AIドリブン企業に変わるために問うべき3つの質問
Illustration by Nathan St John
サマリー:巨大IT企業は、AIとデータ共有を軸に事業多角化の意味を刷新している。既存の複合企業がこの環境下で価値を創出するには、事業ポートフォリオの論理、運営モデル、アルゴリズムという3要素を、正しい順序で再設計しなければならない。本稿では、南米大手コングロマリットであるインターコープの変革事例をもとに、AI時代の企業戦略に不可欠な3つの問いと、組織学習を通じて競争優位を築くためのロードマップを提示する。

AI時代の企業モデルとは

 今日の巨大IT企業は、多角経営の定義を変えつつある。かつてその見本だったGEハネウェルのような工業界の巨人が会社分割をする一方で、アマゾン・ドットコムやアップル、アルファベットなどの企業は、Eコマースやクラウドコンピューティング、エンタテインメント、金融サービス、スマートホーム、ロジスティックス、医療といった本業と無関係な多数の分野にわたって事業展開している。この状況をどのように捉えるべきなのだろうか。規模の経済、範囲の経済の概念に基づく従来の多角化理論は、デジタル時代において意味を失いつつあり、AIの発展は、データ、知識、ネットワーク効果の共有による新たな価値創造の機会と、企業戦略を見直す新たな必要性をもたらしている。

 筆者らが顧問を務めた南米のインターコープ・ペルーはその実例である。インターコープの会長、カルロス・ロドリゲス=パストールは、AIが持つ変革の可能性に興味を抱いた。彼のコングロマリットは、金融サービス、小売り、医療、教育などさまざまな分野でブランドを構築してきた。ペルーで創業し、中南米の他の市場へ拡大していたが、複合企業に共通する課題に直面していた。それは、個別事業の運営には効果的な組織の分散構造が、データやAIの体系的な活用による顧客1700万人へのクロスセルやアップセル、パーソナライズドサービスの提供の足かせになっていたことである。

 インターコープの事例は、企業戦略の見直しを図る企業の参考となる発展的なナラティブを示している。筆者らとの会話で、会長はこう質問した。「AI時代におけるインターコープの未来とは、どのようなものか」。筆者らはこの核心的な質問を3つの質問に分解し、同社のロードマップ作成に協力して取り組んだ。

 工業時代のコングロマリットから、AIドリブン型の企業モデルへ移行するには、その3つの質問に正しい順序で答えていく必要がある。家を建てるように、まず基礎(事業ポートフォリオの論理)を固め、次に構造(オペレーティングモデル)を設計し、そうして初めて先進的なシステム(アルゴリズム)を導入する。企業戦略家であるあなたの仕事は、この3つの質問に等しく説得力のある答えを生み出すことである。

1.「当社の事業ポートフォリオの論理は何か」

 多くのコングロマリットは、AIドリブンな世界に適した構成になっていない。問題はどれだけ多角化しているかではなく、それらの事業がデータ、知識、ネットワーク効果を共有することによってメリットを得られるかどうかである。一部門では生み出せない知見を生み出すために、事業部間の情報の流れを明確にし、その流れが企業の学びや独自の差別的優位性につながるようにしなければならない。

 筆者らはまずインターコープの経営陣に、すべての事業を統合する事業ポートフォリオの論理を定義させた。その際に、経営効率や業界における支配力、ビジネスサイクル管理の点だけでなく、異なる事業部が全体の学びや能力構築に貢献し、その恩恵を受けること、それを支えるのは業務や顧客インタラクションに関するデータである点を考慮するよう助言した。

 経営陣が取り組んだのは、「なぜ多様な事業を単一の企業の傘下に置いておくべきなのか」という根本的な問題である。有形資産や資金の共用といった理由で満足しないよう釘を刺すと、彼らはより深い理由を導き出した。つまり、AIやデータを活用した、ペルー市民の金融包摂(誰もが金融サービスを利用できること)と中産階級向けサービスの促進という可能性である。経営陣とのワークショップでは、データグラフの力について書いた2022年の『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)記事のアイデアを使って、インターコープが全社の顧客インタラクションを統合すれば、真にパーソナライズされた顧客提案を行えるようになることをイメージさせた。

 すると彼らは、各事業部がいかに狭く断片的な顧客像をもとに事業を行ってきたかを一瞬にして理解した。そして金融サービス、小売り、医療、教育各事業のデータを連動させることにより、1700万人の顧客のニーズ予測、商品やサービスの調整、価値の創出をはるかに効果的に行えることを理解した。

 これは企業が従来、有形資産の共用やライフサイクルの連動、資金移動などで事業部間を緩く結びつけてきた理由とは極めて対照的である。この論理は、有形資産や予測可能な投資サイクルに基づいた工業の時代には理にかなっていたが、知能主導の経済ではほとんどメリットがない。工場や購買予算が共有できても意思決定の質は向上せず、ライフサイクルを連動させても学習速度は上がらず、資本が豊富な時代に資金を共有できても容易に模倣される。今日、真の防御可能な優位性を生み出すのは、事業間でデータを連携し、顧客理解を深め、予測精度を高め、よりパーソナライズされた顧客エンゲージメントを生み出す能力である。これは、従来の多角化理論ではとうてい太刀打ちできない価値の源泉である。

