仕事上の友情がもたらす価値を過小評価してはいけない
Compassionate Eye Foundation/Janie Airey/Getty Images
サマリー:ビジネスにおける公私混同は長年タブー視されてきたが、現代の知識集約型社会においてその論理は崩れつつある。孤独による生産性低下や離職が深刻化する中、職場での真の友情は心理的安全性を高め、イノベーションやウェルビーイングをもたらす不可欠な資産となる。本稿では、個人的領域と職業的領域を重ね合わせる「統合型世界の思考」の有用性を説き、ビジネスで深い絆を築き成果を最大化するための具体的な行動指針を提示する。

「仕事上の友情」がビジネスと個人にもたらす価値

 企業の経営幹部たちは「これは個人的な問題ではなく、ビジネス上の問題だ」という決まり文句を何十年もの間、繰り返してきた。この言葉には、感情的な距離を置くことがプロフェッショナリズムの証だという含みがある。だが、このロジックはあいにく時代遅れだ。いまや、起きている間は家族や仕事と関係のない友人と過ごす時間よりも、職場で過ごす時間のほうが長くなっている。そして、パンデミック以降の世界では、多くのプロフェッショナルがかつてないほど孤立している。元米国公衆衛生局長官のベビック・マーシーは「孤独という伝染病」が職場の生産性、エンゲージメント、定着率に重大な影響を与えていると警告した。それだけでなく、世界では毎年約100万人が早世している。

 現在、最も活発で急成長を遂げている経済セクターの一つである知識集約型企業においては、信頼、心理的安全、迅速な学習が、業績を挙げるうえで不可欠な要素となっている。このような条件は、純粋な友情が形成される時に満たされる。仕事を通じた友情の構築が人間的に自然であるだけでなく、ビジネスとウェルビーイングにとっても必須であることを今日の現実が示している。

 筆者は長年、「ビジネスにおける友情」を研究しているが、この関係は信頼、精神的サポート、知識の共有、イノベーション、キャリアの進展、業務成績など、個人およびビジネス上の便益を生み出すと断言できる。だが多くの人々は、その便益を手に入れるのに壁にぶつかる。筆者はその壁を「分断型世界の思考」と名づけた。それは、金銭が絡む人間関係は、結局のところ、商品のように扱われ、精神的な価値を剥奪されてしまうという考え方だ。

 筆者はそれに代わって「統合型世界の思考」を取り入れることを、リーダーに勧めている。この考え方は、個人的領域と職業的領域が重なり合う関係を受け入れ、そして歓迎する。本稿では、統合型世界型の視点を養うための具体的な一連の行動を提案したい。だが、まずは分断型世界の思考をさらに詳しく知り、その誘惑と克服法を理解することが大切だ。

分断型世界の誘惑

 分断型世界の思考ロジックには、文化と認知の両側面がある。文化の面では、人々は、個人的な関係に金銭が介在すると、その関係の感情的な意味が損なわれると認識している。そのため欧米文化では、金銭を(実用品でも)贈り物にすることへの嫌悪感が根強い。「真の友情の表現として」ふさわしくないからだ。認知の面では、心理学者は「タブー・トレードオフ」を指摘する。それは、人は愛情や忠誠心と金銭を天秤にかけることを求められると、道徳的に混乱したり憤りを覚えたりすることを意味する。このことは、人がなぜ子どもや人間の臓器に値段をつけるのを言語道断と感じるのかを説明している。

 分断型世界の思考は、ビジネスモデルにも顔をのぞかせることがある。エアビーアンドビーは当初、ホストが家にゲストを迎え入れ、滞在終了時に料金を徴収するという、従来のゲストハウスによく似たモデルでスタートした。だが創設者たちは、自身がエアビーアンドビーのゲストとして宿泊し、ホストと親しくなった後に、その新しい友人と経済的取引をすることの気まずさを経験し、このモデルを変える必要があると考えた。現在、エアビーアンドビーの支払いは、個人とビジネスの世界を分けるために、すべて前払いで一定の距離を保って行うことになっている。

 まとめると、こうした規範や反射的思考パターンは、なぜ多くのリーダーが個人的領域と職業的領域を混合することに、ひそかな違和感を覚えるかを説明している。そうした点にとらわれていると認識することが、統合型世界の思考へ進む最初のステップだ。

統合型世界のパワー

 統合型世界の思考の利点について説明に入る前に、次の作業をしてほしい。まず白い紙の上に円を描いて「友人」というラベルをつける。この円は、あなたにとってそのラベルに該当する人々を表す。次に2つ目の円を描いて、これに「職業ネットワーク」というラベルをつける。こちらは、あなたのビジネス上の成功に関係する人々を表す。さて、ここで重要な判断をしなければならない。この2つの円はどの程度、重なるだろうか。この2つのカテゴリーについてのあなたの認識に基づいて、正直に判断してほしい。

 経営幹部にこの作業をしてもらうと、約10%の人は2つの円がほとんど接触せず、別の10%の人は2つの円が50%以上重なっていた。残りの人はその中間のどこかに入る。企業幹部1500人について分析したところ、円の重複部分が大きい人は、職業ネットワークがより広く、キャリアへの満足度と収入がより高い傾向があった。それは、友情が社会的交流の領域であり、そこで効果的な情報交換ができるからだ。

 MBAの学生時代に友人になり、やがて業界を根本から揺るがすD2C(消費者直販型)のアイウェアブランド、ワービー・パーカーを設立した、ニール・ブルーメンタールとデビッド・ギルボアの例を見てみよう。フィラデルフィアのバーでビールを片手に成立した、彼らの最初の非公式なパートナーシップは2つのコミットメントを土台にしていた。会社のために精いっぱい仕事をすること、そして友人であり続けることだ。

 ブルーメンタールとギルボアは、2010年以降、共同CEOという難しくて壊れやすい関係を保ちながら、コラボレーションに成功している。2人はその成功を、友情があるからできるオープンなコミュニケーションのおかげとしている。彼らはワービー・パーカーを全米ブランドに成長させただけではなく、初期段階のベンチャーキャピタル企業、グッドフレンズ(まさにふさわしい名称)を共同設立した。2人の友情は、個人的な絆が、契約やインセンティブでは実現しえないコラボレーションを持続させるという好例だ。