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クロストレーニングが柔軟性の高い店舗運営を可能にする
人々は再び外食をするようになったが、飲食店は必ずしも十分なサービスを提供できていない。他の多くのサービス業と同様に2つのオペレーションの課題に直面している。まず、十分な人数の従業員を惹きつけ、体制を維持すること。そして、非常に変動の激しい需要に対処すること。これらを改善する手段の一つがクロストレーニングである。つまり、さまざまな業務に対応できる従業員の育成だ。
クロストレーニングは強力なツールだが、けっして新しいアイデアではない。コストコやトレーダー・ジョーズなど低価格戦略の小売業者が、顧客によりよい価値を提供しながら競合他社より高い給与を払うことを可能にする「グッドジョブ・システム」の一部として、筆者(ゼイネップ)はいち早くクロストレーニングに注目した。
サービス業だけでなく、トヨタ自動車など製造業者でも以前から、フロントラインで働く人々のモチベーションを高め、継続的な改善に参加させるために、クロストレーニングを実践してきた。また、J.リチャード・ハックマンとグレッグ R.オールダムは1976年の画期的な研究で、さまざまな業界で従業員のモチベーションを高める要因の一つとして、タスクの多様性を挙げている。
従業員が顧客対応と非顧客対応の両方をこなせるようにクロストレーニングを受けていれば、需要やビジネス上の必要性に応じて仕事を調整できる。もちろん、これは企業にとってよいことだが、働く人にとっても、よりよい仕事になる。一つには、従業員の生産性が向上して貢献度が高まれば、企業は彼らにより多くの給与を支払うことができる。たとえば、コストコの標準的な従業員が一般の小売店より時給が10ドル近く高いのは、彼らの生産性が高いからこそだ。
クロストレーニングは、従業員が自分のキャリアアップやキャリアパスで活用できる能力を身につけることも後押しする。さらに、より安定したスケジュールが可能になる。1日や1週間の中で勤務する人数を細かく変えるのではなく、より一貫性のあるチームを維持することができ、誰が勤務予定かではなく、どのような仕事をするかを変えるだけでいい。
ただし、これらのメリットは、専門性やオーナーシップの欠如というデメリットとバランスを取らなければならない。筆者たちのグッド・ジョブズ・インスティテュートでは、さまざまな小規模の飲食企業との取り組みを通じて、サービスや仕事の質を向上させるためにクロストレーニングを最大限に活用できることを示してきた。仕事の設計や業務に柔軟性を持たせるために、あらゆる業界がこれらのアプローチから学ぶことができる。
小規模な飲食企業3社におけるクロストレーニングのアプローチ
従業員がすべての業務をできるようにする必要はないが、ちょっとしたクロストレーニングでも大きな効果をもたらしうる。筆者たちが携わった小規模な飲食企業3社はそれぞれ、柔軟性と専門性、オーナーシップのバランスを取る独自の方法を見出した。
カウンターサービス
モーズ・オリジナルBBQチェーンの2つのフランチャイズ店では、接客チームと厨房チームの間に厳格な境界線があり、需要のピークに合わせて調整することが難しかった。オーナーのデューイ・ハスブルックは、2つの専門チーム間でクロストレーニングを導入し、ボトルネックになりやすい仕事を互いにカバーできるようにした。たとえば、カウンターの列が長くなったら、厨房スタッフが電話に応対し、テーブルに料理を運んで、持ち帰りの注文を袋に詰める。厨房の仕事が滞っている時は、接客スタッフがカップにソースを入れ、アイテムを補充し、基本的なサイドメニューの準備をする。
ベーカリー
シー・ウルフ・ベーカリーでは、製造チームはベーカリーでパンを焼き、販売チームはニューヨーク市内のグリーンマーケットで販売を担当して、交流はめったになかった。それぞれ忙しい時間帯も異なり、製造チームは金曜日にパンの仕込みに追われ、販売チームは土曜日が一番多忙だった。
オペレーション責任者のキム・ヴァレホは、2つのチームをよりよい形で統合するチャンスに気がついた。すでにパン職人は一部の梱包作業のトレーニングを受けていたが、販売チームに新しく採用したメンバーを対象に、有給で4時間のパンづくりのオリエンテーションを始めたのだ。彼らは食洗器を操作したり、フライパンに油を塗ったりなどベーカリー部門の基本的な補助作業を学び、ベーカリー部門が忙しい時間に大いに貢献できるようになった。そして、2つのチームの交流が増えて、助け合おうという意識が高まった。
フルサービス
ニューヨークを中心に店舗を構えるメキシカンレストランチェーンのタコンビは、 ニューヨーク市の厳しいチップ規制の下では、チップが発生しない職務のスタッフは接客業務をすることができないという事情を踏まえた上で、クロストレーニングを導入した。タコンビはフルサービスを提供しており、職務の専門性が高いスタッフが多い。ホールには客を出迎える係や接客補助、給仕係がいて、バックヤードには皿洗い担当や下ごしらえ担当、品質管理リーダー(キッチンの流れを管理して品質をチェックする)、そしてシェフなどがいる。
オペレーション部門の責任者ホセ・デ・ラ・カンパは、これらの専門職のスケジュール管理が非常に複雑で、誰かが病気で休むとサービスに問題が発生することに気づいた。仕事量が時間的に均等ではなく、あるタイミングでは、下ごしらえの担当者は何もやることがないのに、皿洗い係は目が回るほど忙しいということもあった。しかし、彼らは助け合うようなトレーニングを受けておらず、助けてくれるだろうと思う人もいなかった。
そこで、デ・ラ・カンパは専門的な仕事の数を減らした。たとえば、多くの店舗で下ごしらえ担当と皿洗いの仕事を一つにまとめ、料理長と品質管理リーダーの役割を統合し、客を出迎える役割をなくして、その仕事を給仕係などほかの接客スタッフに再配分した。