
地理的背景がハイブリッドワークに与える影響
WHO(世界保健機関)がパンデミックの終了を公式に宣言したとはいえ、いまなおリモートワークの普及率は上昇し続けている。企業生活における次のノーマルとは何か、またはどうあるべきかについて、これまで多くの記事や論文が書かれてきた。世間から隔離された人でない限り、ほとんどの人がオフィスとほかの場所で働く時間の理想的な比率について、熱い議論が交わされるのを目にしてきたことだろう。
このような議論が続いているのは、必要とされるトレードオフの考え方について多様な視点があるからだ。リーダーと従業員の視点の違いについては多く論じられてきたが、あまり注目されてこなかった側面もある。それは、ハイブリッドワークについての認識は地理的背景によって違うのか、違うとすればどう違うのかという点である。これはグローバルなチームを率いるすべてのリーダーにとって極めて重要な問題だ。
本稿の筆者は、フランスを拠点とする米国人とシンガポールを拠点とするスウェーデン人であるため、グローバルな視点に立つ傾向がある。日々の実体験がグローバルであり、国や地域の文化によって、どの程度、期待や好みに違いがあるかを考えざるをえないからだ。INSEAD新興国市場研究所とユニバーサムが実施した、50カ国のマネジャー651人を対象とした調査(比率は、欧州・中東・アフリカ:61%、アジア・太平洋:24%、南北アメリカ大陸:15%)から、グローバルなチームリーダーが認識し、行動の基盤とすべき、いくつかの重要な違いが明らかになった。
現在のハイブリッドワークのグローバルな現実
このデータから浮かび上がるのは、働き方に関する好みは世界のどこを拠点として働くかによって異なるということである。もちろん、共通の要素もいくつかある。たとえば、パンデミック中には在宅勤務をする従業員の比率はどの地域も似たり寄ったりだった。これはパンデミックがまさしくグローバルな事象だったので驚くに値しない。また、ワークライフバランスへの好ましい影響が世界中で報告されたことや、組織のカーボンフットプリントに好ましい影響があったと回答者が異口同音に認めたことも、驚くほどのことではない。
特に注目すべきなのは、全地域のほとんどの回答者が自身の所属する組織に対して、在宅勤務をパンデミック以前よりも高い水準で維持することを希望した点である。
こうした類似点があるにもかかわらず、このサンプルで地域差が見られたものの一つが、従業員を物理的なオフィスに戻したいという組織側の思いだ。全般的にAPAC(アジア太平洋)のほうが、EMEA(欧州・中東・アフリカ)や南北アメリカよりもその傾向は強かった。同様の傾向はオフィス回帰(RTO:Return-to-Office)に関する最近のほかのデータからも見られ、オフィス回帰に対する意向はアジアが最も高く、米国が最も低く、欧州のほとんどはその中間だった。
これはなぜなのだろうか。浮上した一つの説明はリモートワークの生産性についての考え方の相違である。このサンプルでは、南北アメリカでリモートワークの生産性を5段階中の最も上位となる5と評価する人々の比率は50%であり、ほかの地域(26%)のほぼ2倍となった。同時に、ハイブリッドワークから生じる主要な懸念を挙げる質問において生産性の低下を挙げた回答者は、南北アメリカ(11%)でAPACやEMEA(ともに22%)の半数だった。これらはすべて統計的に有意な差であり、南北アメリカの回答者はリモートワークの生産性をより肯定的に見ていることを示唆している。
またハイブリッドワークの人的コストをめぐる懸念にも違いが見られた。EMEAとAPACの回答者(86%)は南北アメリカの回答者(78%)に比べ、かなり高い比率で、同僚との社会的つながりの機会を逃すことを懸念していた。この差は大きく見えないかもしれないが、統計的に有意である。従業員エンゲージメントについて、EMEAとAPACの回答者(ともに5段階中の3.2)は南北アメリカの回答者(5段階中の3.6)に比べて、かなりの低下を報告していることにも、同様のパターンが見られる。
EMEAの回答者は、ハイブリッドワークの人的コストについて最も否定的だ。南北アメリカ(5段階中の3.0)やAPAC(5段階中の2.6)と比べ、ハイブリッドワークの結果として人間関係のつながりが著しく低下した(5段階中の2.3)と評価している。ハイブリッドワークがウェルビーイングに及ぼす影響についても、同様のパターンが見られた(EMEA 3.4/5、南北アメリカ 3.9/5、APAC 3.8/5)。APACの回答者は、重要な会議や決定から除外されることについて、より懸念を抱いていた(APACでは38%が懸念しているのに対し、南北アメリカではわずか17%だった)。
繰り返しになるが、こうしたすべての差は統計的に有意である。オフィス勤務に対する在宅勤務の理想的な比率について認識に相当な違いがあることの説明にもなるかもしれない。APACは平均して在宅勤務の比率が最も低く(2.9/5)、EMEAは少し高く(3.4/5)、南北アメリカが最も高い(3.7/5)。
これらはすべて、南北アメリカのオフィスへの回帰率が欧州やAPACに大きく後れを取っていることを示す最近のデータへの説明として興味深い。この比率の違いは、生産性を維持しつつ、マイナスの社会的影響を回避する能力に関する考え方の違いを反映しているともいえる。
こうしたデータは大変に興味深いが、本稿の焦点は、各地域の違いについて結論を出すことではない。これは進展し続けるプロセスをある時点で切り取ったものにすぎず、個々の考察は変化し続けるだろう。とはいえ、調査の動機となった最初の直感は正しかった。つまり、どの文化や背景においても状況は同じように見えるという、よくある暗黙の前提は、精査に耐えないのである。