新任リーダーが効果的なフィードバックを行うための4つの戦略
Illustration by Andy Goodman
サマリー:新しいリーダーとしての第一歩は、信頼を築きながらみずからの存在意義を示す重要な局面である。その中でもフィードバックは大きな試練となる。伝えるタイミングを誤れば信頼を損ないかねず、遅らせれば成果や機会を... もっと見る失うリスクがあるからだ。しかし、適切に行われたフィードバックは、信頼性を高め、関係性を強化し、説明責任と成長を支える文化の基盤を築ける。本稿では、新任リーダーが明確さと自信を持ってフィードバックを行うための4つの戦略を提示する。 閉じる

新任リーダーが部下にフィードバックを伝える難しさ

 どんなリーダーも、新たな役職に就くとさまざまな課題に直面する。信頼を得られるか、上司と良好な関係を築けるか、戦略的な人間関係を構築できるか。そのなかでも特にデリケートで重要な課題の一つが、フィードバックの方法である。

 部下にフィードバックを伝えるという行為は、まるで綱渡りのように感じられるかもしれない。新しいチームとの信頼関係をまだ築けていないタイミングで、自分の価値を早急に証明しなければならないというプレッシャーがのしかかる。早く動きすぎれば誤った一歩を踏み出しかねず、逆に待ちすぎると行動できないまま重要な機会を失うリスクがある。

 かつてCレベルの経営幹部を務め、その後CEOおよびエグゼクティブコーチに転じた筆者自身も、この課題にみずから直面し、また、多くのリーダーがこの重要な局面を乗り越えられるよう支援してきた。本稿では、新任のリーダーが自信と明確さを持ってフィードバックに取り組めるようにするための4つの戦略を提示する。

1. 状況を評価する

 筆者が部門CFOのバリーにエグゼクティブ・コーチングを行ったのは、彼が新たな役職に就いて数週間が経った頃だった。そのセッションの目的は、就任初期の影響力を最大化することだった。彼は自身のキャリアを振り返り、新しい役職に就くとすぐに行動を起こす傾向があり、そのアプローチが反発を招き、人間関係を緊張させてきたと語った。

 新任のリーダーは、自分の価値を示すためにすぐに行動に移り、短期的な成果を狙いたくなるものだ。しかし、全体的な状況を理解しないまま行動を起こすと、それがどれほど善意に満ちた行為であっても、逆効果になりかねない。

 スピードと状況理解という相反する2つの側面のバランスを取るためには、4つの領域──技術的、人間関係的、文化的、政治的──において体系的な学習計画を策定することが有効だ。これはマイケル・ワトキンスの『ハーバード流マネジメント講座 90日で成果を出すリーダー』に基づく枠組みであり、システムや役割だけでなく、価値観や規範、非公式の権力構造、隠れた力学についてリーダーが探る際にも役立つ。

 それぞれの領域ごとに、過去(このチームの成功や挫折をもたらしたものは何か)、現在(影響力を持っているのは誰か、チームの業務遂行のリズムはどうなっているか)、未来(どのような変化が見込まれるか、どんな障害が存在するか)について質問しよう。

 完全に理解できることはほとんどないが、さまざまな階層や情報源から得られる視点を突き合わせることで、徐々に解像度が上がっていく。複数の人から同じような指摘を受け、それが自身の意見と一致しているのなら、その見解には一定の根拠がある可能性が高い。

 目的はすべての情報を集めることではなく、裏打ちがあり、文脈を踏まえた、建設的なフィードバックを行うために、十分な情報を集めることだ。単なるデータを超えて、広く状況を理解することで、情報に基づいた効果的なフィードバックを行えるようになる。そうなれば、信頼関係を構築する前の段階で信頼を損なってしまうような失敗は回避できる。

 新たな役職に就いたバリーは、すぐに行動したくなる癖を自覚し、より慎重に行動するよう心がけると誓った。すると、その機会はすぐに訪れた。

 経理部長のルイスに、職務に必要な戦略的能力が欠けていると気づいたバリーは、厳しいフィードバックをすぐに伝えたいという衝動を抑えて、より多くの情報を集めた。数週間かけてチーム内でのやり取りを観察し、深い意図を秘めた質問を投げかけ、ルイスの同僚に意見を求めたのである。その結果、勤続17年のルイスは広く尊敬される協調的な人物であり、若手人材の育成で重要な役割を担っていることがわかった。そうした広い理解を得たうえで、バリーはルイスに対してスキル不足について率直なフィードバックを行い、ルイスの強みを生かしながら事業ニーズに応えられる新設のポジションへの異動を提案した。

2. 信頼を迅速に築く

 フィードバックを伝えるだけでなく、それに基づいて行動を起こさせるためには、信頼という土台を築く必要がある。信頼は時間とともに自然に育まれていくものだが、優れたリーダーはそれを加速させるために意図的に行動する。

 筆者が推奨する戦略の一つは、弱さをさらけ出すことで信頼を構築する方法だ。これはパトリック・レンシオーニの著書『あなたのチームは、機能してますか?』に着想を得た手法で、自分の最大の強みをチームと共有しながら、同時にその強みの裏返しとして現れる可能性のある「負の側面」についても共有するというものだ。たとえば、決断力が短気という形で表出することもあれば、協調性が意思決定の遅れにつながることもある。リーダーが自身の強みに内在する欠点を認めることで、チームに対して、不完全で、課題を自分で認識していることは安全だというメッセージを伝えられる。

