スター社員の模倣を促す人事評価をやめよう
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サマリー:マイクロソフトのスタック・ランキング制度は、従業員が共通のトップ人材を模倣し続ける仕組みであり、組織の多様性と学習を阻害していた。本稿では、評価情報の固定化と過度な模倣が新たな解決策の創出を妨げる問題点を指摘し、模倣対象をリアルタイムで更新し「実力差を意識する」ルールを導入することで、人材の多様性を組織のイノベーションへと結びつける学習システムの再設計を提案する。

マイクロソフトにおける従業員ランキング評価の問題点

 2012年、ジャーナリストのカート・アイケンワルドが『ヴァニティ・フェア』誌に寄稿した記事は、痛烈な事実を白日の下にさらした。マイクロソフトは、優秀な人材が競合他社と戦うのではなく、社内の人間同士で争う場になっているというのだ。元凶は、「スタック・ランキング」という人事考課制度だった。人事考課のたびに、マネジャーはあらかじめ定められた評価分布に従って、従業員を上位者と下位者に分類していた。ランキングの更新は年1回。従業員は皆、前回の人事考課で誰が上位者となったのかを知っていて、次の人事考課までその人たちを模倣した。

 それが問題だった。マイクロソフトは多様な人材という点では不自由なく、数十カ国から、さまざまなテクノロジーの経歴を持つ世界トップクラスの技術者が集まって、チームを構成していた。つまり、考え方や発想の多様性はチームにすでに備わっていた。それにもかかわらず、マイクロソフトは次第に凡庸な方向へと向かっていった。すべての従業員が同じロールモデルを追いかけたからである。

 これが、筆者らの最新の研究から導き出された結論だ。本研究では、計算モデルを開発して、マイクロソフトで採用されていたようなスタック・ランキング制度がパフォーマンスに与える影響を分析した。分析の結果、誰を採用するかが問題ではないことが明らかになった。より大きな問題は、皆が誰を模倣するのか、そして、その人の評価情報がどれだけ長く固定されるのかだった。筆者らの計算モデルには、多くの企業に見られる年次スタック・ランキング制度のロジックが組み込まれている。一人のトップパフォーマーを特定して、他の人々はその人を模倣し、ランキングは次の人事考課まで更新されないというものだ。

 このシステムでは、2つの失敗が生じる可能性がある。まず、オーバーシューティング(本来の目標を超えすぎてしまう現象)だ。従業員は、有益な手法を取り入れた後もトップパフォーマーを長く模倣し続けることで、自分ならではのやり方を失ってしまう。その結果、全体の学習としてはかえってマイナスになる。もう一つは「模倣対象の固定化」だ。スター社員は人事考課サイクルの開始時に指定され、それ以降は更新されない。サイクルが終わる頃までに、別の経路からパフォーマンスを伸ばしてきた従業員がいても、ランキングは更新されないため、誰もそれに気づかない。組織は過去のトップパフォーマーから学習し続ける。多様な知識を再結合させて、より優れた解決策を生み出すことはない。これこそ、本当の損失である。

研究からわかったこと

 知識の再結合(リコンビネーション)とは、異なる人々が持つ正しい実践方法を組み合わせて、より優れた解決策を生み出すことを意味する。これは、組織学習、イノベーション、戦略における中心的な課題だ。1991年、米国の社会学者であるジェームズ・マーチは、後に経営学分野で最も多く引用される論文の一つとなる研究を発表し、組織論、文化進化論、複雑系科学における考え方に大きな影響を与えた。マーチは計算モデルを用いて、組織のパフォーマンスは人々が時間をかけて互いから学ぶ時に向上することを示した。それ以来、ゆっくりと学習を進めることが多様な実践の維持につながり、組織が一つのやり方に早期に収束するのを防ぐという考え方が通説となった。

『ストラテジック・マネジメント・ジャーナル』誌に掲載予定の筆者らの研究は、同じ手法を用いてマーチの研究結果を再検証している。本研究では、組織において人々が互いを観察し、最もパフォーマンスが高い人の実践を模倣するという状況を、計算モデルによってシミュレートしている。シミュレーション上の各従業員は、複雑な問題に対して、部分的だが正しいと思われる答えを持っている。ただし、誰も完全な解決策を知らない。数千回に及ぶシミュレーションでは2つの要素、すなわち、最もパフォーマンスが高い人を模倣するペースと、システムがパフォーマンスの高い人についての情報を更新する頻度を変化させている。

 分析の結果、驚くべきことがわかった。緩慢なペースの学習はたしかに効果があるが、それは偶然の産物だったのだ。

 マーチのモデルは、大半の年次成績評価システム(スタック・ランキングなど)と同様、人事考課サイクルが終了するまで、トップパフォーマーについての評価情報を更新しない。学習速度が遅い場合、次の更新までに起こる模倣行動はわずかであるため、組織全体の状態は更新のたびにほとんど変わらない。すると、筆者らのモデルで特定された2つの失敗モード、オーバーシューティングと模倣対象の固定化は、めったに発生しない。理由は単純で、次の更新までほとんど変化がないからだ。まるで学習の遅さが役立ったように見えるが、実際のところは、たまたま評価情報が古くならなかっただけの話だ。