3. 非現実的な期待をする
上級エグゼクティブは人に助けを求めたがらず、新しい職を探しているという噂が立つのを嫌うので、たいてい、さっさと人脈づくりを終えたいと思っている。あるいは、自分は上級エグゼクティブなので、さほど人脈づくりに時間がかからないと思い込んでいる。しかし残念ながら、上級になればなるほど、ぴったりの職を見つけて合意に至るのに必要な時間は増える傾向がある。ルラークの経験では、求職期間は最短で約3カ月、長ければ1年半にわたることもある。
有効な人脈の構築には時間だけでなく、多大な労力、スタミナ、効率、忍耐を要する。それには主に3つの理由がある。
第1に、筆者らが発見したように、次の職を探す人々のごく一握りしか、自分がどの企業で働きたいのか、はっきりとわかっていない。市場を十分に理解していないか、ターゲットを絞った求職活動によって何を見つけたいのかが自分でもわかっていないため、リサーチや非常に大まかで探索的な人脈づくりから始めなければならない。そのため時間がかかるのである。
第2に、あなたが望み、あなたに最も合っている職が実際に得られるとは限らない。筆者らは、高度な能力と豊富な経験を備えた人々が次の職を見つけるまで、耐えがたいほどに長い時間がかかるのを見てきた。最近イバーラが観察したエグゼクティブは、過去の経歴から考えて、自分は大企業の取締役会の監査委員としてうってつけだと思っていた。ところが企業の選抜基準が、多様な職歴を受け入れる方向に変化していく過程で、望む職を得るまでにかなり待たなければならなかった。
第3に、今日のほとんどの企業の審査プロセスは、入念で時間がかかり、予測しにくいため、雇用までのプロセスがさらに数カ月長引くことも少なくない。
上級エグゼクティブの求人市場は需要と供給のバランスが複雑で、あなたがコントロールできることは驚くほど少ないと認識しておくとよい。人脈づくりを進めつつ、このつらい状況を前向きに乗り切るよい方法は、あなたが直接的な影響を及ぼし、感謝してもらえるような、刺激のある活動でカレンダーを埋めることだ。たとえば、地域活動、ボランティアでのコンサルティング、短期のアドバイザー、非常勤の教育活動などが挙げられる。こうした活動は、人に助けを求めて助けられるのを待つという、重荷とまではいえないにしろ、その所在無さを埋め合わせてくれる。また、一時的とはいえ、傷ついたエゴに肯定的なアイデンティティを与えてくれるだろう。
4. 必要な労力をかけたがらない
自分のために何かをしてもらうことに慣れっこになっているエグゼクティブは、他人に委託できない職探しの地道な仕事に時間をそそぐのをしばしば躊躇する。しかし、人脈づくりを成功させるためには、この作業を時間とエネルギーをそそぐ十分な価値があるものとして扱い、順序立てて計画的に取り組む必要がある。
ルラークはその一助として、連絡先を3種類に分けてコンタクトを取る人脈づくりのプロセスを編み出した。3種類の連絡先とは、情報提供者、扉を開く人、そして意思決定者である。情報提供者は市場や企業、雇用の傾向について教えてくれる人であり、あなたが状況を把握し、人脈づくりの不安を克服する手助けをしてくれる人だ。扉を開く人として典型的なのは、かつて一緒に仕事をした人々である。彼らはすぐに反応してくれるし、あなたの人柄や仕事のスタイルを知っているので、あなたのことを保証してくれる。意思決定者にもあなたを紹介してくれるだろう。
このプロセスを活用したいなら、まずは雇い主からクライアント、顧客をすべてリストアップすることから始めるのが最もよいだろう。次に、これらの中で会ったことがある人の名前を書き出す。100人の名前がすらすら出てくるかもしれない。
職探しを計画し、ターゲットを絞り、区分するのにどのようなアプローチを取るとしても、必ずすべきことは一緒に仕事をした人々のリストをつくり、順序立てて連絡を取ることである。
これは学習しながら進むプロセスで、あらかじめすべてを計画することはできない。一人ひとりに接触するたびに、ほかに会うべき人は誰だと思うかを聞く「雪だるま方式」を採るのがよい。特に、あまり馴染みのない市場に興味がある時にはよい方法だろう。その場合は、ルラークのいう「雲に覆われた谷」で人脈づくりをすることになる。谷には多くのチャンスがあるが、見慣れないものばかりなので探索をする必要がある。こうした探索をしなければ、自分の選択肢を狭め、キャリアの成長を妨げることになる。
