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インタビュー前編「花王復活のカギを握る構造改革とグローバル戦略に込めた『真意』」はこちら。
「マトリックス型」の組織運営が花王を蝕んでいた
編集部(以下色文字):前編では、現在、花王の持続的な成長を牽引している「グローバル・シャープトップ戦略」について詳しく伺いました。この戦略を推進する中で、実際にどのような手ごたえや成果を得られていますか。
長谷部(以下略):象徴的なのは、国内ヘアケア事業の再構築です。私自身、かつて研究職として携っていた事業ですが、これまでは過去の成功体験から脱却できず、既存のブランドや手法で何とか現状を打破しようともがいている状態でした。そこで今回は、あえて過去にとらわれない真っさらな視点を持つメンバーを集めて任せ、彼らが生み出す新たな発想を全面的に受け入れることにしました。その際、最大の壁となったのが、長年花王を蝕んでいた「マトリックス型」の組織運営です。
「蝕んでいた」とは、具体的にどのような弊害があったのでしょうか。
本来のマトリックス組織は、碁盤の目のように機能すべきものですが、実際には縦(事業部門)と横(研究開発などの機能部門)が同等の権限を持つことで、意思決定のたびにさまざまな調整や会議が必要になっていました。各部門が自組織の目線や利益を優先するあまり、残念ながら組織としてのスピード感が損なわれていたのです。そこで、組織体制は維持しつつ、組織運営を変えようと「スクラム型」への転換を宣言しました。
ところが、執行役員会で私が「脱マトリックス」を打ち出したところ、ほぼ全員から凄まじい反発を受けました。マトリックス型の組織運営は、私たちにとって“ご神体”そのものでしたから、縦横無尽に連携できるこの体制を壊すなんて、何を考えているんだと思われたのでしょう。
しかしながら、「マトリックス」という言葉の解釈には、長年の間に齟齬が生じていました。かつてこの組織をつくった先人たちは、もともと「生体機能的組織」を目指していました。人間の体は傷を負うと血が出て、出血を止めるために血小板が一気に集まってきます。それになぞらえて、平時はそれぞれの部門で仕事をする一方で、有事になれば「いざ鎌倉」とばかりに各所から集まってことに当たり、課題が解決すればまた解散し、そこで得た知見を別の場面で活かそうという意図を持っていました。ところがいつの間にか、縦横無尽にいろいろな機能が張りめぐらされている様子を指していると思った誰かが、欧米の言葉に挿げ替えて、「マトリックス型組織運営」と呼ぶようになってしまったのです。
私は、この生体機能的組織の精神をもう一度呼び起こしたいと思いました。ただ、いまさら「生体機能的」といっても、社員にその真の意味を伝えるのは難しいでしょう。そこで、私が大好きなラグビーに例えて、「スクラム型」という言葉を掲げることにしました。これによって、スクラムを組むように、各組織からエース級の中間層が集まり、全員が主体性を持ってゴールに向かうようになりました。
先ほどのヘアケア事業に話を戻しますと、このスクラム型を掲げたことで、チームが目覚ましい成果を挙げ始めました。これまでは部門間の「バケツリレー」のような承認プロセスを経ていましたが、スクラム型ではすぐに決定が下され、全員が当事者意識を持って動くようになります。その結果、あらゆる業務が驚異的なスピードで回り始めました。これまでは新ブランドの立ち上げ一つにしても5、6年を要していましたが、たった2年の間に3つのブランドを世に出すことができました。
従来の習慣やお客様へのアプローチを根本から見直し、チームワークが結実していく様子を目の当たりにして、これこそがこれから花王が進むべき道だと確信を持ちました。
「花王といえばマトリックス運営」と言われるほど、長年、組織の特徴として掲げられてきたものだと思いますが、本来の意図が正しく理解されていなかったということですか。






