ドラッカー塾®講師 国永秀男氏(左)と『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』編集長 常盤亜由子(右)
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イベントレポート「P. F. ドラッカー『真摯さ』(インテグリティ)とは何か」
①「インテグリティを体現していた「人間ドラッカー」の魅力」はこちら
②「インテグリティのある組織とない組織の違いとは何か」はこちら
③「なぜ「ドラッカーからの学び」を社員に浸透させられないのか、よくあるお悩みに答える」はこちら
ドラッカーがいまの世の中を見たら
リーダーに何とアドバイスするか
常盤:社会における自分の使命は何か、すでに言語化されている方は素晴らしいですが、まだ言語化できていないという方もいらっしゃると思います。さまざまな価値観がせめぎ合う現代で、何のためにどう貢献すればよいのか、わからなくなっている方もいるでしょう。そこで自分の使命を考える足掛かりとして、もしドラッカー教授がいまの2026年の世界をご覧になったら、どう考えられると国永先生は思われますか。
国永:これは、お答えするのが非常に難しい質問ですね。ドラッカー教授とお会いしていた2000年の頃、世間ではeラーニングが登場してきていました。そこで私からドラッカー教授に「これからeラーニングはどうなるでしょうか」と尋ねたのです。するとドラッカー教授は、「それについては、私はわからない」とはっきりおっしゃいました。いい加減な答えはいっさいされない方でしたから、それに倣って私もこのご質問には「わからない」と答えたいですね(笑)。
ただ、私の中でのイメージであえてお答えするなら、ドラッカー教授は「世界がどうあったとしても、リーダーは常にビジョンを持って前に進め」とおっしゃるような気がします。これまでの歴史の中ではさまざまな苦労や大変な出来事がたくさんありましたが、それを乗り越えてくれたのは世の中の企業のリーダーだと思います。企業には経営者がいて、その経営者がどのような世界をつくりたいかというビジョンが、結果として世の中をこれだけ豊かなものにしてくれています。そういった意味で、リーダー一人ひとりのビジョンが社会をつくっていくと思います。
ドラッカー教授は「未来について確実に言えることは、二つしかない。第一に、未来はわからないということ。第二に未来は現在と違うということである」とおっしゃるんですね。未来は予測するものではなく、経営者やリーダーがつくるものです。ですから私は、「未来を予測する最良の方法は、未来をつくることだ」という言葉が好きなんです。
ですから、ドラッカー教授がいまの世の中を見たら「未来はつくることができる。リーダーは自分で考えてそれに取り組んでいくことが求められている。世の中が困難であればあるほど、やりがいがある。自分たちがさらに貢献できる機会が生まれているのだから、自分たちはどの分野なら貢献できるかを見つけて、みずからの組織の使命にして取り組んでいってほしい」とおっしゃるように思います。
「いかに役に立てるか」を人生の軸にする
常盤:『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2025年12月号のドラッカー特集では、社会や世界の中でのインテグリティに焦点を当てようと、国際連合の事務次長を務めている中満泉さんにもお話を伺いました。「自分の中にぶれないモラルコンパスを持つ」というタイトルでインタビューをまとめたのですが、その中で印象に残った一節を読ませていただきます。
「命の危険にさらされた現地の女性2人を何とか安全な場所まで連れていかなければ、強制収容所に連れていかれるか殺されてしまうおそれすらあるという切迫した局面でした。そこで私は、彼女たちのために国連職員と身分を偽るIDカードを作成して持たせ、チェックポイントを通過しました。結局、処罰はされなかったのですが、これは明らかにルール違反ですから事後報告はしました。私としては自分たちが活動することの本質的な意味を考えた時に、彼女たちの命が守られるならば、それを優先すべきだと判断しました。なぜそういう規則があって、何を守りたいのかという本質を考えることが、私にとっては重要です。この時の行動がよかったとは申しませんが、常にそうやって本質を見極めることが重要だと考えています」
