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関税がマクロ経済に与える長期的な影響とは何か
4月2日、ドナルド・トランプ米大統領は、米国の貿易相手国に対する関税を大幅に引き上げるという選挙公約を実行に移し、実効税率を平均23%に引き上げた。2024年の約10倍の水準だ。金融市場は売り一色となり、この措置が全世界をターゲットとしていること、そして今後の著しい不透明感を浮き彫りにした。企業経営者らは、世界経済へのインパクトを理解しようと必死だ。
しかし、このショッキングな政策は複雑かつ流動的で、正確な結論をただちに下すことはできない。それは4月9日、ほとんどの国に対する「相互」関税を90日間停止すると発表されたことにも表れている。その一次的な影響は予測が難しく、さらに大きな問題となる可能性がある波及効果の予測も難しい。また、法外な関税は、今後の細かな交渉を視野に入れた先制攻撃かもしれず、企業は「意図的な不透明性」を前面に押し出す新しい関税体制への対応を迫られている。
こうした不透明な状況で、関税がマクロ経済に与える一次的および二次的なインパクト、ならびに長期的な影響を理解することは、自社の市場や事業に与える影響を企業リーダーが継続的に評価する助けになるだろう。
非対称の貿易戦争
トランプ関税が世界に与える影響を把握するためには、まず、見落とされがちな事実を理解することから始めるとよいだろう。すなわち、米国は世界中の国を相手に貿易戦争を始めたが、各国が貿易戦争をしている相手は米国だけであることだ。この非対称性を理解すると、米国がすべてのカードを握っているという前提はたちまち崩れる。
米国は世界最大の経済を持ち、かなりの貿易赤字を抱えている(つまり輸入が輸出を大きく上回る)から、小規模な貿易戦争なら有利な立場を維持できたはずである。貿易量が減ることから受けるダメージは、貿易相手国が受けるダメージよりも小さくて済むからだ。
しかし、あらゆる国を相手に貿易戦争(全方位貿易戦争)を始めたことにより、米国は世界的かつ累積的な打撃を受ける可能性がある。これに対して各国がダメージを受けるのは、米国との貿易だけだ。限定的な貿易戦争とは違い、全方位貿易戦争では需要と供給の両面でインパクトが積み重なるからである。
需要ショックと供給ショックを理解する
関税がマクロ経済に与える影響を理解したければ、まず、需要ショックと供給ショックを明確に区別すべきだ。どちらも、輸出国と輸入国のどちらに注目するか、そしてある国が関税を課す側か、課される側かによって違ってくる。
マクロ経済の予測は当たらないことも多い(とりわけ歴史的に経験のないレベルのショックとなるとなおさらだ)が、貿易量や関税が価格や消費、成長に与える影響を分析すれば、マイクロ経済に与えるショックの輪郭を描き出すことができる。