価値提案の再定義
AIは、顧客に価値を提供する方法を再定義するだろうか。
AIは取締役会に対し、事業の中核となる前提(存在意義、ターゲット顧客、製品、マーケティングのポジショニング、価格設定、サポート活動)を問い直せと迫るだろう。
医療システムの価値提案は、AI時代を迎えて、事後対応的な病気の治療でカネをもらうことから、能動的に健康を維持することへと、急速に変化している。以前は、医療サービスを受ける時はサービスの提供者を訪問しなければならず、たいていは患者が予約を取り、医療施設まで通って、時には待合室で長時間、待たされた。そのアクセスは、主に診療時間と物理的な場所によって限定されていた。
いまはAIのおかげで、医療ケアの必要性を先取りし、必要なケアの多くを自宅で受けられる機能が登場している。ウェブプラットフォームやモバイルアプリからアクセス可能なAI搭載のバーチャルヘルスアシスタントは、24時間365日利用可能で、健康に関する問い合わせに答え、医療情報を提供し、初期症状の評価を行う。
AIアルゴリズムと統合されたIoT(モノのインターネット)デバイスやウェアラブルセンサーを使った遠隔モニタリングは、患者の継続的なモニタリングを可能にする。AIが異常を検知して、医療提供者にリアルタイムで警告を発し、頻繁に対面の診察を受ける必要を減らす。パーソナライズされたプロンプトは、遠隔モニタリングや電子カルテなどの患者データをもとに、次の行動や慢性疾患の管理方法を提案する。
最後のシナリオは、おそらく最も恐ろしいもので、存続の危機が出現する可能性についてだ。
陳腐化
AIはあなたの主力製品やサービスを陳腐化させるだろうか。
コダックの写真事業やファクシミリのメーカーは、スマートフォンが主流になった時点で勝ち目はないと認めるしかなかった。家電量販店大手のラジオシャックはいち早く、販売するほぼすべての製品がiPhoneで手に入るという状況に直面した。新聞社は、紙面とセットになっていた広告やジャーナリズムが切り離され、その影響に対処するためにいまも苦労している。
たとえば、オフショア開発を行うIT企業もこの問題に直面している。自然言語処理(NLP)により、開発者は自然言語で機能を記述できるようになり、システムはそれをコードに変換する。つまり、専門家でなくても、コーディングがより身近になった。AIを搭載したツールや統合開発環境(IDE)は、インテリジェントなコード補完、提案、修正を提供する。開発者が次に書きそうなことを予測し、コードの行やブロックを完成させるための提案をするのだ。
AIはソフトウェアのテストにも、より効率的なテストケースの生成、自動化されたバグの検出、潜在的な問題を特定するための予測分析を可能にして、大きな影響を与える。ほかにもコードのセキュリティ脆弱性を能動的に検出し、潜在的なセキュリティの問題をプログラムのデプロイ(稼働できる状態にすること)後ではなく開発中に対処するのに役立つAIツールもある。
ソフトウェア開発者の役割は、ユーザーのニーズの理解、システムアーキテクチャーの設計、革新的なソリューションの開発など、より戦略的で、創造的で、複雑な問題解決活動へと移行するだろう。クライアントのレベルでは、より小規模な社内のITチームが支援する戦略・企画チームによって、より多くのことができるようになる。ただし、オフショアIT企業にとっては、こうした変化は存続の脅威につながる。その経済モデルは、生産志向の仕事をする熟練労働者の時間を売ることに依存しているためだ。
取締役会としては、労働力ベースの事業を切り離して、付加価値の高い独自のAIツールの開発に注力するのか、それともセクターの縮小に伴って統合を考えるのか、厳しい決断を迫られている。いずれにせよ、決断は必要だ。
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これらのシナリオを組み合わせれば、たいていの企業に当てはまるものとなり、取締役会は将来に関する既存の概念を再評価する必要がある。ほとんどの取締役会は、毎年、将来を見据えた戦略セッションを行っており、多くの取締役会が起こりうるサイバー攻撃に備えて「テーブルトップ演習」(TTX)を実施している。
そうしたセッションの一つとして、上記のシナリオを試してほしい。戦略チームが最も適切なシナリオを選び、具体的な内容にして、裏付けとなる事実を提供する。そして、変化の可能性、競合他社・チャネル・コラボレーターのエコシステムがどのように進化しうるか、顧客が何を期待するかについて、取締役会で構造化された議論を行う。それと並行して、ビジネスモデルの経済的牽引力と、その力がどのように変化するかに注目する。
AIがデータの価値を高める──強化して、分析して、活性化して、最適化する──ことにより、多くのビジネスが依存してきた経済的レバレッジが根本的に変化するだろう。これらのシナリオは、取締役会が今後の課題に取り組むための体系的な方法を提供する。いますぐ始めよう。AIの時代において、時間はあなたの味方になってくれない。
"6 Ways AI Could Disrupt Your Business," HBR.org, January 25, 2024.