「意地悪な職場」につながる負の連鎖を断ち切る方法
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サマリー:社会全体の二極化が影響し、職場でも無礼な態度が広がりつつある。こうした態度は生産性を大きく低下させ、従業員の満足度やメンタルヘルスにも悪影響を及ぼす可能性がある。一方で、礼節を重んじるていねいな態度は... もっと見る個人だけでなく、組織に好影響をもたらし、敬意を育む第一歩となる。本稿では、無礼な態度を防ぎ、ていねいな態度を習慣化するための3つのステップを解説する。 閉じる

無礼な態度によって職場の生産性は低下する

 驚くべきことではないのだが、労働者の10人中6人近くが、米国社会は無礼だと考えている。二極化した政治論争、コロナ禍における社会規範の変化、そしてオンラインでの無作法な交流といったことすべてが、こうした傾向に影響を与えている。

 このため最近では、会社に行くことが地雷原に足を踏み入れるような感覚をもたらすという。政治と社会が二極化しているため、職場の同僚まで「こっち対あっち」というメンタリティで二分されているのだ。人々は、何と言えばよいのかわからない。いや、そもそも何かを言うべきなのか判断できずにいる。何気ない発言や軽い冗談、善意のフィードバックでさえ、対立の原因になったり、怒りを生じさせたりする。一部の大手企業が週5日の出社勤務を再開させるなか、緊張はエスカレートする可能性がある。

 これは残念なことである。なぜなら、無礼な態度は深刻な影響を及ぼすからだ。米人的資源管理協会(SHRM)CEOのジョニー C. テイラーが行った試算によると、無礼な態度は、米企業の生産性を1日20億ドルも低下させているという。2013年に無礼な態度を取られた側を調査したところ、不快な気持ちにさせる人を避けるために仕事の時間が削られたと答えた人は63%、パフォーマンスが低下したと答えた人は66%、嫌な思いをすることが心配で仕事の時間が削られたと答えた人は80%、イライラして顧客に当たってしまったと答えた人が25%に達した。

 これとは対照的に、礼儀を重んじる職場環境をつくれば、個人とチーム、そして組織レベルでさまざまなメリットがある。あるメタ分析によると、ていねいな態度は、従業員の仕事への満足度とメンタルヘルス、そして組織のコミットメントを高める一方で、疲労感や「辞めてやる」という思いを低下させる。それでも、労働者の71%は、マネジャーや上司は無礼な行動を防止するためにより努力できるはずだと答えている。

簡単そうで実は難しい「ていねいな態度」

 礼儀を重んじる職場環境の利点は明らかだ。誰も「意地悪な職場」で働きたいとは思わない。それにもかかわらず、なぜその実現が難しいのか。

 問題の一因は、無礼と見なされる行動は、個人や文化、権力によって違ってくることにある。極端な行動としては、失礼な発言や侮辱的なコメント、無視、人前で恥をかかせる、感情的な非難といった明白な行為がある。よりさりげない(しかし依然としてダメージを与える)行動としては、人の発言をさえぎったり、見下した話し方をしたり、意見を求めておきながら無視したり、手柄を共有しないといった振る舞いがある。一方、相手(特に上司)の目を直視することが無礼と見なされる文化もあれば、それが期待される文化もある。

 また、ていねいな態度を取ろうと意図していても、イライラしている時は、他人の言葉や行動に対して無礼な反応を示してしまうことがある。また、無礼な態度はウイルスのように傍観者に伝播して、職場全体に広がり、従業員の生産性とウェルビーイングに大きな打撃を与える。

 無礼な態度とは漠然とした表現だが、その受け手になれば誰にでもわかる。そして、仕事へのエンゲージメントと生産性にダメージを与える。無礼な態度を見ただけでも、認知機能にダメージを受ける場合がある。

 ただ、幸いなことに、2024年のニューロリーダーシップ・サミットで発表された予備研究によると、ていねいな態度は無礼な態度よりも強い伝染力があるという。

ていねいな態度につながる3つの習慣

 感情制御の科学によると、無礼な態度の悪影響を発生前から食い止める習慣が3つある。ていねいな態度を取ることによって、危うい状況に対処できるのだ。

 ある会議であなたが進捗報告をしているとしよう。すると同僚のカールが、あなたの報告の重要部分を厳しく批判し始めた。あなたは、カールの態度が上から目線で、批判は的外れだと思う。それに、カールに何がわかるというのだろう。彼はこのプロジェクトについて、あなたの半分ほども知らない。あなたを踏み台にして、自分の存在をアピールしているだけだ。ふつふつと怒りが湧いてきて、厳しい反論が口から出そうになる。だが、その前に一呼吸おいて、以下に紹介する3つのステップを検討してほしい。

