ウィキペディア創設者が語る「信頼のつくり方」
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サマリー:「世界中の人々が協力し合い、事実上あらゆるトピックを網羅する正確なオンライン百科事典をつくり上げる」というウェキペディアの発想は、設立当初、実現不可能だと思われていた。しかし現在では、引用元が明示され... もっと見るた信頼できる情報源として定着している。その成功の背景には、明確なパーパスの導入や厳格な行動ルールの徹底、そして透明性の確保があった。本稿では、共同創設者のジミー・ウェールズが、寄稿者との信頼関係をいかに構築したか、また誤情報やAIが台頭する現代において、組織がいかに信頼を維持すべきかについて話を聞く。 閉じる

 2001年にウィキペディアが設立された当初、世界中の人々が協力し合い、事実上あらゆるトピックを網羅する正確なオンライン百科事典をつくり上げるという発想は、実現不可能に思えた。しかし今日、多くの人々はこのウェブサイトを、適切に管理され、引用元が示された信頼できる情報源として捉えている。これは、ウィキペディアのリーダーたちが運営方法について慎重な決定を下した結果によるものである。

 共同創設者であるジミー・ウェールズは、シンプルなパーパスの導入や特定の行動ルールの徹底といった戦略が、寄稿者やユーザーとの信頼の構築にいかに役立ったかを説明する。さらに、誤情報が氾濫する世界にあっても信頼を維持できている理由を語っている。ウェールズは、The Seven Rules of Trust: A Blueprint for Building Things That Last(未訳)の著者でもある。

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アリソン・ビアード(以下色文字):アリソン・ビアードです。

アディ・イグナティウス(以下色文字):アディ・イグナティウスです。HBR IdeaCastをお送りします。

 さてアディ、新しい情報源がオンライン上に登場して世界中の人々にとって頼れる存在となり、時には教授や上司のいら立ちの種となるものの、誰もが知る存在となり、インターネットを本当に変えた瞬間を思い浮かべてみてください。

 ということは、またAIの話ですね。

 実は、私がお話ししているのはウィキペディア、オンラインのクラウドソース型百科事典のことです。長い間、多くの人から懐疑的な見方をされてきましたが、今日では、かなり信頼できる情報源と見なされています。インターネット上にポジティブなものを生み出した組織の一例です。そして今日のゲストは、ウィキペディアの共同創設者、ジミー・ウェールズ氏です。

 面白いですね。私が『タイム』誌にいた頃、ジミー・ウェールズ氏にインタビューしたことがあります。当時、ウィキペディアは設立されたばかりでした。そして、私は実際に彼に異議を唱えようとしました。私の父(元米国海軍長官)に関するウィキペディアの項目があり、何度も改訂版がつくられていましたが、その中には完全に誤った事実が含まれていました。私が彼に異議を唱えると、ウェールズ氏は「ええ、そうかもしれません。でも、最終版は正しかったでしょう」と返しました。そして彼は、自身が『タイム』誌のインタビューを受けた際、『タイム』誌がいくつかの事柄を誤ったまま伝え、それが紙媒体として永遠に残ってしまったことを引き合いに出しました。その時、私は悟ったのです。なるほど、ウィキペディアこそが未来だと。

 ウィキペディアのポイントは、あなたが自分でそのページにアクセスし、お父様についての項目を訂正し、あなたの認識こそが真実であることを証明するための適切な引用元を設定できる点です。ウェールズ氏もその点を主張していると思います。彼は、明確なパーパスを持ち、関わるすべての人に明確な規定がある組織をつくりました。その結果、質の高い「プロダクト」が生み出されているのです。 彼はThe Seven Rules of Trust: A Blueprint for Building Things That Last(未訳)という新刊を出しました。あらゆる組織のリーダーに対し、社内だけでなく、ユーザーや顧客と信頼関係を育む方法について、多くのアドバイスを提供しています。ジミーさん、番組にご出演いただきありがとうございます。

ウィキペディアが信頼を構築した方法

ジミー・ウェールズ(以下略):お招きいただき、ありがとうございます。お会いできて嬉しく思います。

 現代のビジネスリーダーは、社内のチームや顧客、あるいはその両方との信頼関係の構築に苦戦していると感じますか。そして、あなたはそれを問題として捉えていますか。

 それは本当に重要なことです。これがどれだけ問題であるかは、それぞれのビジネスや状況によって異なります。しかし私は、まず第一にスタッフ、顧客、パートナー(それが誰であれ)と真の信頼の基盤を築くことができなければ、他のあらゆることがうまく進まず、コストが増加し、そして成功は望めなくなると考えています。

 それはどのような起業家も最初から考えるべきことであり、組織のリーダーはいますぐ真剣に検討すべきことだとお考えですか。