジネスケースにまとめ、主張を簡潔で理解しやすい形で提示した。