なぜ優秀なリーダーはコーチングがうまいのか
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サマリー:優秀なリーダーに共通するのは、コーチングスキルを通じて部下の成長を支援する力だ。これは先天的な資質ではなく、トレーニングと実践により習得、強化できるスキルである。本稿では、コーチングスタイルを「プッシ... もっと見るュ」と「プル」の度合いによって4象限に分類し、それぞれの特徴や適した活用シーン、具体的な対話例を交えて解説する。 閉じる

優秀なリーダーが持つコーチングスキルは習得できる

 複数年にわたるグーグルの研究イニシアティブ「プロジェクト・オキシジェン」では、飛び抜けて有能なマネジャーの資質を探ることを目的に、何千人もの従業員からデータを収集し、分析した。長年にわたり上位にランクインしているのがコーチングスキルである。調査結果は、「優れたリーダーコーチングを通じて部下を育成する」という他の文献の主張を裏づけている。ある研究では、従業員が優れたコーチングを受けると、課題に前向きに取り組み、問題を創造的に解決できるようになるという結果が出た。別の研究では、効果的なコーチングは、部下の自身の強みに対する認識を高め、士気を向上させ、目標達成を支援することが示されている。

 しかし、そのように重要性が高いにもかかわらず、コーチングは、多くのリーダーにとって自然にできるものではない。研究結果によると、実際には指示を与えているだけなのに、コーチングを行っていると信じているリーダーが多い。筆者の著書Coaching:The Secret Code to Uncommon Leadership(未訳)のための調査と、エグゼクティブコーチとしての経験を振り返ると、その原因は単純明快だ。トレーニング不足である。また、リーダーになりたての人の多くは、相手の悩みにすべて答えられなければならないと感じ、コーチングを行うのを恐れている。しかし実際、一流のコーチは、相手が自分自身で答えを見つけられるようサポートすることに長けている。

 幸い、コーチングは習得可能なスキルであり、筋肉のように、実践によって鍛えられ、直観的にできるようになる。では、どのようにしてコーチングを学び、ベストの方法を選び、上達していけるのだろうか。

コーチングとは実際のところ何なのか

「コーチ」という言葉は、15世紀のハンガリーのコチ(Kocs)という村で生まれた。それは、人々を目的地まで運ぶ馬車の一種を指す言葉だった。1800年代には、他者の目標達成を支援する人物を指す比喩として使われるようになり、オックスフォード大学の学生たちが試験対策を手助けしてくれる家庭教師に対して使うようになった。これは現在にも通ずる定義である。

 コーチングとは、答えを与えるだけでなく質問をし、相手の行動の良し悪しを判断するのではなく支え、必要なことを指示するのではなく成長を促すことだとロンドン・ビジネススクール教授のハーミニア・イバーラとメイラー・キャンベル共同創業者のアン・スクーラーはいう。

 筆者の著書では、コーチングを「リーダーが非指示的(non-directive)かつ自己実現的(self-enabling)な行動を通じて、他者のパフォーマンスと潜在能力を最大限に引き出すことを目的とするプロセス」であると定義している。効果的なコーチング関係においては、この両方の行動を並行して用い、相手を自立と自己成長へと導く。

さまざまなコーチングスタイル

 エグゼクティブコーチをしていると、よく「コーチングにはこれという正しい方法があるのか」と尋ねられる。答えはノーだ。コーチングのスタイルは、コーチの経験や知識、状況や課題、コーチングを受ける相手の経験レベルによって変わるものである。

 このことには、新人、ベテランを問わず、どのマネジャーも面倒臭さを感じ、率直に言って、大変である。そこで筆者は、マネジャーがコーチングを進める上で参照できる枠組みを考案した。シンプルに「コーチングスタイル」と名づけたこの枠組みは、著書のために実施した、さまざまな年齢層、業界、職種、経験レベルにわたる100人以上のリーダーへのインタビュー、マイルズ・ダウニーによる「コーチングスペクトラム」など他のコーチングの枠組みの研究、そしてこのテーマに関する学術文献の徹底的なレビューなどを参考にしている。

 この枠組みのもとになっているのは、スポーツ界で選手のスキルやパフォーマンスを向上させるために広く用いられている「プッシュ」と「プル」の概念である。プッシュ型コーチング法は、コーチが明確な指示や指導、フィードバックを行うアプローチをいう。このスタイルは実践的で、選手に何をどのように行うべきかを指示する。プル型コーチング法は、直接的な指示を与えるのではなく、指針を与え、サポートを行うことを目的とした促進的なアプローチを採用する。オープンエンドの質問を投げかけ、自省を促して、選手がみずから解決策を見つけられるようにするスタイルである。