なぜ成功する赤字企業が数多く生まれているのか
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サマリー:適切に機能する資本市場では、利益が企業の存続を予測する唯一の尺度で、赤字企業は淘汰されるべきである。しかし、最近は赤字企業に対する投資家の関心が高まり、黒字企業よりも大きなリターンをもたらすことも多い... もっと見る。こうした事態に陥るのは、伝統的な会計基準では企業のパフォーマンスを適切に評価できないからだ。本稿では、筆者らが提案する会計処理の改善方法を紹介するとともに、経営者が伝統的な会計基準に惑わされず投資を行う重要性を説く。 閉じる

会計基準の欠陥が、富をもたらす赤字企業を生んでいる

 心理学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーが、利益よりも損失のほうが人間の意思決定に影響を与えると主張したのは、1979年のことだ。たとえば、1ドルの損失は、1ドルの利益よりも人間の行動に大きな影響を与える。同じように、企業が決算で赤字を発表した時の株価への影響は、同じ金額の黒字を発表した時の株価への影響よりもずっと大きい。投資家に見捨てられ、銀行には融資をストップされて、事業再編と人員削減が始まる。なかには形ばかりのM&A(合併・買収)に踏み切り、帳簿上は赤字ではなく黒字にする「決算管理」を行う企業もある。

 適切に機能している資本市場では、利益が企業の存続を予測する唯一の尺度であるべきだ。言い換えると、赤字企業は淘汰されるべきである。だが最近は、赤字企業に対する投資家の関心が高まっており、黒字企業より買い込まれることも多い。ユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未上場新興企業)は、投資家に人気の高い赤字企業の例だろう。上場してからも、多くの元ユニコーンは存続し続けるだけでなく、黒字企業に投資するよりも大きなリターンをもたらすことが多い。エヌビディアやツイッター(X)、ウーバー、エアビーアンドビー、スポティファイ、アマゾン・ドットコムは毎年、赤字決算を繰り返しているが、株主に10億ドルや1兆ドルといった富をもたらしている。

 いったい何が変わったのか。いつ、なぜ、赤字の意味が変わったのか。筆者らが発表した一連の研究論文は、この問いに一定の答えを示し、経営者が正しい投資をするための手掛かりとなる。正しい投資とは、短期的に帳簿上の利益をもたらすだけでなく、また結果的に株主の富を減らす投資でもなく、時間はかかるが、真に利益をもたらす投資だ。

 21世紀の企業の帳簿上の損失は、もはや20世紀の企業の損失とは異なることを、筆者らの研究は示す。現在の赤字企業が赤字なのは、会計基準に欠陥があるからであって、経営基盤が弱いからでも、投資判断を誤ったからでもない。

伝統的な会計原則の欠陥

 経営者にとっても、アナリストや取締役会、さらに政策立案者にとっても、会計基準の欠陥による赤字と、純粋な経営問題による赤字を見分けることが、最も重要な課題の一つとなりつつある。この作業を怠ると、有能なCEOを更迭したり、有望な事業を時期尚早に打ち切ったり、大きなリターンをもたらす株を誤って売却したり、生産的な科学者やマーケティング担当者を解雇したりといった、誤った決定を下すおそれがある。