これが、右肩下がりの時代に入って裏目に出る。かつての優良顧客が業績不振に陥ったり、別の企業に買収されるなどにより、取引が激減し始めたのだ。その一方で、成長著しい新興業界においては、新規顧客の開拓が進まず、他社に遅れをとってしまった。

 右肩下がりの時代において必要となるのは、取引先のポテンシャルを見極める目利き能力と、顧客のスクラップ&ビルドという考え方だ。右肩上がりの時代であれば多くの企業が成長できるため、目の前の顧客に密着するやり方でも通用する。しかし、右肩下がりの時代においては、勝ち馬を見極める目がなければ、資源を浪費するだけに終わってしまう。既存の顧客にいい顔をしようという意識自体を捨てなければいけないのだが、出来上がってしまった価値観がそれを許さないのだ。この会社では、いま「価値観の変革」が最大の課題となっている。

終身雇用制から脱却し
外部との連携を可能にする

 終身雇用制は、自社のことしか知らない人材を多数つくりだす。こうした人たちが、自社でしか通用しない仕事のやり方を次々と生み出してきた。日本企業があらゆることにおいて自社独自の仕様にこだわるのは、ここに原因がある。海外では、人材が流動的であるため、業界標準のやり方が重視される。それによって様々な企業から集まってくる人たちが協力し合って動けるのだ。それが、グローバルな連携や、他企業との協業、M&Aをも容易にしている。

 日本企業は顧客に密着して、徹底的にカスタマイズすることを得意とするが、一方で、業界スタンダードを獲得することの重要性を、本質的には理解できていない。また、日本の常識しか見えない人をつくることで、新興国のビジネスに乗り遅れてしまった。独自仕様の追求はコスト高につながり、いまでは、頼りの国内ですら利益をあげることが難しくなってきている。我々は雇用慣行をも壊すべき時期に来ているといえよう。