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AIを意思決定の場面で活用できるか
多くの組織が、職場へのAIツールの統合を優先課題としている。それにはもっともな理由がある。初期の研究により、AIツールが単純作業や反復作業における業務のパフォーマンスを高め、リーダーのコミュニケーション能力を向上させ、組織の顧客基盤の拡大を支援できることが示されているからである。
では、意思決定という、より重大な場面のパートナーとして、AIはどのように機能するのだろうか。
この点を検証するために、筆者らは簡単な実験を行った。まず、300人以上のマネジャーと経営幹部に対して、過去のトレンドを確認したうえで株価を予測するよう依頼した。次に、参加者の半数には同僚と意見交換をする機会を、残りの半数にはチャットGPTに相談する機会を与えた。相談後、参加者は当初の予測を修正できることとした。
すると、驚くべき結果が出た。チャットGPTに相談した経営幹部は、予測において著しく楽観的になる傾向が見られた。一方で、同僚と議論した場合には、慎重な姿勢が促される傾向があった。さらに、実際の株価に基づいて見ると、チャットGPTを利用した経営幹部は、同ツールに相談する前よりも精度の低い予測をしていたことがわかった。
本稿では、筆者らが行った実験の内容とそこでの発見、その理由、そして、意思決定プロセスにAIを導入したいすべてのリーダーにとって、この知見が重要な理由を説明する。
実験の内容
この研究は、2024年6月から2025年3月にかけて行われたAI関連のエグゼクティブ教育セッションの中で実施された。参加者はさまざまな企業のマネジャーと経営幹部で、クラス内での演習に参加した。
筆者らはまず、AI技術を支える役割によって急速に業績を伸ばしている大手半導体メーカー、エヌビディア(NVDA)の最近の株価チャートを全員に提示した。同社の株価は顕著な上昇を続けており、予測能力を試す現実的なケーススタディとして適していた(また、経営幹部たちの関心も非常に高かった)。
次に、参加者に対して、1カ月後のエヌビディアの株価を各自で予測するよう依頼し、その数値を非公開で提出してもらった。次に、参加者をランダムに以下の2つのグループに分け、短時間の相談セッションを設けた。
・同僚と議論するグループ(対照群):このグループの参加者は、少人数のチームに分かれ、数分間、それぞれの予想について意見を交換した。AIツールは一切使用せず、人間同士の会話のみで、各自の考えや手持ちの情報を共有した。これは、同僚の意見を聞くという従来型の意思決定アプローチを模したものである。
・チャットGPTに相談するグループ(処置群):このグループの参加者はエヌビディアの株価に関して、チャットGPTに何を依頼してもよいとされた(最近の傾向を分析させる、1カ月後の予測を尋ねるなど)。ただし、同僚と話すことは禁じられていた。これは、経営幹部が同僚の代わりにAIアドバイザーに相談するという、AI支援型の意思決定プロセスを模擬したものである。