これこそが、中満さんが考えていらっしゃるモラルのコンパスであり、非常に印象的でしたのでご紹介いたしました。
そしてもうお一方、世界的ベストセラー『ビジョナリー・カンパニー』の著者であるジム・コリンズさんにも今回、お話を伺いました。ジムさんは現在68歳で、36歳の時にドラッカー教授にお会いされています。彼は人生の中でドラッカー教授に直接お会いされたのはこの一回だけだったそうですが、その日付もすべて覚えていらっしゃいました。それほどコリンズさんにとってあの日は、その後の彼の人生を決定づけた、とても大切な一日だったとおっしゃっていました。
彼は、30代で『ビジョナリー・カンパニー』を共同執筆され、世界的に名前を知られる存在になっていました。ドラッカー教授にお会いしたのは、今後自分のキャリアをどう築いていくかという岐路に立たされていたタイミングだったそうです。もちろん経営コンサルタントとして活躍すれば、安定した収入も約束されていました。一方で、『ビジョナリー・カンパニー』で発表したような大きな研究をしたいという気持ちもある。しかし、研究者としては不安定な道に進むことになるかもしれない。そういう時に、知人を介して、ドラッカー教授のご自宅を訪問されたというエピソードを語ってくださいました。
取材をしていると、コリンズさんがどんどん前のめりになってくるんです。それくらい本当に「昨日のことのように思い出される」と何度も話されていました。コリンズさんがドラッカー教授に会った際に受けたという、人生を決定づけるアドバイスについてご紹介します。
「あなたは自分がこれから生きていけるかを心配することに時間を使っていますね。それについて言えば、大丈夫、あなたは生きていけます。それから、成功できるかどうか(how to be successful)についても心配していますね。それは、間違った質問です。正しい問いは、いかに役に立てるか(how to be useful)ですよ」
How to be usefulというのは非常にシンプルな言葉ですが、コリンズさんは、この問いをドラッカー教授から投げかけられた瞬間に自分の人生は決まったとおっしゃっていました。世界的に著名な方ですから、講演や取材のご依頼は引きも切らずにあるそうです。そこで依頼を受けた際、自分がどれだけusefulになれるか、それを基準にお引き受けするか、お断りするかを決めていらっしゃるとのことでした。人生の残り時間は有限ですから、その中でどれだけ自分がusefulになれるか、その物差しで時間を使うことにしているというお話はとても印象的でした。
国永:素晴らしいですね。
常盤:皆さん、いかがでしょうか。インテグリティやミッション、ビジョンという話になると、自分にはそんな高尚なものはありませんといった反応をいただくことが少なくありません。ですが、けっしてそんなに大げさなものではなく、自分が組織に対してどういう貢献ができるかという視点で考えていくと、自ずとやるべきことがクリアになっていく感覚があるのではないかと思いました。
「何をもって憶えられたいか」
この問いに答えることから始める
国永:ドラッカー教授のマネジメントの中に、「何をもって憶えられたいか」という問いがありまして、それについてお話ししてもよろしいですか。
常盤:ぜひ、お願いいたします。
国永:今日ご参加の皆さんに、「インテグリティ」という言葉を聞いて、何となくわかったとしても、自分にはできないなと思って帰っていただきたくはありませんので、少しでも「やってみよう」と思っていただけたらと思っています。
「何をもって憶えられたいか」という問いは、「自分の人生にどのような意味を持たせたいか」という意味でもあります。この問いにはエピソードがあります。ドラッカー教授が13歳の頃に受けた宗教学の授業では、先生が牧師さんだったそうで、その先生が生徒全員に「何をもって憶えられたいかね」と聞いたことがあったそうです。その時、誰一人答えられなかったのですが、すると先生は「答えられると思って聞いたわけではない。でも50歳になっても答えられなければ、人生を無駄に過ごしたことになるよ」と言われたといいます。
