
柔軟性のある働き方が謳われ、オフィス再開後も在宅勤務と出社勤務を組み合わせたハイブリッドワークを導入する企業は少なくない。だが、ほとんどの場合、出社日数が決められていたり、曜日によって働く場所が指定されていたり、いわば「管理された」状態にある。それは従業員が本当に求めている柔軟性とは異なると、筆者らは指摘する。なぜならば、いつどこで働くかを自分自身が決定できる状況、つまり自律性を前提とした柔軟性ではないからだ。従業員の自律性を認めることは、彼らのモチベーションやエンゲージメントを高め、ひいては組織としての競争力向上にもつながる。本稿では、筆者らの最新研究を踏まえて、自律性の果たす役割を論じ、企業がハイブリッドワークの中でいかにそれを推進すべきか、3つのステップを提示する。
流行語を見る限り、いまや「柔軟性」(フレキシビリティ)という言葉は、新しい働き方を意味する「ハイブリッドワーク」に匹敵するくらい頻繁に使われるようになった。
柔軟性とハイブリッドワークという言葉はどちらも、仕事の未来に関する私たちの会話を乗っ取り、仕事と生活のさらなる融合に関するまったく新しい考え方を構成している。
しかし、流行り言葉のご多分に漏れず、柔軟性という言葉にはさまざまな解釈が登場している。たとえば、「どこからでもつながり、仕事を成し遂げる能力」だと考える人たちもいれば、「週に2、3回は在宅勤務をしてもよい」という意味だと考える人たちもいる。
とはいえ、こうした定義はどれも、従業員が「柔軟性を求めている」という時に意味する内容とは、厳密には違うようだ。従業員が本当に求めていると思われるのは柔軟性ではなく、自律性のようである。ハイブリッドワークの文脈でいえば、いつどこで仕事をするかについて、第一の決定権を持つということだ。
リーダーが柔軟性を促進し、ハイブリッドワークを成功させるためには、従業員の自律性を認めることが最も重要となる。
従業員は自律性を前提とした柔軟性を望んでいる
筆者らの新たなハイブリッドワークに関する研究で、世界の知識労働者5000人以上を対象に、未来の働き方に何を求めるかを尋ねたところ、給与や福利厚生よりも柔軟性が重要だと答えた人が59%に達した。また、素晴らしい社屋よりも、どこからでも働ける柔軟性を与えてくれる会社で働きたいと答えた人が77%に上った。
だが一方で、経営陣には「いつオフィスに出社する必要があり、いつ在宅勤務をする必要があるかを、チームメンバーで決められるようにしてほしい」と答えた人も61%に達している。
筆者らの調査結果が示しているのは、従業員が求める柔軟性とは「最も適切な形で、柔軟性を行使する能力を自分たちが持っていること」を条件としている点だ。つまり、自律性を前提とした柔軟性である。
「義務化は自律性が侵害されているように感じさせる。自律性は、脳における脅威と報酬のうち、最も重要な5つの内的要因の一つだ」
HBR.orgに最近掲載された論考で、ニューロリーダーシップ・インスティテュート共同創業者のデイビッド・ロックと同社コンサルタントのクリスティ・プルイット=ヘインズがこのように書いたのは、企業による新型コロナウイルスのワクチン接種の義務化を論じた時だった。
しかし、筆者らの調査では、出社再開義務についても、従業員は同じようなレベルでというよりも、むしろ一段と強い嫌悪感を示していることが見て取れる。調査対象者の59%が、週5日出社を義務づける会社では働かないと回答したのだ。
この嫌悪感は、出社再開を強制しようとした一部企業で、すでに示されている。たとえば、アップルが従業員には週3日以上の出社が期待されると告知したところ、それによって複数の退職者が出たと報じられている。
同社の従業員は、経営陣に宛てた公開書簡の中で「自分の声を聞いてもらえていないだけでなく、時にはあえて無視されている」と感じることを訴えた。そして、アップルにおける仕事の未来について、従業員のビジョンを示すとともに、「リモートワークおよび働く場所を問わないフレキシブルワークの決定は(中略)採用決定と同様、チームが自律的に下せるべき」ことを求めた。
これらのデータはすべて、仕事の未来像を描く時、それは自律性の行使から得られる柔軟性に基づいたものであることを示している。また、ハイブリッドワーク戦略、すなわち、いつどこで働くかについて詳細な方針を定めることによって、柔軟性を確保しようとするアプローチは最適ではない、あるいは大多数の従業員からきっぱりと拒絶されていることも示唆されているのだ。