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従業員が戦略を支持し、一体感を持つためには
どんなに優れた戦略があっても、従業員が戦略の内容を理解し、その実現に向けて本腰を入れていなければ意味がない。実際、戦略の実行段階を戦略マネジメントの「アキレス腱」と位置づける論者は多い。ビジネスの世界を見回すと、戦略の実行が計画通りにいかなかった例は枚挙に暇がない。たとえば、PC大手HPの「ワンHP」戦略もそうだし、ヤフーの経営再建戦略や、マッチングアプリを運営するバンブルの集中強化戦略もそうだった。
戦略の実行を成功させるうえで重要な意味を持つ要素の一つは、戦略がステークホルダーに周知されていて、信頼とコミットメントを引き出せているかどうかだ。その点、戦略を説明するビジュアルデザインを作成する際に、明確な原則――水平レイアウトを採用したり、階層を可視化したり、図の中の矢印などに説明を添えたりするなど――を採用していれば、ビジュアルデザインの明確性と信頼性を大幅に高めることができる。
ただし、そうした原則を貫くことにより、社外のステークホルダーとの関係で戦略を大きく改善できることは確かだが、それだけで十分ともいえない。これまでの筆者らの研究とコンサルティングの経験から言うと、社内のステークホルダーに向けた戦略コミュニケーションに関しては、明確性を高めるだけで成功が保証されるわけではない。従業員のエンゲージメントを高められなければ、どんなに明確な戦略にも前進力が生まれないのだ。
社内の従業員たちが戦略を支持し、その戦略を実行に移すようにするためには、戦略を理解しているだけでなく、戦略との一体感を持てていなくてはならない。そして、そのような状況をつくり出すには、抽象的な図で戦略を表現するだけでは事足りない。比喩とストーリーテリングも必要なのだ。
本稿では、筆者らの研究と豊富なコンサルティング経験をもとに、従業員の心に響く形で戦略を視覚化するための指針を示す。これを実践することにより、従業員がリーダーの考えを理解し、支持するようになり、戦略の実行が加速すると期待できる。
研究の内容
戦略を抽象的な形で視覚化するだけでも、物事の全体像を示し、人々の認知的負荷を軽減するうえで非常に大きな効果がある。さまざまな要素の複雑な関係と戦略上の優先順位を理解する助けになるのだ。しかし、明確性を高めるだけでは、組織のエネルギーを引き出せない。社内の人々が戦略に沿った行動を取り、戦略の実現に本腰を入れるためには、戦略のビジュアルデザインが具体性を持っていて、人々の心を揺さぶり、想像力を刺激するものでなくてはならない。
ここで極めて大きな役割を果たすのが比喩だ。自社を例えて、荒波を航海する船、山の頂を目指す登山隊、未来のためにアップグレードされる機械などと考えれば、戦略が実体をもって感じられる。このようなシンボルを用いて表現することにより、抽象的なプランが身近な経験に変わるのだ。変革の順序をストーリーの形で示し、戦略を一つの旅路、現在の状態から望ましい状態への旅と位置づければ、そうした効果をいっそう強化できる。
筆者らはこの方法論の有効性を検証するために、2つの大規模なオンライン実験を行った。実験参加者は計2026人に上り、米国のプロフェッショナルと経験豊富なマネジャーたちを対象にした。
いずれの実験でも参加者を無作為に2つのグループに分け、架空の銀行の戦略を表現した2種類のビジュアルデザインのどちらか片方を見せた。どちらのバージョンも、同じデザイン上の原則に従っており、内容も同じで、ビジュアルの質も同等だった。唯一違ったのはスタイルだ。片方は、戦略を構造化された図の形で示し、もう片方は、視覚的な比喩と物語で表現した。
実験参加者にいずれかのビジュアルデザインを見せた後、エンゲージメントの度合いを尋ねる3つの問いに回答させた。さらに、そのビジュアルデザインがどのくらい理解しやすいかも尋ねた。
エンゲージメントの度合いに関しては、筆者らの過去の研究に基づいて3項目の問いで調べた。どのくらい興味深いと思うか、どのくらい引き込まれるか、どのくらい胸躍るかと尋ねたのだ。それぞれの問いには、7段階評価で回答させた。最低評価は1(興味をもてない、退屈、胸躍らない)。最高評価は7(興味深い、引き込まれる、胸躍る)。3項目の回答の平均を算出し、エンゲージメントの総合指数を割り出した。
すると、2つの実験の両方で、比喩を用いたビジュアルデザインを見た人たちは、図だけの抽象的なビジュアルデザインを見た人たちに比べて、エンゲージメントの水準が大幅に高かった。注目すべきことに、この現象は、実験参加者の年齢、性別、職務経験に関係なく強力に見られた。
一方、戦略の理解しやすさには、両者の間に有意な違いは見られなかった。戦略理解の度合いは変わらず、どのくらい情報を引き出しやすいと感じるかにも変わりがなかったのだ。








