コーチのように考える
高いパフォーマンスを発揮した従業員については、話し合いが順調に進む傾向が強いが、結果を残せなかった従業員の場合、抵抗したり、自身のパフォーマンスを正当化しようとしたりすることもあると想定しておこう。「従業員が自分でコントロールできない要因について、罰を与えたり、責任を負わせたりすることは避けなければならない」が、その一方で、彼らの間違いに対処することは極めて重要だと、セダトールは言う。
モンダルが提唱するのは、悪天候で行われたサッカーの厳しい試合の後に、コーチが選手とともに振り返りを行う際のアプローチだ。選手は雪で滑りやすくなったピッチについて文句を言うかもしれないが、「コーチとしては、『たしかに厳しいコンディションだった。試合中によかった点が3つ、不十分だった点が2つあった』と伝える必要がある」。その状況下で適切に振る舞えた点だけでなく、改善の余地がある点も認めることで、評価と建設的な批判のバランスを取れるのである。「選手がうまくプレーできなかったとしたら、それに対処するのはコーチの責任だ」と、モンダルは言う。
低パフォーマンスの従業員に対処する時は透明性を保つ
年間を通じて一貫してパフォーマンスが低かった従業員に取るべき対応は、仕事の性質、本人の能力、改善への意欲、そしてその従業員をサポートし軌道修正させる余力があなたにあるかなど、さまざまの要因によって変わる。
先行きが不透明な経済状況においては、低パフォーマンスの従業員に忍耐強く対応できないケースも多い。そのため、セダトールは業績評価の際は、率直に向き合うことを勧めている。雇用の安定性については、実際に雇用が脅かされる事態に至るかどうかに関係なく「守れない約束はしないこと」。「不必要に不安を煽るべきではないが、透明性は重要だ」と、セダトールは言う。
業績評価は、期待値に達していない点を正確に指摘できる格好の機会である。サポートを提供し、励ましの言葉をかけることが適切な場面では、そうすべきだ。「パーソナルな指摘と受け取られるかもしれないが、平凡な評価や悪い評価であっても、その人が悪い人間だというわけではなく、単にその1年がうまくいかなかっただけだ」と、モンダルは言う。「『彼らがその1年を長期的なキャリアの軌跡の一部としてとらえられるようにサポートすること』があなたの仕事だ」
金銭以外でモチベーションを高める手段を探る
苦しい時期に上司が担うべき役割は、チームメンバーのモチベーションを高めて鼓舞するだけでなく、昇給や昇進の見込みがなくてもやる気を失わないよう支えることだ。ビジネスが苦境にあるせいで、チームメンバーが1年間積み上げてきた努力と成果が埋没してしまうのは残念すぎる。
「『ボーナスを出せないのに、彼らのモチベーションをどうやって保つのか』と思うかもしれない」と、セダトールは言う。幸いなことに、研究によれば方法はある。「仕事のほかの面を改善することで、仕事への満足度を高める」のだ。
研究によれば、従業員に自律性や成長体験、意義深い仕事を与えることが、モチベーションを高める強力な手段となる。業績評価の際に、どうすれば仕事の満足度を高められるか質問するとよい、とセダトールは提案している。メンターシップの機会や、新しい分野や同僚と接点を持てる部門横断型プロジェクトに関心がある人もいれば、勤務時間や勤務地の柔軟性を重視する人もいるかもしれない。
スタープレーヤーに特別な注意を払う
スター社員からの返答には注意深く耳を傾けるべきだと、モンダルは言う。「ポテンシャルの高いトップパフォーマーは特にインスピレーションを必要としている。彼らは急勾配の学習曲線に魅力を感じている。飽きると曲線が平坦になるため、クリエイティブな対応で急勾配を維持させる必要がある」
挑戦しがいのある課題や新たなチャレンジは、モチベーションを引き上げる効果が高いとモンダルは指摘する。彼らがシニアリーダーの目に留まりやすいよう後押しする方法を探ってみることも有益だ。
今後の可能性について話し合う際には、たとえすぐに昇進がかなわなくても、景気が回復すればチャンスはあると強調することが大切だ。「組織が苦難を乗り越えるために、その人が重要な役割を担っており、事態が好転すれば個人的な利益も得られるとわかってもらおう」と、モンダルは言う。「この難局を耐えて乗り切れば、彼らはいずれはビジネスリーダーとなり、社内で成長できる」
最後は前向きな言葉で
確かに経済状況は不透明だし、競合他社との競争も激しい。しかし、マネジャーであるあなたの役割は、チームメンバーを団結させ、これから始まる1年に向けて彼らを鼓舞することだ、とセダトールは言う。
業績評価の最後は、楽観的な言葉で締めくくるべきだ。口先だけの言葉に終わらず、景気変動にはサイクルがあると強調しよう。そして、彼らの努力に感謝を伝え、彼らにとっての「真の北極星」が何かを思い起こさせよう。一流のサービスや製品を顧客に提供することかもしれないし、革新的な解決策を編み出したり、助け合える職場の風土を生み出したりすることかもしれない。
さらに、彼らの業績を認めることも重要だとセダトールは付け加える。「自分が高く評価されているとわかってもらおう。『あなたの仕事は極めて重要だ。その理由は以下の通りだ』と伝えよう」
覚えておくべき原則
すべきこと
・厳しい経済状況や従業員のコントロールが及ばない外的要因の存在を認め、現実的かつ支援的なトーンで対話を進める。
・日々のタスクが会社全体の業績にどう影響するかを理解させることで、従業員の目的意識を高める。
・自律性や成長体験、業績の承認、有意義な仕事、柔軟性の向上を提供するなど、モチベーションを高める代替手段を模索する。
すべきでないこと
・十分な準備を怠る。業績評価に先立ち、よい点も悪い点も含めて従業員のパフォーマンスを振り返り、他の同僚にも意見を求めよう。
・従業員にコントロールできない要因を従業員のせいにする。代わりに、成果を認めつつ、改善点を強調するというバランスの取れたコーチングを行う。
・不快な話題で対話を終わらせる。彼らの努力に感謝の意を示し、彼らが評価されている理由を思い起こさせよう。
"How to Conduct Motivating Performance Reviews When Business Is Down," HBR.org, December 20, 2023.