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職場における「優しさ」に注目する
組織が「優しさ」(kindness)を真剣に受け止めなければどうなるだろうか。従業員は辞めたり休んだりし、信頼は失われ、チームのコミュニケーションが機能しなくなり、緊張や対立への対処に時間を取られ、顧客にも影響が及ぶことになる。
大離職時代に世界の大手企業500社以上を対象に実施されたある調査によれば、退職理由として「優しさに欠ける職場文化」が挙げられる割合は、「報酬」の10倍以上高いことが明らかになった。別の研究によれば、フォーチュン1000の管理職は、優しさの逆である従業員の無礼さ(incivility)やその影響に対処するために、毎年およそ7週間を費やしているという。
これに対し、優しさを支援する文化や制度のある職場では、より強固な人間関係、より大きな協力関係、そして高いエンゲージメントと定着率が確認されている。スタッフは互いに助け合い、率直に意見を述べ、アイデアを共有し、会社に留まる傾向がある。顧客もサービスを信頼し、人に薦める可能性が高くなる。
優しさとは、生ぬるさではない。選択の余地はなく、成りゆき任せにもできない。安全規則や人事評価と同様に、優しさは人々の働き方の中に組み込まれなければならない。つまり、期待値、システム、説明責任が求められるのである。組織内および組織間で、信頼、協力、つながりを築く社会インフラの一部にしなければならない。
これを実現するためには、優しさとは何かを組織で明確に共有する必要がある。それによって従業員は、同僚、チーム、組織、顧客との間で、それを一貫して適切に実践しているかどうかを判断できる。
まずは、優しさとは何か、優しさでないものは何か、を明確にしよう。優しさとは単なる感情ではなく、行動である。それは私たちの選択や振る舞いの中に表れる。筆者の一人(ニキ・マックリン)は、医療サービスにおける優しさ、親切(compassion)、共感(empathy)の違いを探った調査で、優しさを次のように定義した。「相手の成長、幸福、または成功を支援しようとする積極的な努力。観察可能で意図的な一連の行動」
優しさは、相手に厳しいフィードバックを与えるような難しい行動を意味する場合が多い。たとえば、締め切りを守らない部下がいるとする。忙しい時はつい手を出して自分でやってしまったり、黙って見過ごしたり、あるいは怒りや苛立ちから相手をきつく責めてしまったりする。
優しさとは、別のアプローチを取ること、つまりその人に「どうかしましたか」と尋ねる場と時間をつくることである。もしかすると、タスクの優先順位を十分に理解していなかったのかもしれないし、仕事や家庭で大きな負担を抱えているのかもしれない。理由が何であれ、相手と協力して期待値を見直し、コミュニケーションを改善し、あるいは仕事量を調整することが最善だろう。これは言い訳を認めたり基準を下げたりすることではない。相手が基準を満たせるよう支援し、信頼と敬意を築くことである。