-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
-
PDFをダウンロード
【HBR CASE STUDY】
[コメンテーター]
デイビッド A. トーマス(David A. Thomas)ハーバード・ビジネススクール 教授
ハーマン・モリス・ジュニア(Herman Morris, Jr.)
メンフィスライト ガス水道事業部 社長兼CEO
ダリル・コーエン(Daryl Koehn)セント・トーマス大学 商業倫理センター長
アリシア・レウング(Alicia Leung)香港バプティスト大学 助教授
グレン C. ロウリー(Glenn C. Loury)ボストン大学 経済学部 教授 兼 同大学人種・公共部門研究所 所長
[ケース・ライター]
ジョン・ハンフレイズ(John Humphreys)
イースタン・ニューメキシコ大学 助教授
*HBRケース・スタディは、マネジメントにおけるジレンマを提示し、専門家たちによる具体的な解決策を紹介します。ストーリーはフィクションであり、登場する人物や企業の名称は架空のものです。経営者になったつもりで、読み進んでみてください。
信じられなかった上司の一言
シンシア・ミッチェルは、上司のピーター・ジョーンズをじっと見つめるしかなかった。たったいま、彼の口から信じられないような言葉を聞いたからである。彼女はその言葉の意味を確かめた。「スティーブ・リプリーが適任者であったとしても、クライアントの妨害に遭うだろうから、この仕事を担当させるべきではないとおっしゃりたいのですね」
「最後は君が決めることだ。スティーブに打診するつもりなら、2人で決めればいい。ただし、彼を起用したら大失敗を招くことになるよ」とピーターは釘を刺した。
「彼がアフリカン・アメリカンだからですか」。彼女は非難を込めて聞き返した。「この地区に住む白人農家の人たちは、自分の帳簿をアフリカン・アメリカンに任せることを嫌うと考えているからなのですね」
ピーターは顔を紅潮させた。「推測で言ったわけじゃない。これは事実なんだ。ベティ・アイネズとヒュー・コンレイに聞いてみるといい。彼らは、スティーブに勝るとも劣らないほど優秀な人材だ。でも会社は、いや正直に言おう。私は甘く見ていたんだ。好むと好まざるとに関わらず、世のなかには根強い人種差別があるという現実をね。2人が担当したのは、アフリカン・アメリカンを嫌う土地柄だったから、惨めな失敗を味わわせてしまったよ。それも私が世間知らずだったせいだ。彼らに落ち度があったわけじゃないのに、アグファンズでの彼らのキャリアは狂ってしまったんだ。だからこそ、スティーブには、努力次第で成功をつかめるチャンスをあげたいんだ。マイノリティを管理者として育成するということについては、アグファンズにも現状を改善してもらいたいと願っているんだよ」