ハイブリッドワークで自律性を確保する3つのステップ
では、ビジネスリーダーとチームマネジャーはどうすれば、柔軟性のある働き方に欠かせない自律性を従業員に与えることができるのか。
(1)方針ではなく、原則を確立する
前述したように、いつどこで働くかを方針として義務づけるハイブリッド戦略は、本質的に自律性が制限されているとして、従業員に拒絶される可能性が高い。
ただし筆者らの調査によれば、従業員の86%は、公平なハイブリッドワーク環境をつくるには、慎重に策定されたガイドラインが必要だと考えており、組織は依然として、ハイブリッドワークに対する取り組み方について共通理解を構築する必要がある。
そこで筆者らは、方針ではなく、原則を確立することを推奨したい。
方針から原則に移行するということは、「少なくとも週3日は出社勤務をすること」というルールを、「会社のオフィスとリモート環境のどちらにも固有の価値がある。従業員には、自分の業務を最も有効な方法で遂行するために、どのロケーションが最適か検討することを強く推奨する」という表現に変えることかもしれない。
これならば、最低限の出社日数を定めた方針には制約を感じる、あるいは自分の生活スタイルに馴染まないと考える従業員にも不快感を与えることなく、ベストプラクティスを求めるガイドラインになる。
こうした原則を正確に伝えることで、新しい働き方を探る余地を残しつつ、方針を定めるのと同様の有効性を持つことができる。
(2)有能感と関係性に投資する
前述したように、自己決定権があるという感覚は、自律性と有能感と関係性という3つの要素から生まれる。それぞれは複雑に絡み合っており、人々を動機づけ、最大の充足感を与えるには、3要素すべてが揃っていなければならない。したがって自律性の恩恵を十分得るためには、有能感と関係性にも注目し投資する必要がある。
ここでいう有能感とは、一連のスキルを習熟することにより、タスクを完遂する能力をみずから持っていると感じられることだ。したがって外的報酬ではなく、自律性を後押しする要因としてスキル開発に投資する企業は、従業員が自律的に働く能力を高めることになる。
マネジャーにとっては、従業員のスキルと能力に対する投資を続けることにより、従業員が仕事の結果に当事者意識を持ち、高い自律性が求められるハイブリッド環境で成功する自信と能力を与えられることを意味する。
一方、関係性とは、従業員の帰属意識と組織の集団凝集性を意味する。これはハイブリッドワークの中でテストされている要素だ。
筆者らの研究では、従業員はハイブリッドワークが未来の働き方であることに強く同意しているが、多くは依然として、コミュニケーションに関する問題や社会的つながりの減少を懸念している。さらに、52%は在宅勤務のほうが好ましいが、長期的観点からは自分のキャリアにダメージが生じるのではないかと心配している。
こうした問題が放置されたままでは、従業員同士のつながりが失われたり、共有されているはずのパーパスが薄れたりして、従業員の自律性を縮小せざるをえない状況に陥るおそれがある。
従業員の一体感を再び高めるために、リーダーは従業員がどのロケーションで働くかにかかわらず、組織における自分の役割を明確に位置づける「バーチャル優先だが、バーチャルに限らない」組織文化を築くことに力を注がなければならない。
(3)従業員がどこにいても自律的に働くために必要なツールを提供する
工業化の時代には、仕事を進めるうえでツールを必要としたので、従業員は特定の場所に集められて働いていた。石炭溶鉱炉や印刷機のようなイノベーションは、製鉄所や工場で動かされる巨大で固定されたツールだった。そして、知識労働の存在感が高まるとともに、このような決められた場所を中心に働くという方法は、9時から5時までという労働時間や他の制度とともに引き継がれた。
だが、いまやテクノロジーによって、仕事は場所や時間と切り離すことがますます可能になってきた。この現象は、コロナ禍の大規模な社会実験によって、舞台の中央に押し出されている。
特定のロケーションはもはや、有効性のある働き方や企業文化を構築するための前提条件ではなくなった。もっと重要なのは、適切なツールとテクノロジーを導入し、それを有効に使うことだ。
従業員の考えも、これと同じだ。世界の労働者の71%が、会社のオフィスはもはや働く場所として義務づけられた空間ではなく、社交を楽しむための施設にすぎないと考える一方、85%は、優れた仕事を可能にするのは、テクノロジーを使いこなせる自信だと答えている。
現代の知識労働者が必要とするハードウェアは、事実上、工業化の時代に労働者が仕事で用いていたツール対するアンチテーゼといえる。それらは巨大で固定されたものではなく、柔軟性を持ち、ワイヤレスでつながり、動的なものでなくてはいけない。
彼らがいま必要としているのは、職務遂行の原動力となるノートPCと、おそらくは最も頻繁に仕事をする場所に設置されたデスクトップPCだ。さらに、ヘッドセットやビデオカメラ、キーボード、マウスなど、ワイヤレスの周辺機器をさまざまな仕事環境に持ち運びできれば、特定のロケーションに縛られることなく、つながった状態を確保できる。
リーダーは不動産を維持する必要性とハイブリッドワーク戦略の見直しを続ける中で、従業員に適切なツールとテクノロジーを提供することにより、どこからでも有効かつ自律的につながることができる環境を用意することが欠かせない。
結局のところ、どのアプローチが最も理にかなっているかは、自社の組織文化、業界、そして会社全体のパーパスに鑑みて、それぞれの組織が判断することだ。ただし、従業員が柔軟性の拡大を求めている組織においては、必要とされる出社日数を見直すのではなく、自律性を高めることが欠かせない。
従業員を支援して、彼らが理想とする働き方を選択できる自律性を与え、適切な原則を示して、必要な研修とツールを提供する企業は、より柔軟性が高く、モチベーションもパフォーマンスも高い労働力を得るだろう。
"Forget Flexibility. Your Employees Want Autonomy," HBR.org, October 29, 2021.