1. 自分の反射的な反応に気づく

 人間の脳は脅威を察知すると、前頭前皮質など実行制御が関係する領域から、大脳辺縁系などの脅威対応ネットワークへと認知能力が分散する。

 一呼吸おいて、この反応に気づくと、我に返って、反射的に言い返したり、行動したりするのを避けることができる。あなたの集中力や判断力やコラボレーション能力は、低下している可能性が高いのだ。

2. 反射的な反応にラベルを貼る

 軽率に発言しないようにするためには、自分の脅威反応の原因を特定することが役に立つ。特定の感情を抱いている原因にラベルを貼ると、前頭前野の働きが再び活発になり、思考と行動を再び制御できるようになる。

 ニューラルリーダーシップ研究所は、さまざまな脅威と報酬反応を理解し、ラベルを貼るのに役立つ5つの領域を見つけた

・地位:他者と比べた時、自分がどのくらい重要かという感覚。先ほどの例では、カールの批判が、あなたの能力や知性に対する同僚の認識に悪影響を及ぼすのではないかと心配になる。

・確実性:次に何が起こるかを予測する能力。認めたくないかもしれないが、カールの発言はあなたの中に疑念の種を蒔く。プロジェクトの成功を妨げる、決定的に重要なことを見落としていないだろうか。

・自律性:自分の身の回りで起こることをコントロールしているという感覚。カールの発言後、あなたはプレゼンの方向性をコントロールできなくなったと感じる。十分計画したのに、すべてが計画から外れていく。

・共感性:他者とのつながりを感じること。あなたはカールに裏切られたと感じ、今後彼と密接に働くことを避けたいと考える。

・公正さ:あなたの考える対等な交流。カールのほうが経験は少ないのに、あなたの計画を脱線させるなんて不当だと感じる。

 これらの領域のいずれかが脅かされると、無礼な態度を取るおそれがある。だが、この5つの領域すべてが脅威にさらされたのだから、あなたがカッとなってしまったのも無理はない。自分の感情の原因が明らかになると、反応にブレーキをかけて、無礼反応を示すのを防ぐことができる。

3. 悪循環を断ち切る

 前頭前皮質が再び活性化したら、有効なコミュニケーション方法を考えられるようになる。中立的な態度を維持することに意識を集中しよう。過度に友好的に振る舞う必要はない。ただ、誰に対してでも脅すような反応を示すのは避けたほうがよいだろう。

 あなたのメッセージや意図が、勝手に解釈される余地がないほど明快な態度を取ることが重要だ。必要不可欠なことをすべて伝えて、そうでないことは口にしなければ、あなたの言葉に隠された意味を読み取ることはないだろう。

 先ほどの例では、一呼吸置くと、カールの言い方には改善の余地があるし、その批判のほとんどには根拠がないかもしれないが、あなたが検討してもよいポイントが含まれていることに気づくかもしれない。そこで、「フィードバックをありがとう、カール。君の懸念のほとんどには簡単に対処できるが、少し聞いておきたいことが一つある。……について、どういうことかもう少し説明してくれないか」。このように対処すれば、相手に恥をかかせたり、非難したりすることを避けつつ、よけいなことに逸れていたチームの注目を、明確かつ実行可能なタスクに向け直すことができる。

ていねいな態度から敬意へ

 ていねいな態度という表現は、敬意と同じ意味で使われることが多いが、実のところその概念は異なる。ていねいな態度とは礼儀正しくあることであり、敬意はさらに踏み込んで、相手やその貢献を評価することだ。もちろん、すべての職場は敬意を払う環境を目指して努力すべきだが、ていねいな態度は重要な第一歩になる(そして社会がいま苦労していることでもある)。

 ていねいな態度で重要なのは、職場の全員を愛したり、好きになったりすることではなく、誰もが明確に考え、仕事ができる基本的条件を定めることだ。

 敬意を示すためには、ていねいな態度よりもさらに強い意志が必要になる。また、成長のマインドセットや偏見の低減インクルージョン(包摂性)など、特定の認知行動を育てる必要がある。企業文化には誰もが貢献するものだが、とりわけリーダーは職場の行動に影響を与える大きな力がある。従業員は自分たちのコミュニティのトップに立つ人に注目し、その癖や感情を無意識のうちに当然と受け止める。だが、ていねいな態度の3つの習慣を模範にして、自分の感情や反応を管理すれば、自分と同僚の両方に敬意を示す道へと導くことができる。


"What It Takes to Fix a 'Mean' Workplace," HBR.org, March 28, 2025.