その後、ドラッカー教授の中学生の頃の同窓会があり、その思い出話として皆が覚えていたのが、この「何をもって憶えられたいか」という問いでした。ドラッカー教授自身、80歳を超えてからも「いまもこのことについて考え続けている」と話されていました。
つまり、この問いに対する答えを持てるかどうかが、自分の人生に納得できるかどうかの差になってくるのではないでしょうか。自分は何のために生きているのかを考え、焦点がはっきりすると、方向性が定まり、そこに向けてやっていく力が湧いてくると思います。「いまの自分を超えて、なりうる自分になろうとするための問い」です。
ドラッカー教授の著作のほぼすべてを翻訳された上田惇生先生に、私はよく講義をお願いしていたのですが、毎回テーマが違っても、上田先生はいつも最初に、「何をもって憶えられたいか」の話をされていました。この問いは人生という航海における羅針盤や北極星のようなもので、これがなければ、日々の忙しさ、仕事に飲み込まれて、どこにもたどり着けないまま漂流してしまうことになります。当然、毎日目の前のことに意識が向きますが、ふと考えた時に、北極星を見て、「あの方向だな」とまた一歩踏み出していくように生きられるのではないか。この問いは一回きりのものではなく、生涯を通して問い続け更新し続けるべきものです。
ただ、この質問に答えるのが難しい人も多いと思います。その時にまず、「明日、お会いするお客様にどんな人として憶えてもらいたいか」と考えてみてはどうでしょうか。つまり、時間軸を短くして、対象も具体化して考えてみるのです。そうすると、自分が何をもって憶えられたいかが、だんだん見えてくるはずです。
たとえば、「今日の仕事終わりに、同僚から何と言われたいか」「このプロジェクトが終わった時、チームメンバーにどう記憶されていたいか」「今週末、家族にどのような存在として、受け止められたいか」というように、具体化することによって自分の価値観を確認していけると思います。
またその際は、自分の強みを使って、憶えられることが大切です。自分の強みを使わなければ、なかなか憶えてもらうことはできません。ドラッカー教授は、「人々の人生にもたらした違い」が唯一の価値だと語っていました。たとえばリーダーシップの場面なら、「メンバーが失敗を恐れずに新しい挑戦ができる状態になってほしい」。営業・接客の場面なら、「お客様の長年の悩みだったコストの問題から解放されて、笑顔になるきっかけをつくりたい」。こう考えると、誰かのために何かをしている気持ちが高まってくるはずです。
このように、何をもって憶えられたいかが見つかると、力が湧いてくる。ドラッカー教授は「人間は、貢献したい気持ちを生まれつき持っている」と語っていました。貢献したいことを自分の人生の目標にしていく。
「何をもって憶えられたいか」と「インテグリティ」。この2つは、納得のいく人生を送るための両輪といえます。まずは「何をもって憶えられたいか」の答えを持ち、人生の目的とずれない価値観を確立する。そのうえで、そうした価値観を裏切らず、他者との信頼関係の中で目的を実現するために日々の行動においてインテグリティを守り抜く必要がある。だからこそ、この2つをセットで考えるのです。
皆さんも、何をもって憶えられたいかを考えてみてください。その答えが腑に落ちたら、結果としてインテグリティを維持できるようになるはずです。答えがもうすでにある方はそれを追求して、インテグリティによって守り抜いてください。そういった意味で、「何をもって憶えられたいか」と「インテグリティ」の二つを、納得ある人生を送るための両輪だと捉えていただきたいですね。
常盤:ありがとうございます。国永先生のお話を伺いながら、今日イベントに参加された皆さんに、何をもってこの時間を憶えていただきたいだろうかと考えていました。印象に残ったものが一つでもあれば嬉しく思います。
国永:ありがとうございました。
特集『P.F.ドラッカーに学ぶ 真摯さ(インテグリティ)とリーダーシップ』はこちら
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