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世代が交錯するリーダーシップを目指す
気候変動や生物多様性の喪失などの課題に取り組むには、技術的な革新が必要である。そこでカギになるのが、新しいアプローチを発見しようとする強い好奇心だ。しかしそれだけでなく、私たちの信念や行動をそれに合わせて変えていこうとする意欲、さらには熱意も同じくらい重要である。
そうした好奇心や熱意は、組織の持つリーダーシップ構造によって発揮が阻まれている。変革を推進する最も権力を持つ人が変革に最も熱意を持っているとは限らず、最も熱意のある人が最も力を持っているとも限らないからだ。
ベテランのリーダーは、自分の在任期間中に実現しそうにない長期的な利益より、短期的な結果を優先するかもしれない。さらに、自分の成功を支えてきた考え方や組織構造を、見直したがらないかもしれない。反対に若いプロフェッショナルは、今後の長いキャリアを考えて、長期的な見返りにつながる新しい道を追求することに前向きかもしれない。ただし、彼ら若い世代は通常、自分の組織に変化をもたらせる立場にない。
世界中で社会の高齢化が進み続ける中、企業は労働力の年齢的な多様性を高め、より年長の経験豊富な労働者を受け入れることが求められている。しかし筆者たちは、この目標には賛同するが、別の方法でもエイジダイバーシティ(年齢の多様性)を高めるべきだと考える。リーダーシップ構造が高齢化していても、経験の浅い人材が加わることで、経験と好奇心、効率的な実践と大胆な探求という緊張関係のバランスがとれるようになる。世代が交錯するリーダーシップを目指すことは、持続可能な未来を築くという企業の努力を加速させつつ、競争優位性を引き出すことにつながる。
新しい経験の探求から新しい経験曲線へ
現在、ビジネス界のリーダーは経験豊富な人材が圧倒的に多い。フォーチュン500やS&P500のCEOの平均年齢は58歳。2005年以降、CEO就任時の平均年齢が約20%上昇し、46歳から56歳になったというデータもある。
将来の環境が過去と似たようなものになると予想され、企業の主な目標がその安定した環境をこれまで以上に効率的に乗り切ることであるなら、経験豊富なリーダーを採用することは理にかなっている。蓄積された経験に対してコストが対数的に減少する経験曲線を描くことになり、一般的な経営戦略に沿った考え方といえる。
ただし、今日の不安定な状況では、経験はすぐに古くなり、かつてないほど価値が薄れていくかもしれない。元ダウ・ケミカルCEOのアンドリュー・リバリスは著書Leading Through Disruptionで、自分が2000年代初めに他社のリーダーたちからもらったアドバイスは、いまではほとんど時代遅れだと指摘している。「今日のビジネス環境は20年前とはまったく別物で、過去の教訓やスキルをどのように展開するかを考えるためには再考と再教育が必要である」
状況が変化している時、古いパラダイムは時代遅れになるだけではない。新しいアイデアや考え方が早急に求められている時だからこそ、進歩を妨げかねないのだ。現在のアプローチを最適化すれば、陳腐化に向かうだけだ。したがって、企業は現在の経験曲線をそのまま滑り降りようとするのではなく、ビジネスを再構築することによって、新しい経験曲線に飛び移る能力を開発する必要性がますます高まっている。
研究が示す通り、経験の浅い人材をリーダーとして登用すると、求められる創造性と柔軟性を解き放ちやすくなる。年齢が多様なリーダーシップチームは認知的な緊張関係を生み出し、学習を促進する。環境や持続可能性の問題など、新しい重要テーマへの認識を高めることを若い世代が手助けするのだ。
若いリーダーの関与は、経験豊富なリーダーがリスクの低い戦略に傾きやすいことの対抗勢力になるかもしれない。たとえば、取引を減らし、R&Dへの投資を抑えるなどの傾向は、より年長のCEOが率いる企業の特許出願が減少しているという事実にも反映されている。最後に、若い人材ほど、現状の変化に対する嫌悪感が低いため、成功の罠にはまりにくくなる。つまり、過去の成功を支えている前提に囚われにくくなるのだ。
これらの要因は、企業全体の成果に反映される。企業の活力(企業の長期的な成長可能性を測る尺度であり、新たな選択肢を模索して戦略を刷新する能力によって決まる)は、CEOの年齢と負の相関関係がある(創業年数と企業規模の調整後。下記のグラフを参照)。さらに、年齢が多様なリーダーシップチームは、持続可能なビジネスモデルの採用を推進する際も有利に働き、企業の社会的責任に関連した成果を向上させるという研究結果もある。
もちろん、こうした傾向は年齢や勤続年数といった単純な関数ではなく、すべての個人に当てはまるわけでもない。それでも、リーダーシップチームにおける好奇心と経験のバランスを見直して、激変の時代にリーダー層の高齢化を逆行させるべきだと主張する根拠になると、筆者たちは考える。
では、企業はどのようにしてリーダーシップチームの多様性を高めることができるだろうか。