ここまでだと、「英語」で「専門的なビジネス知識」を学ぶというわけで、スキル教育を目的としているように見えるかもしれません。

 もちろんMBAプログラムは、ひとつにはスキルの習得を目的にしています。こうした一連の科目で学ぶスキルは、グローバル化したビジネスの共通言語のようなものですから、それはそれで必須の知識であります。

 しかし、ICSのMBAプログラムの真の効果は「グローバルなセンス」を磨くことにあります。一見スキルに焦点を当てているそれぞれの講義科目は「乗り物」に過ぎません。スキルという乗り物に乗せて、グローバルな経営センスを磨く機会と場を提供する。ここにICSのMBAプログラムの一義的な目的があります。

 僕が教えているStrategyという科目を例にとってお話ししましょう。これは必修科目ですから、一つの教室で60人全員がそろって受講します。1回あたり2時間の講義が24回、そのほとんどがケースを使ったディスカッション形式の講義です。ケースになっている企業からのゲストスピーカーを招いて議論するセッションや、学生によるグループ・プロジェクトの成果を発表するセッションもあります。

 もちろん講義の中では戦略論の基本的な概念やフレームワークを一通り教えます。しかし、それだけではスキルを教えているにすぎません。スキルだけであれば、極端に言えば優れた教科書を読めば、(もともとアタマのいい人であれば)かなりの程度までマスターできることです。仕事を中断して、わざわざフルタイムのコミットメントを必要とするビジネススクールに来る強い理由はありません。

 僕の講義でいえば、とりあえずは競争戦略がテーマになっているわけですが、専門分野の知識なりスキルのトレーニングを超えて、ビジネスについてのその人に固有の「ものの見方」や「構え」を確立するということに本当の目的があります。そのためにもっとも大切になるのは、自分と異なるものの見方をする他者との議論、対話です。学生は教室での講義はもちろん、教室の外でもスタディ・グループや特定の課題についてのグループ・プロジェクトで共通の問題(僕の講義でいえば競争戦略)について繰り返し議論を重ねることになります。

 さまざまな異なる視点をもった人々としつこく対話を積み重ねることによって、自分のものの見方が相対化されます。この相対化のプロセスなしには、自分のものの見方や構えが何なのか、自分でもよくわからないのです。