
不適切な成果測定は、戦略の方向性を誤る原因に
事業成果の測定は、その事業の戦略と密接に関連する。もしくは、関連していなくてはならない。ところが意外にも、筆者が長年にわたり目の当たりにしてきたように、あらゆる組織が、戦略設計と成果測定を整合させることに苦労している。
これは非常に深刻な問題である。なぜなら、信頼できるKPI(重要業績評価指標)がなければ、事業戦略の成果を追跡することはほぼ不可能だからだ。逆にいえば、不適切な成果測定によって、戦略目標は方向性を誤る可能性がある。どちらの場合も、間違った意思決定に基づいたパフォーマンスを繰り返すことにつながりかねない。
そこで本稿では、マネジャーが戦略の成果を測定する際に陥りがちな3つの罠について考察し、それらを回避する方法を説明する。
1. 戦略と成果を測定する枠組みの不整合
ロジャーは州政府の幹線道路局のCEOである。彼は就任時、自身が支持していた「地域」ベースの戦略の枠組みを導入した。これはその頭文字を取って、KRA(key result areas:重要成果地域)と名づけられた。彼は幹線道路の戦略計画を、エネルギー削減、ガバナンス、資材調達といった事項に基づいて取りまとめた。
問題は、この戦略計画が、
このずれが深刻な機能不全をもたらし、幹部らは何とか事をうまく運ぼうと努力する中で大量の時間と労力を浪費した。ある幹部は顔をしかめ、こう述べた。「まるでフォードのパーツをメルセデスベンツに組み込もうと努力するようなものでした。まったく適合しないのです」
解決方法:主要ステークホルダーを中心に据える
マージョリーは、自閉症の人々をケアする非営利組織のトップを務めている。組織にCEOとして加わった時、彼女は「戦略計画の枠組みと、KPIの組み立て方の間にあるずれ」に直面したという。
同組織の戦略計画は、予算超過、補助金の獲得、スタッフの雇用といった「重要課題」を中心に構成されていた。KPIは、人事、経理・財務、運営などさまざまな情報源からの指標の寄せ集めであり、「運営経費」や「スタッフ研修コースの実施数」などが混在していた。
彼女の解決策は、戦略とKPI、両方の焦点を、組織の主要ステークホルダーを中心に定め直すことであった。つまり、自閉症の人たちとその家族、政府、寄付者、支援者およびスタッフである。
たとえばスタッフというステークホルダーの場合、マージョリーの組織は自閉症の人たちとその家族に提供するサービスのイノベーションを強化したいと望んでいた。そのためには、雇用条件を向上させて一流の臨床医を惹きつける必要があった。したがって成果指標の一つは、相応の資格を持つ心理士からの求職応募数の増加とされた。「こうしてようやく、組織の戦略計画とスコアカードが噛み合うようになったのです」と彼女は語った。