高コストで高リターンを求める作業ではあるが、それだけの報いはある。ルラークによると、リストのうち50人以上に接触したあたりで、築き上げた人脈の中からあなたに接触したいという人が現れ始める。そこからは、人脈づくりのプロセスがおのずとあなたを前進させてくれる。
5. 「語り」に過度に集中する
助けを求めるべき相手に接触できたら、何を話すかという大切な問題がある。エグゼクティブは肝心な点、つまり新しい仕事が必要であることに触れないまま、共通の知人や経験についての雑談に、人脈づくりの会話の大部分を費やすことがあまりに多い。
特に上司とうまくいっていないことや解雇されたことを隠さなければならないと感じている時にありがちだ。最初から守りの姿勢で会話に入り、曖昧な表現で言葉を濁し、自分の公的イメージを守ることにエネルギーをそそぎ、学べるものを学ぼうとしない。これでは、自分と相手の多くの時間を無駄にしてしまう。
もう一つの非生産的なやり方は、なぜ現状に不満なのか、辞めようとしているのか、解雇されたのかを説明するのに80%の時間を費やすことである。前向きな姿勢で将来に焦点を当てて会話すべきところ、焦点を過去に固定してしまう後ろ向きのアプローチだ。持ち時間の20%で状況を説明し、残りの80%は何を求めているかに焦点を当てるほうがはるかにうまくいくだろう。
人脈づくりのための会話のベストプラクティスは、直接的で、簡潔で、前向きであることだ。先方が知りたいのは、あなたがなぜ声をかけてきたか、何を求めているかである。相手が上級レベルの人ほど、次のように簡潔で要領よくまとめた話を期待する。「このようなわけで、お電話しました。このことで手を貸していただきたいと思っています。以上の2点についてお話しする時間を10分間いただけますか」
6. 相手に合わせて話を調整しない
転職を目指すエグゼクティブは、途方もなく多くの時間を費やして一つの台本を完璧に仕上げようとする。わずか数十秒で「中核的なスキルと能力」を売り込む、いわゆる「エレベーターピッチ」である。この台本ならどこでも通用すると思い込んでいるのだが、ほぼ例外なく、聞き手のニーズに十分に適合しない代物ができあがる。
多くのエグゼクティブはヘッドハンターに接触する時と同じやり方で、人脈づくりを試みる。ごく一般的な内容のメールを作成し、送り先の名前と1つか2つの文だけを変えて、履歴書を添付し、多くの人に送信する。同じように、多くのエグゼクティブは面接においても、たとえ先方に特有の状況や要件に合わなくても、ロボットのように1分間の売り込み口上を披露する。
それではうまくいくはずがない。無論、中核となるストーリー(自分はどのような人物で、なぜここに来たか)を考えることは大切だ。だが、会う人すべてに同じ自己紹介が通じるとか、聞く人がみんな、あなたの売り込み口上を自分のビジネスの文脈に置き換えられると思い込むべきではない。
最後に、覚えておいてほしいのは、自分を語ることが主目的ではないという点だ。もし自分に本当に適した職を確保したいならば、自分についての話からスイッチを切り替え、その企業と企業が抱える問題点について豊富な知識に基づいて語り、さらにはあなたが問題を解決するのに適任であることを明確に伝える必要がある。ルラークが発見したように、それこそが自分のチャンスをつくり出すのだ。彼がコーチした最上級レベルのエグゼクティブの多くが、面接以前には存在すらしなかった役職へと転職している。
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上級エグゼクティブにとって、人脈づくりはデリケートで複雑で時間のかかる作業である。エゴと短気を自制しなければ、成功の妨げになるだろう。最もよいのは、人脈づくりを単に次の職を探す機会としてではなく、既存の関係を強めたり深めたりする機会として考えることだ。そこに、次の仕事やそれ以降において、より優れたプロフェッショナルになるための助けとなる新しい関係を加えることができれば、なお素晴らしいだろう。
"The Challenges of Networking as an Executive," HBR.org, September 05, 2023.