デジタル基盤の統合がアフリカ諸国に繁栄をもたらす
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サマリー:アフリカが繁栄するためには、EUのような地域統合の実現が欠かせない。その成功のカギとなるのが、デジタル基盤の統合だ。各国通貨の取引を可能とした決済システムの事例を踏まえ、「デジタル統合」を果たすうえで重... もっと見る要な3つの要素について考察する。それが民間セクターとの協働、互換性のあるシステムの構築、電力とインターネットのインフラ整備である。 閉じる

アフリカが地域統合すべき理由

 2021年、アフリカ54カ国のGDPの合計は、米国の15%に満たなかった。アフリカは、比較的小規模な国が多く、経済が弱く、市場も小さい。世界経済は人口とGDPの規模が大きい国々に牛耳られているため、アフリカ各国が世界の舞台で競争するうえで不利な状況にあると言わざるをえない。

 しかし、アフリカ諸国の経済的統合を深めることができれば、この国々がともに繁栄を享受できるようになり、世界での影響力を高められるかもしれない。EU(欧州連合)のような地域統合の実現は、アフリカのさまざまな問題の解決につながると指摘されている。なぜなら、地域の安定性を高め、経済を成長させ、市場の効率を改善でき、大規模なインフラプロジェクトの費用の分担につながり、平和と安全保障問題に対応できるからだ。そして、デジタル化が日々進展している今日の世界において、地域統合の成功のために避けて通れないのが「デジタル統合」である。

 この文脈において使う「デジタル統合」とは、アフリカ全域で、デジタル化に関する共通のシステムと標準化されたルールをつくることを意味する。その一環として、デジタル分野における協力体制を構築しなければならない。とりわけ、金融、行政、サイバーセキュリティに関する協力の実現だ。具体的には、デジタル金融システムのすり合わせや、デジタル関連の活動をめぐる共通のルールづくり、共通の規制テクノロジー(個人認証、電子課税、法人登録システムなど)の確立が必要になる。

 デジタル統合の最大の利点は、アフリカ諸国間の貿易を促進することにある。デジタル化によりコストが削減できるうえに、情報の流れが改善されることで各国がグローバルな商取引に参加しやすくなる。そして、特に小規模事業者(アフリカにおける貿易取引の大半を占めている)の市場へのアクセスを拡大できる。

 デジタル統合を加速させるうえで特に重要なのは、民間セクターとの協働、互換性のあるシステムの構築、電力とインターネットのインフラ整備という3つの要素だ。以下、それぞれ見ていこう。

民間セクターとの協働

 アフリカの民間企業の多くが国境を越えてビジネスを成功させている。そうした企業は利益追求への野心を原動力にし、官僚や政治家から制約を課されずに活動している。たとえば、インターネット・メディアのナスパーズ、通信のMTNグループ、金融のエコバンクといった企業だ。彼らは、数々の厳しい状況を跳ね返して、国際的なビジネスを展開してきた。アフリカ諸国でデジタル統合を進展させるうえでは、こうした民間企業を参考にし、さらには彼らをパートナーにすることが有効かもしれない。

 デジタル統合を実現するためには、民間企業と政府機関、そしてアフリカの地域レベルで活動する団体が協働しなくてはならない。アフリカ各国通貨での決済を可能とした「汎アフリカ決済システム」(PAPSS)は、そのようなアプローチが実現可能であることを実証した。PAPSSは、アフリカ連合(AU)とアフリカ輸出入銀行のパートナーシップの産物であると同時に、いくつかの大手アフリカ民間商業銀行のネットワークに頼っているシステムである。

 もともとPAPSSは、アフリカ地域内の一元的な決済システムとして、2022年1月に正式に発足した。その目的は、地域内の商取引を促進することと、経済的統合を深めることにあった。アフリカにはざっと42の通貨があるが、この新しいシステムができたおかげで、アフリカ諸国間の貿易取引は現地通貨で決済できるようになった。結果として、コスト削減が実現し、決済スピードも高まった。

 PAPSSが導入される前、アフリカの2国間で支払いを行うには、まず一方の国のアフリカ通貨をドルやポンド、ユーロに換えて、その後、その外貨をもう一つの国の通貨に換える必要があった。こうしたプロセスを経ることにより、アフリカ諸国間の通貨取引のコストが膨れ上がり、その金額は年間で推定50億ドルに上っていた。