若いリーダーを積極的に抜擢する
この取り組みは、すでに多くの企業が積極的に行っている。有望な人材を引き上げるファストトラック、若手イノベーターの表彰、メンタリングプログラムなどを通じて、将来のリーダー候補のプールを構築している。筆者らは、さらに大胆で緊急性の高い試みを始めてもらいたいと考えている。以下では、さまざまな潜在的な解決策について概要を説明しよう。
コンサルテーション
破壊的なインパクトが最も少ないアプローチは、戦略の方向性を設定する際、次世代とより組織的に協議することだ。たとえば、シャドーボード(影の取締役会)や若手リーダーの会議という形で、主要な戦略的イニシアティブや重大な決断について、エグゼクティブではないが優秀な人材がシニアエグゼクティブと協力する。
こうした場は、経験豊富なリーダーに新しいアイデアや視点をもたらし、世代間の溝を埋めやすくなる。グッチや国際石油大手のトタルエナジーズなどが若手社員のシャドーボードを導入し、ビジネスのさまざまな問題を協議している。そして、その成果は前向きなものが多い。
たとえば、メーベンピック・ホテルズ・アンド・リゾーツは自社施設の予約アプリの作成を検討していたが、シャドーボードは、顧客が新しいアプリをダウンロードしたり、そのパスワードを覚えたりすることを嫌がるだろうと指摘して反対。代わりに、モバイルで使いやすいウェブインターフェースを開発して、時間とリソースを節約することを提案した。
グッチCEOのマルコ・ビッザーリが言うように、シャドーボードの洞察は「エグゼクティブへの警鐘になる」。このような取り組みを成功させるためには、新しいアイデアを探求できる安全な場であることを明確にしなければならない。あわせて、提案が組織の意思決定に組み込まれて真剣に検討されることも重要だ。
共同リーダーシップ
ベテランと若手のリーダーが、説明責任と意思決定権を共有するモデルを試すこともできる。共同CEOもその一つで、実際に株主価値にプラスの影響をもたらすことが研究で示されている。その成功は、共同リーダーがスキルを補完し合い、責任が明確に定義されていて、確かな相互のコミットメントがあるかどうかで決まる。
複数の世代によるリーダーシップチームを企業が正式に採用することは比較的珍しいが、注目に値する例もある。2001年にグーグルの共同創業者(ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン、ともに当時28歳)は、経験豊富な技術系エグゼクティブでソフトウェア開発会社ノベルの元CEOエリック・シュミット(当時48歳)を口説き落として会社に迎えた。
シュミットは会長兼CEOとして、ペイジとブリンの言う「大人の監督」を務め、一方で共同創業者2人はそれぞれ製品部門担当社長と技術部門担当社長に就き、主要な経営幹部として、大株主として、重要な意思決定権を持ち続けた。この世代を超えた3人体制により、シュミットの経験に基づく助言と指導の下、共同創業者たちの革新的な能力が発揮された。
垂直分割(縦割り)
次世代の発言力を強化するもう一つの方法は、意思決定機関を縦割りにすることだ。具体的な例として、国政における長年の慣行を手本にした「二院制」の統治機構が考えられる。この構造では、斬新な政策を提案する「下院議会」と、それを承認したり変更を提案したりする「上院議会」を置く。両議会の顔触れには、それぞれ異なる経験レベルが反映される。たとえば、若いリーダーが新しい政策を提案し、それを経験豊富なリーダーが吟味して洗練させるというパターンもある。
この考え方はテクノロジーの分野で先例がある。メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)のオーバーサイトボードは言わば「上院」で、社内で行われたコンテンツモデレーション(投稿監視)の判定をレビューし、その審査をもとにポリシーに関する提言を行っている。
ガバナンス構造をこのように大胆に変更する際は、意思決定の効率とスピードを低下させる危険性があるため、新しい機関の意思決定の範囲を明確にすることが極めて重要になる。その範囲と責任を拡大する前に、どのような設定が有効かを試す。
水平分離(横割り)
水平分離のアプローチはガバナンスに留まらない。たとえば、各事業のライフステージに合わせて、異なる時間軸で能力開発や製品の提供を担当する「臨時ビジネスユニット」を構築する。シニアリーダーシップチームの役割は、互いに矛盾したり、あるいは相乗効果を発揮したりするような複数の視点を比較検討して、統合することだ。
その例として、機械学習とAI(人工知能)開発におけるアルファベットの分化的なアプローチがある。そこではグーグルが検索アルゴリズムの基礎となる技術の短期的な改善を担当し、ディープマインドは長期的なAGI(汎用人工知能)の開発に重点を置いている。しかし、両者の協働から生まれたAIチャットボット「バード」のように、ブレークスルーがより直接的な利益をもたらすこともある。
世代交代
最も大胆なアプローチは、任期に制限を設ける、定年制を導入する、最も経験豊富なリーダーのために新たな役割を設けるなど、より若いリーダーのためのスペースをつくって次世代への道を開くことだ。
ピーター・ドラッカーも、「年長者がトップエグゼクティブの座を明け渡さない限り、年少者は出世できない」と書いている。S&P1500の半数以上がCEOや取締役に年齢の定年制を導入しているが、勤続年数に基づく退任規定はまだ例外的である。こうした厳格なルールは、定期的な業績評価や、特定の状況を考慮した後継者育成計画と組み合わせる必要がある。
最後に、意思決定機関のエイジダイバーシティを確保するために人員構成の目標やルールを制定することによって、次世代の台頭を加速させることができる。
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気候変動など現代の課題に取り組むうえで、企業は極めて重要な役割を担っている。この分野で企業の有効性を高めるには、社会に必要なイノベーションの開発に企業がもっと関心を持ち、それにふさわしい行動をすることに、もっと積極的にならなければならない。そして、現在のリーダーシップの構造は、その妨げになりかねない。世代をまたいだリーダーシップチームを目指すことは、こうした問題を克服し、企業の再生能力を高めることによって競争優位性を引き出すためのカギとなる。
筆者注:この記事は2023年のザンクトガレン・シンポジウムに端を発している。このシンポジウムは学生主導の世界的なプラットフォームで、シニアリーダーと新進のリーダーを交えて世代を超えた対話を促し、喫緊の課題を議論して変革の実現を目指している。2023年のメインシンポジウムと通年のイニシアティブは「新たな世代間契約」というテーマを掲げ、世代間のつながり、相互の義務、将来の世代に対する責任の共有について探究した。
"Businesses Need to Bring Younger Employees into Their Leadership Ranks," HBR.org, October 12, 2023.