ドラッカー塾®講師 国永秀男氏(左)と『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』編集長 常盤亜由子(右)
© 2026 DIAMOND, INC.
-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
イベントレポート「P. F. ドラッカー『真摯さ』(インテグリティ)とは何か」
①「インテグリティを体現していた「人間ドラッカー」の魅力」はこちら
②「インテグリティのある組織とない組織の違いとは何か」はこちら
「計画」と「実行」を分離させて
部下のやる気を奪っていないか
常盤:今回、イベントにご参加の皆さんには、事前アンケートの中で「ドラッカーの理論を実践してうまくいったこと、悩んでいること」を伺いました。一部をご紹介させていただきます。
まず、うまくいったことからです。「やらないことを決め、集中する分野を明確にできた」。それから「従業員一人ひとりの強みを活かし、フィードバックを重視したマネジメントで組織が活性化した」というお声もありました。「顧客にとっての価値、顧客の創造を再定義し、中長期的な利益やブランド構築に役立てています」。その他、「5つの問いを中心に考え、意思決定を行い、成功しました」というコメントもいただいています。
一方、お悩みとしては「理論を実践に落とし込むのが難しい」という声がありました。それから「自分一人が学んだドラッカーの理論が、部下や他のメンバーには伝わりづらい」。ドラッカー理論に感銘を受けて、この熱量を伝えたいのに周囲に伝わらない、というもどかしさですね。「少人数の部署では、弱みをカバーし合うだけの人員がおらず、強みを活かす配置が物理的に難しい」という声がありました。また、「目先の数字を優先する体質がなかなか変えられない」というお話もよく聞きますね。最後に「自分で考えさせるために問いを投げかけると、部下からは『放置』『丸投げ』と受け取られてしまう」というコメントもありました。
国永:最後のご質問は、ドラッカー塾でもよく聞くお話ですね。ドラッカー塾では、参加者の方に、数十ページに及ぶ「記入シート」というものをお渡ししています。ある企業幹部の方がドラッカー塾のエグゼクティブコースに参加された時、「社長から『記入シートで経営計画がつくれるから、書いておいてくれ』と渡された」と言うのです。自分では考えずに丸投げされた、と不満を言っていましたが、たしかにそういう会社では成果は挙がりません。実際に学んで成果を挙げた方は皆、部下ではなくて自分自身を変えることから始めています。
ドラッカー教授も「みずからをマネジメントできない人間が、組織をマネジメントできるはずがない」とおっしゃっていました。厳しいですが、これが真理ではないでしょうか。ですから、まず自分自身がこれまでのやり方をどう変えたらよいのか、これを考えてみることから始めるべきではないかと思います。
前回、「ドラッカー5つの質問」をご紹介しました。これは「我々の使命は何か」「我々の顧客は誰か」「顧客にとっての価値は何か」「我々の成果は何か」「我々の計画は何か」という質問から成るものです。「我々の使命は何か」は、誰に対してどのような貢献をするかという意味で、腑に落ちる使命ができ上がった時に人は変わります。使命があれば、どんな困難に直面しても取り組めるようになりますが、それが見つからなければ、ぶれてしまいます。
「自分一人が学んだドラッカーの理論が、部下や他のメンバーには伝わりづらい」というお悩みがありましたね。学んだ方は、会社に戻るといきなり「これをやってくれ、あれをやってくれ」と部下に実行だけを求めてしまいがちです。しかしドラッカーマネジメントには、「計画と実行を分離させてはならない」という原則があります。分離させると、仕事に対するモチベーションが低くなってしまうのです。
もし組織の中で、ある階層から上の人たちだけがモチベーションが高く、下の人たちのモチベーションが低ければ、それは彼らが「実行」だけを求められているからです。上司が計画を立て、部下に実行だけを求めると、部下は上司の言われた通りにやらなければならない一方で、自分の意見をまったく聞いてもらえなければ、やりがいを持てません。
ドラッカー教授は人を大切にしていましたし、さらに「自由」も大切にしていました。ここで言う自由とは、「責任ある選択ができる状態」です。好き勝手やっていいというわけではなく、責任を伴います。つまり、計画と実行を分離させれば、自由がありませんから、モチベーションが低下してしまうのです。
組織を変えたければ、まずトップ層の底上げを図る
常盤:戦略を計画するのは経営幹部の仕事で、それを実行するのは現場だと思われることが多いですよね。これをどうしたら変えられるのでしょうか。
国永:企業の経営チームには、複数のメンバーがいると思います。ドラッカー教授は「経営者は一人というのは迷信である」とおっしゃっていました。つまり、経営者が一人で経営しようとする点に無理があるというわけです。経営者の仕事はレベルが高いですから、成功させるには分業が欠かせません。ですから、チームでの経営を目指さないといけないのです。
