従業員体験:働きがいを実感できる環境づくり
サマリー:『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)2025年2月号の特集は「従業員体験 働きがいを実感できる環境づくり」です。意欲的に見えた人材が辞めてしまう。従業員の声なき声を拾えないまま、離職やエンゲー... もっと見るジメントの低下といった事態に陥ってしまう……。いまこそ必要なのは、働きがいを実感できる環境づくりです。そこで、従業員を顧客と捉え、職場におけるユーザー体験、すなわち「従業員体験」の向上を戦略に組み込んで実行するにはどうすればよいのでしょうか。4本の論考とともに考えます。 閉じる

職場環境にも「モノからコトへ」の発想を

「モノ消費からコト消費へ」という表現が経済産業省の報告書で使われ始めたのは、2010年代半ばのことでした。モノが十分に行きわたるようになると、人は特別な体験(コト)に価値を見出し、支出を増やすようになりました。

 このトレンドをなぞるようにして、ビジネスの文脈でもよく使われるようになったのが「ユーザーエクスペリエンス」(UX)という言葉です。プロダクトの機能や性能を磨くだけでなく、プロダクトに触れている時(あるいはその前後も)の体験をデザインすることが重視されるようになりました。

 このUXの考えを職場に応用してみたら……というのが、今号の特集「従業員体験」の核心です。優秀な人材をいかに採用し、働き続けてもらうかは、いまや多くの企業にとっての共通課題です。そのため、従業員満足度調査や退職者面談などを実施している企業も少なくないでしょう。こうした取り組みに加えて、ユーザーエクスペリエンスの「ユーザー」を「従業員」に置き換え、新しい視点で職場環境を見つめ直してみてはどうか。我が社は従業員一人ひとりが自分なりの働きがいを感じられる体験を提供できているか、と考えていくと、見過ごしていた課題が浮かび上がってくるかもしれません。

 特集1本目「従業員が辞めていく企業は何を間違えているのか」では、人が転職に踏みきる4つの理由を整理したうえで、企業が従業員体験を向上させるための方策を提示します。

 特集2本目「従業員の声を組織にうまく反映させる方法」は、従業員からのフィードバックを最大限に活用して組織にポジティブな変化をもたらす方法を示します。

 特集3本目は「仕事の満足度を高めるためにプロダクトデザインの発想を応用する」と題し、プロダクトデザインで用いられるツールや手法を活用し、従業員が仕事に何を求めているのかを深く理解する方法を探ります。ここで示される考え方は、故クレイトン・クリステンセン教授が提唱した「ジョブ理論」を下敷きにしており、読み進むうちになるほどこういう応用の仕方もあったかと新たな気づきを得られるでしょう。

一方、米国ほど雇用の流動化が進んでいない日本では、従業員の勤続年数が比較的長いがゆえに、どのように人々の意欲を保ち続ければよいのかという別の課題があります。そこで特集4本目では、若手の離職率の低さを誇る花王の長谷部佳宏社長執行役員に、従業員が力を発揮できる組織づくりについてお話を聞きました。

 給与や昇進といった外的報酬が「モノ」だとすれば、成長実感ややりがいある体験といった内的報酬は「コト」。両者の最適なバランスを考えるうえで、今号のDHBRがヒントになれば幸いです。

(編集長 常盤亜由子)

※ダイヤモンドHRD総研(ダイヤモンド社人材開発編集部)でも、本特集「従業員体験:働きがいを実感できる環境づくり」に関する編集長インタビューを掲載しています。ぜひご覧ください。