 筆者は、信頼構築と協力体制の強化を目指す新編成のリーダーシップチームを対象に、このエクササイズを行った。リーダーたちはそれぞれ、みずからの最大の強みと、その強みを過剰に行使したり、誤った形で使った場合に生じる負の側面を他のメンバーと共有した。全員がこの作業に取り組んだことで、弱さをさらけ出すことのリスクが軽減された。その結果、信頼醸成のスピードが上がり、相互理解が深まり、より率直なフィードバックを行うための土台を構築することができた。

 リーダーが模範的にオープンに振る舞い、自分の弱さを見せる場を意図的に設けることで、心理的安全性の土台が育まれる。これにより、フィードバックを行っても、よりオープンかつ好意的な態度で受け入れられる可能性が高まる。

3. チームメンバーの願望を理解する

 新たな役職に就任した最初の数週間のうちに、直属の部下との一対一の面談を実施して、彼らの人となりや願望、考え方を探ろう。何がモチベーションとなるのか、キャリア上の目標は何か、成功するために、あなたからどんなサポートがほしいのか。これまで出会った最も優れた上司について、その人物がどのように彼らの成功をサポートしたのかも尋ねよう。こうした会話を通して信頼の基盤が築かれると、フィードバックを彼らの目標達成を支援する取り組みとして位置づけることができ、その後のフィードバックを行いやすくなる。

 筆者のクライアントであるディビアは、グローバル営業部門の責任者に就任すると、チームメンバーとの一対一のキャリア面談を予定に組み込んだ。その会話の中で、地域営業でトップの業績を上げているマリアは、いつかより大きな営業組織を率いたいという願望を語った。

 数週間後、ディビアは、マリアがチーム会議の議論を支配しがちで、無意識のうちに他者の発言を妨げていることに気づいた。後日、フィードバックを行った際、ディビアはその課題をマリアの目標に結びつけて伝えた。「より大きな組織を率いるためには、協調を促し、他者のアイデアが輝けるような場を生み出す必要があります。今のうちにそのスキルを磨けるよう戦略を立てましょう」

 マリアはフィードバックを真摯に受け止め、それ以降の会議では、より多く質問を投げかけ、物静かなメンバーの意見を引き出し、自分の考えを発する前にチームメンバーの意見を募るようになった。ディビアがマリアの同僚数名に確認したところ、以前よりも自分たちの意見を聞いてもらえていると感じると答えた。マリアの目標と結びつけてフィードバックを行ったことで、指摘が受け入れられやすくなり、また、行動に移す動機付けにもなったのである。

4. 自分のエゴを抑える

 新たに着任したリーダーが、「正しい人選だった」と証明したいと考えるのは自然なことだが、それがエゴに基づくフィードバックの落とし穴につながることがある。たとえば、すぐに成果を出したいと願うあまり、無遠慮な言い方をしたり、攻撃的な態度に出たりする、あるいは、波風を立てたくないという思いから過度に受け身になってしまう、といったケースである。

 優れたリーダーは、明確かつ率直なコミュニケーションを取りながらも、同時に思いやりと敬意を示すことが可能であることを知っている。そもそも、この2つは二者択一ではない。

 筆者のクライアントで、テクノロジー系スタートアップで最近ディレクターに昇進したマイケルを例に取ろう。彼の部下であるシニアエンジニアのシャナは、複数の納期を守ることができず、重要な製品のローンチができないリスクが生じていた。マイケルはこの問題に対処しないわけにいかなかったが、同時に、初めての重要なフィードバックの場で厳しい印象を与えることは避けたかった。

 そこで彼は、一対一の面談でまず、シャナの専門性と過去の重要な貢献について認める言葉をかけ、そのうえで自身が気づいたことを伝えた。「シャナ、最近、納期に遅れが出ていますね。あなたがこの製品の成功に向けて全力で取り組んでいることは知っていますし、遅れを取り戻すために必要なものを確実に提供したいと思っています。何が問題なのか教えてください。そして、私がどうサポートできるか話し合いましょう」

 率直なフィードバックと共感的な問いかけを組み合わせたことで、2人は正直な対話を持つことができた。シャナは、新たに導入されたプロセスが業務の流れを妨げていると語った。そこで2人は協力して、シャナの担当業務を調整してプロセスを簡素化する計画を立て、さらなる遅延を防いだ。思いやりと敬意を持って率直に課題に向き合った結果、マイケルは説明責任を強化しながら、同時に信頼も深めることができた。

 両者のバランスをうまく取るためには、フィードバックの構成を意図的に組み立てる必要がある。多くのリーダーは自然と、共感の強いアプローチか、率直に伝えるアプローチのいずれかに傾くものだ。あらかじめ自分の傾向を知っていれば、事前に準備をして、苦手とする側のアプローチを意識的に強めることができる。

 このバランスを取ることによって、率直で、説明責任が果たされ、成長を加速させる文化の基調が生み出される。フィードバックは人間関係を脅かすものではなく、成長のためのツールとなる。

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 新たな役職に就いてすぐにフィードバックを行う際には、地雷原を歩くような気分になるかもしれない。しかしそれは同時に、みずからのリーダーシップの基盤を構築するチャンスでもある。状況を把握し、信頼を迅速に築き、チームメンバーの願望を理解し、エゴを抑える──この4つのステップによって、課題を効果的に乗り越えることができるだろう。そうなれば、パフォーマンスを向上させられるだけでなく、あらゆるリーダーの功績に不可欠な要素である信頼、率直さ、相互の成功に基づいたチーム文化を構築することもできる。

(注:クライアント名は仮名)


"4 Strategies to Help New Leaders Give Feedback," HBR.org, July 15, 2025.