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AIは既存の「判断力」を増幅するツールである
数年前、コンサルティング会社のパートナーとして生成AIを試験的に使い始めた頃、意外なことに気づいた。AIは経験の浅い同僚たちよりも、筆者をはるかに大きく助けてくれていた。
筆者の仕事において、研究成果の統合や分析といった専門知識に基づくアウトプットは慣れ親しんできたものだが、AIを使うとはるかに速くまとめることができるようになった。品質は完璧ではなかったが、方向性はおおむね正しく、自分で容易に修正できた。
一方、経験の浅いアナリストたちにとって、AIの使用体験はまったく異なるものだった。彼らも迅速にアウトプットをつくれるが、AI導入前と比べて意味のある改善は見られなかった。それ以上に驚いたのは、アウトプットの良し悪しを判断することにしばしば苦労していたことだ。どのように修正するかについては、なおさら戸惑っていた。場合によっては、どこから手をつければいいのかさえ、わかっていなかった。
これは筆者の予想とは違っていた。2022年当時、筆者は多くの人と同じように、生成AIが経験の浅い労働者の実力を底上げし、能力を一気に注入するのだろうと考えていた。ところが実際に起きたことはその逆だった。生成AIは、判断力の不足を補うというより、既存の判断力を増幅するツールなのだ。
いま振り返ると、筆者が目撃した小さな出来事は、現在さまざまな業界のマネジャーが、AIに支援されたアウトプットを受け取った時に抱く、大きな違和感を説明している。アウトプットは迅速につくられ、見た目も洗練されているが、その品質を評価するのは難しく、それに従って行動を起こすべきかどうかを判断するのも難しい。
この状況は、AIツールを使ってよい成果を出す実際のプロセスを詳しく見ていくと、理解しやすいだろう。必要なのは、AIが提供するものを使う人がたえずそれを評価して、熟考しながら反復することだ。AIにプロンプトで指示を出し、結果を得て、評価して、再び指示を出しながら、少しずつ方向を修正していく。
こうした判断力は、歴史的に見て、AIを使うことから生まれるものではない。AIを使う業務と似ている業務を経験して、時には不十分で時間がかかり、不完全なところもある反復から学びながら、結果に責任を負う経験によって注意力が研ぎ澄まされる中で培われる。
ここで、組織はあるパラドックスに直面する。組織が認識しているかどうかにかかわらず、AIは判断力の必要性を高めると同時に、その判断力を生み出す経験をむしばんでいるのだ。
ハーバード・ビジネス・スクール教授のエイミー C. エドモンソンとラッセル・レイノルズのトマス・チャモロ=プレミュジックは、AIでエントリーレベルの職種を完全に代替することのリスクを警告している。本稿では、AI時代にエントリーレベルの職は残っても、彼らの能力育成の価値が根本的に変化することに注目する。
まずは、「判断力」が何を意味するのか、その定義を明確にしよう。
「判断力」とは何か
判断力とは、リーダーが頻繁に口にする言葉だが、ほとんど定義されない資質の一つである。昇進の決め手となることが多く、地位が上がるほど重要性も増す。筆者自身は、みずからの昇進のために判断力を示す側と他者の判断力を評価する側という、両方の立場を経験してきた。
判断力とは、ルールだけでは不十分な状況で賢明に行動する能力、と定義することもできる。ある状況で何が最も重要かを見極め、競合する優先事項やトレードオフをはかりにかけて、結果を予測し、不確実性の下でみずから意思決定の責任を引き受けるべき時を決める。そういう力だ。
この定義は、リーダーが判断力について語る際に、通常は複数の異なる形をひとまとめにしていることを示唆している。実務では、判断力は少なくとも5つの形で現れる。