2.「当社のオペレーティングモデルは何か」

 管理のために構築された従来の事業部制やマトリックス構造は、スピードと学習を意図した、より流動的で部門横断的な形態に道を譲りつつある。あなたはピアツーピアのコラボレーションや即席の実験、迅速な知識普及を可能にするシステムを構築してみせなければならない。目標は、起業家精神を抑制することなく、AIの機能を全社に拡大することである。

 筆者らはインターコープの経営陣に、データとAIを活用して即席実験と事業部間学習を促進する方法を考えさせた。彼らは、新しいオペレーティングモデルは、事業部の自律と知識共有を両立させ、完全な分散組織のリスクを回避する必要があることを理解した。完全分散型は知識共有を妨げ、その対極にある硬直的な中央集権型組織は、イノベーションを阻害する。筆者らは、協力より管理を重視した工業時代の階層モデルを見直すことの重要性を強調した。筆者らの指導の下、経営陣は、「データとアルゴリズムはすべての事業部が利用し共有できる全社的資産である」という大原則を採用した。

 企業は多くの場合、共有サポート部門として本社IT組織を置き、インフラ提供機能をそこに集中させようとする。しかし、筆者らはインターコープの経営陣にその考え方を捨て、ITをサービスセンターではなく、事業部間のデータをリンクさせるピアツーピアのメカニズムとして捉えるよう助言した。これにより、本社の一部門には実現できない協働、実験を通じた知見の共有、整合の取れた価値創出が可能になる。たとえば、同社の金融サービス部門であるインターバンクを分析モデルの卓越したセンターにすることを提案し、検討させた。同行が信用リスク評価のためのAIモデルを開発する場合、その能力を銀行内に留めていてはいけない。その能力や知見は、インターコープの教育事業における学生の成績予測や、小売事業における顧客行動分析に応用できるはずである。これは、事業横断的学習が実業務に制度化できるという具体的証明になった。

 中央集権モデルではなくピアツーピアの協働に投資するという選択は、成長する中産階級に複数の接点を通じてサービスを提供するというインターコープの包括的目標に則っている。インターコープは、事業部が単独では実現できず、他社に真似されないような大規模かつ高度にパーソナライズされたオプションを迅速に顧客に提供できることを認識した。インターバンクの支払いデータは小売事業の改善に役立ち、小売事業における顧客行動に関する知見は、教育サービスを開発する際の指針となる。こうしたつながりは、市場取引では再現が非常に困難な学習の好循環を形成する。筆者らはまた、社内の独立部門と統合しにくいIT部門をつくるべきではないことも強調した。その結果同社は、データと分析を会社のオペレーティングモデルにシームレスに統合したのである。

3.「当社独自のアルゴリズムは何か」

 最後に、独自のデータや事業領域に関する知識をアルゴリズムによって組み合わせ、永続的な価値を生み出すことを示さなければならない。目標は、技術的優位性だけでなく、累積学習である。独自のデータソースから引き出し、パートナー統合を通じて充実させた知見を活かし、時とともに成長する「知識の経済」を生み出すことである。

 筆者らは、インターコープの経営陣に独自のデータモデルとアルゴリズムを活用し、事業領域全体で競合優位性を築くことに重点を置くよう指導した。筆者らと仕事をするうちに、彼らは工業時代の古いスキル、たとえばエンジン技術(本田技研工業など)、小型化技術(ソニーなど)、ストーリーテリング(ウォルト・ディズニーなど)、ブランド構築(バージンなど)を超えて、豊富な独自データの活用とアルゴリズムによる差別的優位性を築くべき時代であることを理解した。

 全社的な枠組みなしにAIソリューションの導入に走る企業とは異なり、インターコープは、共同でアルゴリズムの機能開発に取り組んだ。筆者らは、同社が1700万人の膨大な顧客インタラクションを使って学習するAIモデルを作成し、データネットワーク効果を得られることを説明した。彼らはこのアプローチによって金融サービス、小売り、教育事業で高度な予測能力と、具体的なアクションにつながる推奨が可能になることを理解した。

 たとえば、インターコープのヘルスプラットフォーム事業は急成長段階にあり、病院をどこに新設するか、どの専門分野を扱うか、といった後戻りできない大きな決断を行う段階にある。インターコープの薬局やクレジットカード取引からの膨大なデータをアルゴリズムで分析することにより、ヘルスプラットフォームは知見を事業拡大の賢い判断につなげることができる。

順序が重要

 インターコープの事例が示している通り、デジタル・トランスフォーメーションによってコングロマリットを強靭にする起業家精神が損なわれる必要はない。パーパスから構造、技術的能力へという正しい順序に従うことにより、企業は俊敏性を維持しながら新しい形の優位性を創造することができる。カルロス・ロドリゲス=パストールは、工業時代のコングロマリットから知能の時代のコングロマリットへの転換は、各段階が次の段階を強化する反復的なものであると認めている。

* * *

 現在はAIバブルの最中にあり、AIインフラへ前例のない投資が行われていることが懸念されている。こうした投資は、AIの能力が企業の戦略と構造に効果的に統合されて初めてリターンを生み出す。企業戦略は、アルフレッド・チャンドラーが説いた規模と範囲の工業の論理から、知識と専門性を中心とする現代の知能の論理へとシフトしなければならない。インターコープの事例は、AIの時代に企業がどのように成功に向けた基礎固めができるかを示唆している。


"3 Questions to Ask About Your Corporate Strategy in the Age of AI," HBR.org, November 06, 2025.