ドラッカー塾の参加者の方には、まず自分が学んだら、会社に帰って部下に実行を求めるのではなく、みずから先生となって教えてもらうようにしています。なぜなら、教えることを通して自分自身が学べるからです。そうすれば、学んでもらったメンバーとともに、自分たちはどうすればよいかを話し合い、意思決定する機会になります。計画を立てる時はワンランク上の目標設定に責任を持って参画するのが基本になります。自分が一部下だったとすれば、ワンランク上、つまり上司の目標を考えてみる。それを持ち寄って上司とともに話し合ってみるところから計画をつくっていきます。これが計画と実行を分離させない方法です。
ドラッカー教授は「組織の中の能力差は変わらない」という法則があると話していました。これはどういうことか。組織の中で能力の高い人のレベルがある地点にあり、平均がその下のある地点にあるとしましょう。この能力の高い人のレベルと平均の差は、「変わらない」というわけです。つまり、能力の高い方がさらに上のレベルに成長できれば、平均も自然と上がってくる。この原則を利用したほうがよいということです。
自分が学んだことを会社に帰って教えようと考えた時は、社員みんなに学んでもらおうとしてしまいがちです。しかし、最初から全体を底上げしようとすると、ついてこられない人がいます。ついてこられない人の割合が多いと、「やっても無駄」という認識がどんどん広まってしまい、その結果、足を引っ張られてしまいます。では、何から始めるべきか。全体の底上げではなく、まずは優秀な人材、数名のレベルをさらに上げるのです。そうして学んだ人たちに、次のクラスの人たちに先生となって教えてもらいます。つまり、全体を底上げするには、上から小さくスタートして、引き上げていくのです。計画を立てる場合も、まず経営チームから始めて、できたらその次といった形で進めていくと、時間はかかりますが、結果的に全体がいつの間にか変わると思います。
「数字」ではなく、「使命」を目標にする
常盤:どの切り口をとってもドラッカー教授の学びがありますね。「目先の数字を優先する体質なかなか変えられない」というお悩みには、どうお答えしますか。

国永:これも多いお悩みですね。これまでの経営は、売上げや利益などの数字が上がらなければ評価されない状況でした。経営者が、来年の目標数字を示した際、社員の方は何と思っているでしょうか。よく聞くのは「あれは、社長の目標だよな」という声です。つまり、社員の方にとっては「自分の目標」になっていないのです。数字の目標は、組織の一体感を生みません。その一方で、使命という目標は、一体感を生みます。人間は生まれつき、誰かに対して貢献したいという気持ちがあると、ドラッカー教授も言いますが、使命はそれをかき立ててくれます。ですから、使命を目指したほうが会社の業績はよくなります。ドラッカー塾で学んだ方々は実際に、「顧客に対する貢献を真剣に考えていこう」と決定した結果、業績を上げています。数字の目標を目指さないほうが、業績が上がるのです。
常盤:数字の目標を立てないというのは、すごく勇気がいることですよね。数字を目標にすると非常にわかりやすく、伝わりやすいですし。ただ、そうした目標が現場やあらゆるレイヤーの方たちを「貢献しよう」という気持ちにさせるのかというと、それはまた別の話ですね。
国永:結局、数字を上げようと思ったら「顧客に喜んでもらう価値を提供する」しかありません。それにもかかわらず、数字の目標だけを目指していたら、顧客に対する貢献を考えなくなるのです。顧客への貢献を追求すると、結果として、お客様に本当に喜んでもらうにはどうしたらいいかを真剣に考えて取り組むことになります。すると、お客様に商品やサービスを買っていただけて、数字が上がっていく。だから業績が上がる。それを最初に信じているかどうかが大きいでしょう。私自身、実際にそのように変わっていった方々をたくさん見ています。ですから皆さんも、周りに「数字、数字」と言わなくなって業績を上げた方々がいたら、ぜひ話を聞いてみてはいかがでしょうか。
特集『P.F.ドラッカーに学ぶ 真摯さ(インテグリティ)とリーダーシップ』はこちら
期間限定プレゼントのお知らせ
書籍『P. F. ドラッカー経営論』に掲載されているドラッカーの名論文「多元化する社会」のPDFを期間限定でプレゼント中です。
DHBR電子版の無料会員にご登録のうえ、対象論文をダウンロードください。
『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2025年12月号「P. F. ドラッカー『真摯さ(インテグリティ)』とは何か」
ピーター F. ドラッカーが逝去して20年。人間と社会の本質に迫るその思想は、いまなお世界の知識人に影響を及ぼし続けている。本特集ではドラッカー自身が何度も指摘していた「真摯さ」(インテグリティ)の重要性にあらためて光を当て、いまこの時代にどのように向き合っていくべきかを考える。
<お買い求めはこちら>
[Amazon.co.jp]







